21 / 83
第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
事情聴取とお説教 2
しおりを挟む
「魔石研究部」はその名の通り、魔石を研究する部活動である。
ブルーメ学園には多数の部活が存在しているが、お兄様が所属しているのはその中でもマイナーな「魔石研究部」だ。
この世界でも前世と同じで、スポーツ系の部活が花形で、それ以外の文科系の部活はどちらかと言えば地味な方である。その中でも「魔石研究部」は、研究に必要とされる魔法習得レベルが高い割には作業が地味なので人気がなく、部員も十名に満たない。
「歩く媚薬」の異名を持つお兄様が所属していることで、入部希望者は多かったが(特に女性!)、入部条件が、火土水風の四属性すべての上級魔法を取得していること、というとんでもなく高いレベルを掲げているため、希望はあっても入部できる人はほとんどいないのだ。
……つまり「魔石研究部」に所属しているお兄様は、全属性の上級魔法が使えるってことよ。お兄様のスペックが高すぎて、ちょっと引くわ~。
そしてお兄様は現在この「魔石研究部」において部長を務めていらっしゃる。
とはいえ、「魔石研究部」は部内で協力して何かを研究するというよりは、各々好きに研究する個人プレイな部活のようで、部室にはそこにある備品を取りに来る時くらいにしか来ないらしい。
……なので、現在この部室には、他の部員は誰もいないのでござるよ。
「座りなさい」
部室の中央に置かれているテーブルを指さしてお兄様がお命じになる。
わたしがしょぼんとしながら椅子に座ると、お兄様は座らずにわたしの目の前に立った。
「さてマリア、私が言いたいことはわかるかい?」
「……わかりません」
わたしは一昨日の夜のことは覚えていませんからね! ええ、覚えていないことになっているんです! だから「わかります」なんて言えません。わかるけども!
お兄様は一昨日の夜にわたしが言いつけを守らずに城の外に出て、炎の勢いが一番ひどい危険な場所までやってきたことを、それはそれは怒っていらっしゃるのだ。
お兄様はあからさまなため息をついた。
「マリア、お兄様はね、お前の行動をすべて制限して管理したいわけではないんだよ。お前にはお前の自由意思がある。それはできる限り尊重してあげたいと、そう思っている」
……できる限り尊重した結果、ついこの前までのマリアの奇行も見て見ぬふりをしていらっしゃったんですね!
って、思わず内心で茶化したくなったけれど、いつになく真剣なお兄様に対してそんな茶々は入れられない。
わかっています。
わたしだって、言いつけを守らなかったことに対して、反省していないわけではないのだ。
でも、あのときはどうしてか、そうすることが最善だと思っていたのである。そして、そうしなければならないと思ったのである。
とはいえ、説明を求められても説明できないから、やっぱりわたしは知らないふりをしてとぼけるしかない。
「でもね、危ないことはしてほしくないんだ。初級魔法すらまともに使えないお前では自衛もできない。そんな赤子同然なお前が、それなりの魔法の使い手ですら油断すれば焼け死んでしまうような危険な場所にやって来るなんて、私は寿命がいくらか縮む思いだったよ」
……赤子同然は評価が低すぎやしないかな~。
と、思ったけれど、これにも逆らわず、わたしは神妙に頷いた。
お兄様を心配させてしまったのは間違いないので、反論なんてしてはならないのである。
わたしがしょぼーんとうつむいていると、お兄様が苦笑してわたしの顔に手を伸ばしてくる。
みょーんと頬を引っ張られて、「ひひゃいです」と抗議すると、もう片方の頬も引っ張られた。何故に!
左右両方の頬をお餅のように引っ張られて、わたしはむーっとお兄様を睨む。
「本当はもっとしっかり叱ってやろうと思ったんだが、覚えていないお前にこれ以上のお説教は無意味だろうね」
ごめんなさいお兄様。覚えているんです。でもこれ以上のお説教は怖いので絶対に白状しません。
「マリア、おにいちゃまはマリアのせいでとっても心労がたまってしまった。これはマリアが癒してくれないとダメだと思うんだが、どう思うだろうか?」
お兄様の口調が茶化すようなものに変わったので、お説教は終わったのだろうとわたしはホッとした。
それにしても、癒すとは、お兄様はわたしに何をさせたいのだろう。
頬を引っ張られたまま首をひねると、お兄様はいたずらっ子のように綺麗な紫紺の瞳を細める。
「次の土曜は、お兄様とデートしようか。お兄様はマリアとゆっくり町を散歩したい気分だよ」
よくわからないが、そんなことでお兄様は癒されてくれるのだろうか。
わたしが「ひゃい」と返事をすると、お兄様はようやくわたしのほっぺたを解放してくれる。
可愛い格好をしておいでねと言われて、わたしはふと、「ブルーメ」のデートイベントを思い出した。
あれ?
お兄様は攻略対象じゃないし、わたしもヒロインではありませんけど、これってもしかして、衣装によって親密度が変わるあのイベントですか?
さすがにここは現実なのでそれはないと思ったけれど、適当な格好をしていくと大変な目に遭うようないやな予感を感じますよ。
そう言う予感には従っておいた方がいい気がするので、わたしは急いで衣装を買いに行こうと決心する。
……少なくともあのバニーガールの衣装だけは、絶対に着てはいけませんね‼
ブルーメ学園には多数の部活が存在しているが、お兄様が所属しているのはその中でもマイナーな「魔石研究部」だ。
この世界でも前世と同じで、スポーツ系の部活が花形で、それ以外の文科系の部活はどちらかと言えば地味な方である。その中でも「魔石研究部」は、研究に必要とされる魔法習得レベルが高い割には作業が地味なので人気がなく、部員も十名に満たない。
「歩く媚薬」の異名を持つお兄様が所属していることで、入部希望者は多かったが(特に女性!)、入部条件が、火土水風の四属性すべての上級魔法を取得していること、というとんでもなく高いレベルを掲げているため、希望はあっても入部できる人はほとんどいないのだ。
……つまり「魔石研究部」に所属しているお兄様は、全属性の上級魔法が使えるってことよ。お兄様のスペックが高すぎて、ちょっと引くわ~。
そしてお兄様は現在この「魔石研究部」において部長を務めていらっしゃる。
とはいえ、「魔石研究部」は部内で協力して何かを研究するというよりは、各々好きに研究する個人プレイな部活のようで、部室にはそこにある備品を取りに来る時くらいにしか来ないらしい。
……なので、現在この部室には、他の部員は誰もいないのでござるよ。
「座りなさい」
部室の中央に置かれているテーブルを指さしてお兄様がお命じになる。
わたしがしょぼんとしながら椅子に座ると、お兄様は座らずにわたしの目の前に立った。
「さてマリア、私が言いたいことはわかるかい?」
「……わかりません」
わたしは一昨日の夜のことは覚えていませんからね! ええ、覚えていないことになっているんです! だから「わかります」なんて言えません。わかるけども!
お兄様は一昨日の夜にわたしが言いつけを守らずに城の外に出て、炎の勢いが一番ひどい危険な場所までやってきたことを、それはそれは怒っていらっしゃるのだ。
お兄様はあからさまなため息をついた。
「マリア、お兄様はね、お前の行動をすべて制限して管理したいわけではないんだよ。お前にはお前の自由意思がある。それはできる限り尊重してあげたいと、そう思っている」
……できる限り尊重した結果、ついこの前までのマリアの奇行も見て見ぬふりをしていらっしゃったんですね!
って、思わず内心で茶化したくなったけれど、いつになく真剣なお兄様に対してそんな茶々は入れられない。
わかっています。
わたしだって、言いつけを守らなかったことに対して、反省していないわけではないのだ。
でも、あのときはどうしてか、そうすることが最善だと思っていたのである。そして、そうしなければならないと思ったのである。
とはいえ、説明を求められても説明できないから、やっぱりわたしは知らないふりをしてとぼけるしかない。
「でもね、危ないことはしてほしくないんだ。初級魔法すらまともに使えないお前では自衛もできない。そんな赤子同然なお前が、それなりの魔法の使い手ですら油断すれば焼け死んでしまうような危険な場所にやって来るなんて、私は寿命がいくらか縮む思いだったよ」
……赤子同然は評価が低すぎやしないかな~。
と、思ったけれど、これにも逆らわず、わたしは神妙に頷いた。
お兄様を心配させてしまったのは間違いないので、反論なんてしてはならないのである。
わたしがしょぼーんとうつむいていると、お兄様が苦笑してわたしの顔に手を伸ばしてくる。
みょーんと頬を引っ張られて、「ひひゃいです」と抗議すると、もう片方の頬も引っ張られた。何故に!
左右両方の頬をお餅のように引っ張られて、わたしはむーっとお兄様を睨む。
「本当はもっとしっかり叱ってやろうと思ったんだが、覚えていないお前にこれ以上のお説教は無意味だろうね」
ごめんなさいお兄様。覚えているんです。でもこれ以上のお説教は怖いので絶対に白状しません。
「マリア、おにいちゃまはマリアのせいでとっても心労がたまってしまった。これはマリアが癒してくれないとダメだと思うんだが、どう思うだろうか?」
お兄様の口調が茶化すようなものに変わったので、お説教は終わったのだろうとわたしはホッとした。
それにしても、癒すとは、お兄様はわたしに何をさせたいのだろう。
頬を引っ張られたまま首をひねると、お兄様はいたずらっ子のように綺麗な紫紺の瞳を細める。
「次の土曜は、お兄様とデートしようか。お兄様はマリアとゆっくり町を散歩したい気分だよ」
よくわからないが、そんなことでお兄様は癒されてくれるのだろうか。
わたしが「ひゃい」と返事をすると、お兄様はようやくわたしのほっぺたを解放してくれる。
可愛い格好をしておいでねと言われて、わたしはふと、「ブルーメ」のデートイベントを思い出した。
あれ?
お兄様は攻略対象じゃないし、わたしもヒロインではありませんけど、これってもしかして、衣装によって親密度が変わるあのイベントですか?
さすがにここは現実なのでそれはないと思ったけれど、適当な格好をしていくと大変な目に遭うようないやな予感を感じますよ。
そう言う予感には従っておいた方がいい気がするので、わたしは急いで衣装を買いに行こうと決心する。
……少なくともあのバニーガールの衣装だけは、絶対に着てはいけませんね‼
793
お気に入りに追加
2,056
あなたにおすすめの小説
【コミカライズ2月28日引き下げ予定】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。
氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。
私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。
「でも、白い結婚だったのよね……」
奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。
全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。
一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。
断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」

【完結】元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。

困りました。縦ロールにさよならしたら、逆ハーになりそうです。《改訂版》
新 星緒
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢アニエス(悪質ストーカー)に転生したと気づいたけれど、心配ないよね。だってフラグ折りまくってハピエンが定番だもの。
趣味の悪い縦ロールはやめて性格改善して、ストーカーしなければ楽勝楽勝!
……って、あれ?
楽勝ではあるけれど、なんだか思っていたのとは違うような。
想定外の逆ハーレムを解消するため、イケメンモブの大公令息リュシアンと協力関係を結んでみた。だけどリュシアンは、「惚れた」と言ったり「からかっただけ」と言ったり、意地悪ばかり。嫌なヤツ!
でも実はリュシアンは訳ありらしく……

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!
ペトラ
恋愛
ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。
戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。
前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。
悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。
他サイトに連載中の話の改訂版になります。

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる