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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
二日目 メインイベント魔物討伐 4
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指定された討伐場所に向かうと、目印だろうか、大きな杉の木があった。
「さてと、サクッと終わらせよう」
お兄様が周囲に張り巡らせていた魔物よけの結界を解くと、しばらくして、がさがさと茂みを揺らす音がして、一角ウサギが三頭現れる。
「「きゃあああ!」」
新入生二人が、悲鳴を上げてアレクサンダー様の背中にしがみついた。
「アレクサンダー、右の一体を頼むよ。残りは私が対処しよう。……さあマリア、ここいらで、先輩の威厳を見せるところじゃあないかな?」
確かに、お兄様の言う通りである。
何といってもわたしは今年から二学年! 今日までダメダメだったけれど、少しくらいいいところを見せたい! ……と、お兄様に乗せられる当たり、わたしは本当にお花畑思考な女である。ちょっと考えれば、わたしの魔法レベルでは役に立つどころか足手まといでしかないのはわかっただろうに。
しかし乗せられたわたしは、ルンルンで一角ウサギに向かって両手を突き出した。
「世界の根源を司る四柱のうち火の精霊サラマンダーよ、我の呼びかけに応え、その大いなる御力の片鱗を我に授けたまえ――ファイアーボール‼」
お兄様ほどの魔法の使い手になれば、ファイアーボールなんて初級魔法は詠唱なしで行使できるが、わたしはそうではない。
そして、ぶっちゃけ、この初級魔法を使うだけで魔力が底をつくほど、わたしは魔力がない。
渾身の魔力を込めたわたしのファイアーボールがつき出した手のひらからふよふよと――そう、ふよふよと! 何とも力ない感じでシャボン玉のようにゆらゆらのろのろと一角ウサギに向かって飛んでいく。
「…………」
はい、そんな目で見ないでください。
お兄様だけではなく、アレクサンダー様や新入生二人も、唖然とした顔でわたしを見つめている。
わたしののろのろファイアーボールは、もちろんすばしっこい一角ウサギに簡単によけられて、ついでにぱちんと、本当にシャボン玉のようにはじけて消えた。
わーぉ! ファイアーボールって弾けて消えるんだ~! しらなかった~ うふふ~。
なあんて、わたしは現実逃避をすることにした。
そうでもしなければ恥ずかしくて泣きそうだからだ。
いいもん、いいんだもん、今年から頑張るんだもん。頑張ったってたいした進化は見込めないかもしれないけど頑張るんだもん。だからそんな目で見ないで!
顔を真っ赤に染めていると、お兄様が「仕方のない子だねえ」と言わんばかりに困った顔で微笑んだ。
そして、軽く手を振る。
お兄様の動きは緩慢だったのに、閃かせた手のひらからは、信じられないほど早い風魔法カマイタチが飛び出して行って、二頭の一角ウサギの角を一度に両断してしまった。
どさり、と一角ウサギが音を立ててその場に倒れる。
倒された魔物は、そのままさらさらと砂のように崩れて、最後に魔石が残されるのだ。
一角ウサギの魔石は、黄緑色をしているのね。
お兄様が二つの魔石を拾い上げて、アレクサンダー様に視線を向けた。
「アレクサンダー、さっさと倒してくれ」
わたしの情けなさすぎるファイアボールにあっけに取られていたらしいアレクサンダー様が、ハッとしたように手をひるがえす。アレクサンダー様の放った鋭い水の刃ウォーターカッターが一角ウサギの角を切り落とした。
……お兄様もだけど、アレクサンダー様も無詠唱ですか。いえ、わかっていましたけどね。わたしと違って大変優秀なのは‼
アレクサンダー様が一角ウサギを倒し終えると、お兄様は杉の木の枝にリボンを結んで、再び魔物よけの結界を張った。
「よし、帰ろうか」
こうして、お兄様とアレクサンダー様の二人のおかげで、魔物討伐はいともあっさりと終了したのだった。
「さてと、サクッと終わらせよう」
お兄様が周囲に張り巡らせていた魔物よけの結界を解くと、しばらくして、がさがさと茂みを揺らす音がして、一角ウサギが三頭現れる。
「「きゃあああ!」」
新入生二人が、悲鳴を上げてアレクサンダー様の背中にしがみついた。
「アレクサンダー、右の一体を頼むよ。残りは私が対処しよう。……さあマリア、ここいらで、先輩の威厳を見せるところじゃあないかな?」
確かに、お兄様の言う通りである。
何といってもわたしは今年から二学年! 今日までダメダメだったけれど、少しくらいいいところを見せたい! ……と、お兄様に乗せられる当たり、わたしは本当にお花畑思考な女である。ちょっと考えれば、わたしの魔法レベルでは役に立つどころか足手まといでしかないのはわかっただろうに。
しかし乗せられたわたしは、ルンルンで一角ウサギに向かって両手を突き出した。
「世界の根源を司る四柱のうち火の精霊サラマンダーよ、我の呼びかけに応え、その大いなる御力の片鱗を我に授けたまえ――ファイアーボール‼」
お兄様ほどの魔法の使い手になれば、ファイアーボールなんて初級魔法は詠唱なしで行使できるが、わたしはそうではない。
そして、ぶっちゃけ、この初級魔法を使うだけで魔力が底をつくほど、わたしは魔力がない。
渾身の魔力を込めたわたしのファイアーボールがつき出した手のひらからふよふよと――そう、ふよふよと! 何とも力ない感じでシャボン玉のようにゆらゆらのろのろと一角ウサギに向かって飛んでいく。
「…………」
はい、そんな目で見ないでください。
お兄様だけではなく、アレクサンダー様や新入生二人も、唖然とした顔でわたしを見つめている。
わたしののろのろファイアーボールは、もちろんすばしっこい一角ウサギに簡単によけられて、ついでにぱちんと、本当にシャボン玉のようにはじけて消えた。
わーぉ! ファイアーボールって弾けて消えるんだ~! しらなかった~ うふふ~。
なあんて、わたしは現実逃避をすることにした。
そうでもしなければ恥ずかしくて泣きそうだからだ。
いいもん、いいんだもん、今年から頑張るんだもん。頑張ったってたいした進化は見込めないかもしれないけど頑張るんだもん。だからそんな目で見ないで!
顔を真っ赤に染めていると、お兄様が「仕方のない子だねえ」と言わんばかりに困った顔で微笑んだ。
そして、軽く手を振る。
お兄様の動きは緩慢だったのに、閃かせた手のひらからは、信じられないほど早い風魔法カマイタチが飛び出して行って、二頭の一角ウサギの角を一度に両断してしまった。
どさり、と一角ウサギが音を立ててその場に倒れる。
倒された魔物は、そのままさらさらと砂のように崩れて、最後に魔石が残されるのだ。
一角ウサギの魔石は、黄緑色をしているのね。
お兄様が二つの魔石を拾い上げて、アレクサンダー様に視線を向けた。
「アレクサンダー、さっさと倒してくれ」
わたしの情けなさすぎるファイアボールにあっけに取られていたらしいアレクサンダー様が、ハッとしたように手をひるがえす。アレクサンダー様の放った鋭い水の刃ウォーターカッターが一角ウサギの角を切り落とした。
……お兄様もだけど、アレクサンダー様も無詠唱ですか。いえ、わかっていましたけどね。わたしと違って大変優秀なのは‼
アレクサンダー様が一角ウサギを倒し終えると、お兄様は杉の木の枝にリボンを結んで、再び魔物よけの結界を張った。
「よし、帰ろうか」
こうして、お兄様とアレクサンダー様の二人のおかげで、魔物討伐はいともあっさりと終了したのだった。
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