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第一部 悪役令嬢未満、お兄様と結婚します!
二日目 メインイベント魔物討伐 3
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十五分ほど歩いたところで、わたしたちは休憩を取ることにした。
わたしや新入生二人がいるので、ぶっ通しで三十分歩くのは酷だとアレクサンダー様が判断したようだ。
……貴族令嬢のほとんどは体力がないからね‼
この湖畔地帯は毎年オリエンテーションで使うため、生徒が移動する範囲は遊歩道が作られている。貴族の子女に山道を歩けと言うのは酷だからだろう。
ゆえに、わたしたちも目的地まで遊歩道を歩いてきていたのだが、この遊歩道には等間隔にベンチが置かれているのだ。
さすが、お貴族学園のイベント。
至れり尽くせりである。
ベンチに座ると、わたしはお兄様からリュックを受け取り、持参してきていた蜂蜜とレモン入りの水を取り出した。
アレクサンダー様と新入生二人は、わたしたちの斜め前のベンチに座っている。
お水飲みますかって訊こうと思ったけど、すでに三人は、アレクサンダー様が魔法で生み出した水で喉を潤していた。
……睨まれたらいやだから、余計なことは言わないでおこうっと。
わたしがコップに水をそそぐと、お兄様が魔法で小さな氷の欠片を作ってコップに落としてくれた。
お兄様は、呼吸をするように魔法を使う。
「なるほど、これはいいね。味が濃すぎないがまたいい」
お兄様は蜂蜜とレモン入りの水がお気に召したようだ。
わたしも、お兄様のおかげで冷たい水が飲めて大満足である。
「それにしても、ここまでまったく魔物に遭遇しませんね。去年は討伐場所に到着するまでに何体か遭遇したんですけど」
「魔物よけの結界を張っているからねえ」
「え⁉」
わたしは驚いてお兄様を見た。
お兄様は、何故わたしが驚くのかわからないという顔をしている。
「当たり前だろう? 目的地まで歩かないといけないのに、次々と魔物に遭遇したら面倒くさいじゃないか。どうせ目的地まで行かなくてはならないのなら、魔物はそこで討伐すればいいんだよ。道中の雑魚の相手はしたくない」
……雑魚。
まあ、お兄様にとって、このあたりに出てくる弱い魔物は雑魚なのかもしれないが、わたしにとっては、恐らく自分一人では倒せないレベルのものですよ。
それにしても、お兄様ってば、歩きながらわたしたちの周りに魔物よけの結界を張っていたの? どこまで有能なんだ「歩く媚薬」‼
「まあ、魔物よけの結界と言っても、強い魔物には効果がないけどね。ただ、このあたりは一角ウサギやスライムとかの弱い魔物しかいないから、結界を張っていたら近寄ってこないよ」
一角ウサギやスライムが弱いというけど、あいつらはすばしっこくて、わたしとしてはあまり遭遇したくない魔物だった。
そして、一角ウサギの角は鋭くて長いので大変危険だし、スライムは触れたら粘液で溶かされるのでこちらも大変危ない魔物だ。生命値が高くないので、こちらの攻撃が当たりさえすれば簡単に討伐できるが、素早いのでなかなか当たらない。
しかしお兄様レベルになると、呼吸をするように倒してしまえるのだろう。
……うん、お兄様が魔物よけの結界を張ってくれててよかった!
魔物の討伐法は学園の授業で習う。
去年の初級魔物討伐の授業で、一角ウサギもスライムも、倒し方は教えてもらった。が! わたしは真面目に授業を聞いていなかったので、はっきり言って倒し方は曖昧だ。
スライムは氷魔法で凍らせた後に砕くか、炎魔法で蒸発させればいいみたいなことを言っていた気がするけど、一角ウサギについてはまったく覚えていない。
ほほほほほ、ダメな子! 本当にダメな子ねマリア! 毎年オリエンテーションで魔物討伐のイベントがあるとわかっていながら、何故このあたりに生息しているスライムや一角ウサギの討伐方法を頭に叩き込んでいないの⁉
どうせ「わたしはこんなに可愛いんですもの、殿方が守ってくださるのですわ、おほほほほほほ!」とか残念なことを考えていたに違いない。と言うか考えていた。うん。授業中に魔物の討伐方法を聞かずに、いかに可憐に守ってもらうか、その方法を考えていた覚えがある。わたしのあほー!
「そんなに不安な顔をしなくとも、一角ウサギは角を切り落とせば討伐できるし、スライムも結界魔法を応用して足止めした後に燃やすか凍らせるかすればいい。討伐なんてすぐ終わるよ」
なるほど、一角ウサギは角を切り落とせば倒せるんですね!
そしてスライムは結界魔法を応用して足止めする、と!
ほうほう、と頷いていると、お兄様が水を飲み干して半眼になった。
「マリア、私が今言ったことは、去年の授業で習ったはずなんだが……さては、聞いていなかったんだね」
ぎくぅ!
「お前、そんなことで今年の授業についていけるのかい? おにいちゃまは心配になって来たよ」
ぎくぎくぅ!
わたしはだらだらと冷や汗をかきつつ、虚勢を張って「ほほほほほ」と笑った。
「心配無用ですわお兄様! マリアは大丈夫です!」
ああ、見栄っ張りでダメな部分のわたしが登場しちゃったよ。大丈夫なわけあるか‼
「ふぅん? まあ、学園の一学年のときの授業なんて、入学前に家庭教師に教えてもらったことがほとんどだからね、大丈夫か」
……あれ? そうだったっけ?
家庭教師、家庭教師……そう言えばそんな人がいた気もするけど、わたしは家庭教師についてお勉強する時間に何をしていたのかしら~? ああそうだった。家庭教師の先生とお茶とお菓子を食べて「うふふ」「あはは」とおしゃべりしていたんだったわ~!
家庭教師の先生もサービス業なので、学ぶつもりのない子を椅子に縛り付けて勉強させようなんてことはしない。そんなことをして公爵家のご令嬢の機嫌を損ねると一発でクビにされるからだ。ゴマすり上等。そんな先生たちは、わたしの格好の遊び相手だった。ああ、穴を掘って地中深くに埋まりたい‼
もう、過去のわたしがあまりにもひどくて吐血レベルですよ!
燃え尽きた、燃え尽きたよわたしは。何もしていないけれど真っ白い灰になりそうだよ‼
……オリエンテーションから帰ったら急いで去年の復習をするんだもん! 復習と言っても全然授業を聞いた覚えがないから復習なんてレベルじゃないだろうけど復習するんだもん‼
去年までの自分の行いを猛省するだけで休憩時間が終わってしまった。
とりあえずお兄様から教えてもらった一角ウサギとスライムの倒し方を頭に叩き込んで、わたしは討伐場所に向かって歩き出そうとして――
「こらこらマリア、どこに行くつもりだい?」
二手に分かれた道を右に進もうとしたわたしは、お兄様に手首をつかまれた。
「え、こっちですよね?」
「違う、左の道だよ。マリア、地図も読めなくなったのかい?」
すると、目の前を歩いていた新入生二人がくすくすと笑い出す。
この二人、確か伯爵家と子爵家のご令嬢だけど、わたしを完全に下に見ている。
まあ、わたしは公爵令嬢で一学年先輩ですけど、去年一年間でやらかしたわたしの問題行動の数々は学園でも有名でしょうからね。バカにしたくなる気持ちはわかるけど。
でもね、お嬢さん方。
前世の記憶を取り戻す前のわたしなら、バカにされたと気づいた時点で、その頬をひっぱたくくらいはしていたと思うよ。今のわたしはしないけどね。そして、わたしは公爵令嬢だから、わたしに叩かれたと親に泣きついても、公爵家の権力の前ではどうすることもできなかったはずよ。わたしも大概だけど、すこしは考えた方がいいよ。
貴族社会は良くも悪くも権力社会だ。
学園の中で許されることも、学園を一歩外に出たら許されない。
もし、わたしを笑ったのがここではなくどこかの家のパーティーとかなら、大変なことになっていたと思うよ。
わたしに言えたことじゃないけど、腹芸は身に着けておいたほうがいい。
もちろん、そんな忠告をしようものなら、またわたしが悪者になるのだろうから言わないけどね。わたし以外の誰かにやらかす前に、二人が学習することを祈るよ。
……うん、まあすでに、お兄様の顔が怖いけどね。
お兄様は腹芸が得意なので、一見するとにこにこと微笑んでいるように見えるけど、たぶんこれは相当おかんむりだ。
新入生二人は昨日からずっとわたしへの態度がひどかったので、お兄様はそのたびにわずかに表情を動かしていたけど……これ、オリエンテーションのあとが怖いなあ。
お父様もわたしに激甘なので、お兄様からの報告を聞けば黙ってはいまい。
アラトルソワ公爵家から二人の家に苦情が入るのは間違いないだろう。
……あー、これでまたわたしの悪評が立ったらどうしよう。
でも、わたしが苦情は入れないでって言っても、聞いてもらえるはずがない。
馬鹿にされたのはわたしだが、わたしが馬鹿にされたと言うことは、つまりはアラトルソワ公爵家が馬鹿にされたと言うことだ。公爵家の威厳にかけて、このまま放置はできないのである。わたしが許しても、公爵家の当主であるお父様と次期当主であるお兄様が許さない。
……でも、おっかしいな~。地図に印がつけてある目的地は、右の道を行った先にあるのに。
うーんと首をひねっていると、わたしに「地図が読めない女」というレッテルを貼ったお兄様が、わたしの手から地図を奪い取った。
「マリア、お前は地図を見なくていいから、お兄様についておいで」
「……はい」
何とも腑に落ちない気分だが、わたし以外の四人が左の道だというのだからそうなのだろう。
わたしは内心で首をひねりつつ、お兄様たちと共に左の道へ曲がった。
わたしや新入生二人がいるので、ぶっ通しで三十分歩くのは酷だとアレクサンダー様が判断したようだ。
……貴族令嬢のほとんどは体力がないからね‼
この湖畔地帯は毎年オリエンテーションで使うため、生徒が移動する範囲は遊歩道が作られている。貴族の子女に山道を歩けと言うのは酷だからだろう。
ゆえに、わたしたちも目的地まで遊歩道を歩いてきていたのだが、この遊歩道には等間隔にベンチが置かれているのだ。
さすが、お貴族学園のイベント。
至れり尽くせりである。
ベンチに座ると、わたしはお兄様からリュックを受け取り、持参してきていた蜂蜜とレモン入りの水を取り出した。
アレクサンダー様と新入生二人は、わたしたちの斜め前のベンチに座っている。
お水飲みますかって訊こうと思ったけど、すでに三人は、アレクサンダー様が魔法で生み出した水で喉を潤していた。
……睨まれたらいやだから、余計なことは言わないでおこうっと。
わたしがコップに水をそそぐと、お兄様が魔法で小さな氷の欠片を作ってコップに落としてくれた。
お兄様は、呼吸をするように魔法を使う。
「なるほど、これはいいね。味が濃すぎないがまたいい」
お兄様は蜂蜜とレモン入りの水がお気に召したようだ。
わたしも、お兄様のおかげで冷たい水が飲めて大満足である。
「それにしても、ここまでまったく魔物に遭遇しませんね。去年は討伐場所に到着するまでに何体か遭遇したんですけど」
「魔物よけの結界を張っているからねえ」
「え⁉」
わたしは驚いてお兄様を見た。
お兄様は、何故わたしが驚くのかわからないという顔をしている。
「当たり前だろう? 目的地まで歩かないといけないのに、次々と魔物に遭遇したら面倒くさいじゃないか。どうせ目的地まで行かなくてはならないのなら、魔物はそこで討伐すればいいんだよ。道中の雑魚の相手はしたくない」
……雑魚。
まあ、お兄様にとって、このあたりに出てくる弱い魔物は雑魚なのかもしれないが、わたしにとっては、恐らく自分一人では倒せないレベルのものですよ。
それにしても、お兄様ってば、歩きながらわたしたちの周りに魔物よけの結界を張っていたの? どこまで有能なんだ「歩く媚薬」‼
「まあ、魔物よけの結界と言っても、強い魔物には効果がないけどね。ただ、このあたりは一角ウサギやスライムとかの弱い魔物しかいないから、結界を張っていたら近寄ってこないよ」
一角ウサギやスライムが弱いというけど、あいつらはすばしっこくて、わたしとしてはあまり遭遇したくない魔物だった。
そして、一角ウサギの角は鋭くて長いので大変危険だし、スライムは触れたら粘液で溶かされるのでこちらも大変危ない魔物だ。生命値が高くないので、こちらの攻撃が当たりさえすれば簡単に討伐できるが、素早いのでなかなか当たらない。
しかしお兄様レベルになると、呼吸をするように倒してしまえるのだろう。
……うん、お兄様が魔物よけの結界を張ってくれててよかった!
魔物の討伐法は学園の授業で習う。
去年の初級魔物討伐の授業で、一角ウサギもスライムも、倒し方は教えてもらった。が! わたしは真面目に授業を聞いていなかったので、はっきり言って倒し方は曖昧だ。
スライムは氷魔法で凍らせた後に砕くか、炎魔法で蒸発させればいいみたいなことを言っていた気がするけど、一角ウサギについてはまったく覚えていない。
ほほほほほ、ダメな子! 本当にダメな子ねマリア! 毎年オリエンテーションで魔物討伐のイベントがあるとわかっていながら、何故このあたりに生息しているスライムや一角ウサギの討伐方法を頭に叩き込んでいないの⁉
どうせ「わたしはこんなに可愛いんですもの、殿方が守ってくださるのですわ、おほほほほほほ!」とか残念なことを考えていたに違いない。と言うか考えていた。うん。授業中に魔物の討伐方法を聞かずに、いかに可憐に守ってもらうか、その方法を考えていた覚えがある。わたしのあほー!
「そんなに不安な顔をしなくとも、一角ウサギは角を切り落とせば討伐できるし、スライムも結界魔法を応用して足止めした後に燃やすか凍らせるかすればいい。討伐なんてすぐ終わるよ」
なるほど、一角ウサギは角を切り落とせば倒せるんですね!
そしてスライムは結界魔法を応用して足止めする、と!
ほうほう、と頷いていると、お兄様が水を飲み干して半眼になった。
「マリア、私が今言ったことは、去年の授業で習ったはずなんだが……さては、聞いていなかったんだね」
ぎくぅ!
「お前、そんなことで今年の授業についていけるのかい? おにいちゃまは心配になって来たよ」
ぎくぎくぅ!
わたしはだらだらと冷や汗をかきつつ、虚勢を張って「ほほほほほ」と笑った。
「心配無用ですわお兄様! マリアは大丈夫です!」
ああ、見栄っ張りでダメな部分のわたしが登場しちゃったよ。大丈夫なわけあるか‼
「ふぅん? まあ、学園の一学年のときの授業なんて、入学前に家庭教師に教えてもらったことがほとんどだからね、大丈夫か」
……あれ? そうだったっけ?
家庭教師、家庭教師……そう言えばそんな人がいた気もするけど、わたしは家庭教師についてお勉強する時間に何をしていたのかしら~? ああそうだった。家庭教師の先生とお茶とお菓子を食べて「うふふ」「あはは」とおしゃべりしていたんだったわ~!
家庭教師の先生もサービス業なので、学ぶつもりのない子を椅子に縛り付けて勉強させようなんてことはしない。そんなことをして公爵家のご令嬢の機嫌を損ねると一発でクビにされるからだ。ゴマすり上等。そんな先生たちは、わたしの格好の遊び相手だった。ああ、穴を掘って地中深くに埋まりたい‼
もう、過去のわたしがあまりにもひどくて吐血レベルですよ!
燃え尽きた、燃え尽きたよわたしは。何もしていないけれど真っ白い灰になりそうだよ‼
……オリエンテーションから帰ったら急いで去年の復習をするんだもん! 復習と言っても全然授業を聞いた覚えがないから復習なんてレベルじゃないだろうけど復習するんだもん‼
去年までの自分の行いを猛省するだけで休憩時間が終わってしまった。
とりあえずお兄様から教えてもらった一角ウサギとスライムの倒し方を頭に叩き込んで、わたしは討伐場所に向かって歩き出そうとして――
「こらこらマリア、どこに行くつもりだい?」
二手に分かれた道を右に進もうとしたわたしは、お兄様に手首をつかまれた。
「え、こっちですよね?」
「違う、左の道だよ。マリア、地図も読めなくなったのかい?」
すると、目の前を歩いていた新入生二人がくすくすと笑い出す。
この二人、確か伯爵家と子爵家のご令嬢だけど、わたしを完全に下に見ている。
まあ、わたしは公爵令嬢で一学年先輩ですけど、去年一年間でやらかしたわたしの問題行動の数々は学園でも有名でしょうからね。バカにしたくなる気持ちはわかるけど。
でもね、お嬢さん方。
前世の記憶を取り戻す前のわたしなら、バカにされたと気づいた時点で、その頬をひっぱたくくらいはしていたと思うよ。今のわたしはしないけどね。そして、わたしは公爵令嬢だから、わたしに叩かれたと親に泣きついても、公爵家の権力の前ではどうすることもできなかったはずよ。わたしも大概だけど、すこしは考えた方がいいよ。
貴族社会は良くも悪くも権力社会だ。
学園の中で許されることも、学園を一歩外に出たら許されない。
もし、わたしを笑ったのがここではなくどこかの家のパーティーとかなら、大変なことになっていたと思うよ。
わたしに言えたことじゃないけど、腹芸は身に着けておいたほうがいい。
もちろん、そんな忠告をしようものなら、またわたしが悪者になるのだろうから言わないけどね。わたし以外の誰かにやらかす前に、二人が学習することを祈るよ。
……うん、まあすでに、お兄様の顔が怖いけどね。
お兄様は腹芸が得意なので、一見するとにこにこと微笑んでいるように見えるけど、たぶんこれは相当おかんむりだ。
新入生二人は昨日からずっとわたしへの態度がひどかったので、お兄様はそのたびにわずかに表情を動かしていたけど……これ、オリエンテーションのあとが怖いなあ。
お父様もわたしに激甘なので、お兄様からの報告を聞けば黙ってはいまい。
アラトルソワ公爵家から二人の家に苦情が入るのは間違いないだろう。
……あー、これでまたわたしの悪評が立ったらどうしよう。
でも、わたしが苦情は入れないでって言っても、聞いてもらえるはずがない。
馬鹿にされたのはわたしだが、わたしが馬鹿にされたと言うことは、つまりはアラトルソワ公爵家が馬鹿にされたと言うことだ。公爵家の威厳にかけて、このまま放置はできないのである。わたしが許しても、公爵家の当主であるお父様と次期当主であるお兄様が許さない。
……でも、おっかしいな~。地図に印がつけてある目的地は、右の道を行った先にあるのに。
うーんと首をひねっていると、わたしに「地図が読めない女」というレッテルを貼ったお兄様が、わたしの手から地図を奪い取った。
「マリア、お前は地図を見なくていいから、お兄様についておいで」
「……はい」
何とも腑に落ちない気分だが、わたし以外の四人が左の道だというのだからそうなのだろう。
わたしは内心で首をひねりつつ、お兄様たちと共に左の道へ曲がった。
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