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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
デートと妖精 1
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雑貨屋リーベから寮に帰ってきたわたしは、ぼすんとベッドの上にダイブした。
アレクサンダー様はわたしのことが嫌いなのだろうに、帰るときには「私も寮に帰るのだから同じ方向だ」と言って女子寮の玄関前まで送ってくれた。
……冷たいし、結構容赦ないことを言うけど、優しいのよね、アレクサンダー様は。
やはりツンデレ要員な気がする。
ゲームではヒロインに対するツンの要素は感じられなかったが、アレクサンダー様はひとたび自分の内側に入れた人間に対してはとても優しい。
逆に、わたしのような嫌いな人間には容赦がないのだ。ゲームでも、マリアに対して容赦なかった。
わたしを毛嫌いしているアレクサンダー様がわたしにデレることは一生ないだろうが、もし、ヒロインのリコリスがアレクサンダー様と恋仲になったら、遠目からでも彼のデレる姿を目撃できるだろうか。
……でも、そのためにはアグネスにはこのまま眠り続けてもらわなくてはならないのよね。
シクシクと胸が痛い。
「お嬢様、服が皺になりますからルームウェアに着替えてください」
ヴィルマのお小言を聞いて、わたしはむくりと起き上がる。
「ねえヴィルマ、わたし、間違ってないわよね?」
「よくわかりませんが、わたくしは、お嬢様はいつも間違っていると思います」
……おい‼
いや、話の核心も伝えずにただ「間違ってないわよね?」と訊ねたわたしも悪いけど、その返し方はないんじゃないかしら?
だというのに、マリアはわたしの学園の制服をひっぺがしながら、さらなる追い打ちをかけてきた。
「そもそもお嬢様が間違った行動を取らなかったことがありますか?」
あるよ! あるでしょう⁉ 何それ、わたしの行動は全部間違いみたいな言い方は!
「第一、お嬢様はご自身の行動に正しさを求めたことはないじゃないですか。というか、どんなに間違っていることでも全部正しいと思ってまったく迷わず躊躇もせず突き進んでいくお嬢様が、間違っているか間違っていないかで悩む方がおかしいですよ。明日は槍が降りますね」
雨から槍に進化(?)したよ。
まあ、マリアは今まで散々好き勝手に生きてきた。周りの迷惑も考えず、本能の赴くままというか、自分が「こう!」と決めたら何も考えずに突き進んでいく、どうしようもない短慮な女だった。
実際にその短慮さは今のわたしもしっかりと受け継いでいるのではあるけれど、一応レベルアップしたわたしなので、多少なりとも考えることはするんです!
ヴィルマにルームウェアを着させてもらって、わたしはまたベッドにダイブする。
……まったく躊躇せずに突き進むって言うけど、今回ばかりはそれも無理なのよヴィルマ。わたしが躊躇せず、当初の目的通りゲームの進行を妨げない方向で突き進んだら、アグネスは今から一年も眠り続けなければいけないんだから。
十三歳のアグネスの、キラキラとした輝かしい一年を、わたしの決断一つで奪ってしまうのだ。
「ヴィルマ、夕食の時間までまだ一時間半あるでしょう? 少し一人にしてくれない?」
「かしこまりました」
ヴィルマが一礼して控室に下がっていく。
わたしはがさごぞと、枕の下に入れていたスマホを取り出した。
立ち上げて、ステータス画面を開く。
名前 マリア・アラトルソワ
誕生日 四月一日
称号 アラトルソワ公爵令嬢
レベル 一
魔力 五
習得魔法レベル 一
ポイント 0
まあ、そうだよね。
ただ日常を過ごしただけでポイントがたまるはずもない。
ある日突然一万ポイントくらい増えていて、レベルがたくさん上がって、レベルアップついでに知性とかもアップしないかな~なんて一瞬でも考えたわたしは本当にバカだ。
レベルが上がっても、知性が上がるはずがない。
ここは現実なのだから、勉強もせずに勉強ができるようになるはずもないのだ。
だからわたしの残念な脳は残念なままなので、いくら考えたって、正解を導き出すことはできない。
わたしはスマホを枕の下に戻すと、ごろんと仰向けに寝転がった。
来年になり、ゲームのストーリーがはじまれば、アグネスは目覚める。
……だから、大丈夫。だいじょう、ぶ。
そう自分に言い聞かせようとしたわたしの中で、もう一人のわたしが問いかける。
――本当に?
わたしは、その自分の問いに答えられなかった。
アレクサンダー様はわたしのことが嫌いなのだろうに、帰るときには「私も寮に帰るのだから同じ方向だ」と言って女子寮の玄関前まで送ってくれた。
……冷たいし、結構容赦ないことを言うけど、優しいのよね、アレクサンダー様は。
やはりツンデレ要員な気がする。
ゲームではヒロインに対するツンの要素は感じられなかったが、アレクサンダー様はひとたび自分の内側に入れた人間に対してはとても優しい。
逆に、わたしのような嫌いな人間には容赦がないのだ。ゲームでも、マリアに対して容赦なかった。
わたしを毛嫌いしているアレクサンダー様がわたしにデレることは一生ないだろうが、もし、ヒロインのリコリスがアレクサンダー様と恋仲になったら、遠目からでも彼のデレる姿を目撃できるだろうか。
……でも、そのためにはアグネスにはこのまま眠り続けてもらわなくてはならないのよね。
シクシクと胸が痛い。
「お嬢様、服が皺になりますからルームウェアに着替えてください」
ヴィルマのお小言を聞いて、わたしはむくりと起き上がる。
「ねえヴィルマ、わたし、間違ってないわよね?」
「よくわかりませんが、わたくしは、お嬢様はいつも間違っていると思います」
……おい‼
いや、話の核心も伝えずにただ「間違ってないわよね?」と訊ねたわたしも悪いけど、その返し方はないんじゃないかしら?
だというのに、マリアはわたしの学園の制服をひっぺがしながら、さらなる追い打ちをかけてきた。
「そもそもお嬢様が間違った行動を取らなかったことがありますか?」
あるよ! あるでしょう⁉ 何それ、わたしの行動は全部間違いみたいな言い方は!
「第一、お嬢様はご自身の行動に正しさを求めたことはないじゃないですか。というか、どんなに間違っていることでも全部正しいと思ってまったく迷わず躊躇もせず突き進んでいくお嬢様が、間違っているか間違っていないかで悩む方がおかしいですよ。明日は槍が降りますね」
雨から槍に進化(?)したよ。
まあ、マリアは今まで散々好き勝手に生きてきた。周りの迷惑も考えず、本能の赴くままというか、自分が「こう!」と決めたら何も考えずに突き進んでいく、どうしようもない短慮な女だった。
実際にその短慮さは今のわたしもしっかりと受け継いでいるのではあるけれど、一応レベルアップしたわたしなので、多少なりとも考えることはするんです!
ヴィルマにルームウェアを着させてもらって、わたしはまたベッドにダイブする。
……まったく躊躇せずに突き進むって言うけど、今回ばかりはそれも無理なのよヴィルマ。わたしが躊躇せず、当初の目的通りゲームの進行を妨げない方向で突き進んだら、アグネスは今から一年も眠り続けなければいけないんだから。
十三歳のアグネスの、キラキラとした輝かしい一年を、わたしの決断一つで奪ってしまうのだ。
「ヴィルマ、夕食の時間までまだ一時間半あるでしょう? 少し一人にしてくれない?」
「かしこまりました」
ヴィルマが一礼して控室に下がっていく。
わたしはがさごぞと、枕の下に入れていたスマホを取り出した。
立ち上げて、ステータス画面を開く。
名前 マリア・アラトルソワ
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まあ、そうだよね。
ただ日常を過ごしただけでポイントがたまるはずもない。
ある日突然一万ポイントくらい増えていて、レベルがたくさん上がって、レベルアップついでに知性とかもアップしないかな~なんて一瞬でも考えたわたしは本当にバカだ。
レベルが上がっても、知性が上がるはずがない。
ここは現実なのだから、勉強もせずに勉強ができるようになるはずもないのだ。
だからわたしの残念な脳は残念なままなので、いくら考えたって、正解を導き出すことはできない。
わたしはスマホを枕の下に戻すと、ごろんと仰向けに寝転がった。
来年になり、ゲームのストーリーがはじまれば、アグネスは目覚める。
……だから、大丈夫。だいじょう、ぶ。
そう自分に言い聞かせようとしたわたしの中で、もう一人のわたしが問いかける。
――本当に?
わたしは、その自分の問いに答えられなかった。
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