120 / 163
第二部 すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く
婚約 5
しおりを挟む
ベッドメイクをすることはあっても、ウォレスのベッドに横になるのははじめてだ。
心臓が壊れそうだった。
本来、侍女が落とすべき部屋の灯りをウォレスが落として、隣にもぐりこむ。
指一本すら動かせないほど硬直して、浅い息を繰り返していると、隣のウォレスがもぞもぞと動いてサーラを腕の中に抱き込んだ。
「……何もしない」
かすれた声が、耳元でした。
「だからそんなにがちがちにならないでくれ。……なんだか、悪いことをしている気になる」
悪いことかどうかは、サーラにはわからないが、推奨されるようなことではないだろう。
天蓋のカーテンを落としたベッドの中は、まるで外界と隔離されて狭い箱の中のようだ。
誰もいない。
二人きり。
ウォレスの息遣いや鼓動が、まるでこの狭い箱の世界のすべてであるかのように思える。
伝わってくる体温が、熱いくらいだった。
ウォレスがゆっくりとサーラの髪に指を滑らせる。
バスルームでの話の続きを、と思ったが、緊張しすぎてとてもではないがサーラは口がきけそうになかった。
「……四月五日までは、このままの関係で。それでいいか?」
髪を梳き、額や頬に唇を寄せ、ウォレスがささやく。
サーラが頷けば、口づけが落ちてきた。
一度離れ、またくっつき、深くなる。
はっと途中で大きく息を継げば、ウォレスが唇を放してこつんと額同士をくっつけた。
「それから、四月五日が過ぎても、侍女をやめないでほしい」
「……はい」
おそらく、すでにサーラを自陣に組み込んだつもりでいるアルフレッドが辞めさせるはずがないが、自分の意思でサーラは頷く。
たとえ関係が変わっても、サーラはウォレスが許す限り側にいるつもりだ。
城にいなければレナエルたちの動向を探れないという理由も大きいが、なによりサーラが、ウォレスから離れたくなかった。
彼の周りにはサーラがついていなくとも人はいるけれど、彼が甘えられる人物は少ない。
関係が変わればウォレスはサーラに甘えなくなるかもしれないけれど、無理をしていないかどうか、少なくともしばらくの間は彼を見ていたかった。
――たとえそれが、つらくとも。
ウォレスが再びサーラの唇を塞ぎ、頬を、首をくすぐってきた。
けれども、おずおずとサーラがウォレスの背中に腕を回したとき、「……まずい」とくぐもった声がして唇が離される。
「何か話をしよう。冷静になれる話がいい」
「え……、と」
「深くは聞くな」
サーラはボッと赤くなった。
ウォレスがサーラから少し距離を取って、けれどもきゅっとサーラの手を握ると仰向けになる。
「えーと、えーと……」
必死に何か話題を探そうとしているウォレスに、サーラは噴き出した。
しばらく唸っていたウォレスは、何か話題を思いついたようだ。「ああそうだった!」と声を上げる。
「少し前のライチの件があっただろう?」
「バラケ男爵の件ですよね」
「ああ。アルフレッドが調べたんだが。少々不可解なことがわかった」
「不可解、ですか?」
バラケ男爵を殺害したのは、その後死んだ執事である。
少なくともサーラとアルフレッドの見解は執事が犯人で一致していた。
しかし執事が他殺だったため、彼に指示を出し男爵を殺害至らしめた人物がいるはずで、それについてはとある農家がライチの温室栽培に成功したらしいという情報を男爵本人、もしくは執事にもたらした人物が有力候補だ。
「ライチの温室栽培の件だがな、農家によると、栽培に成功したものの売り出すほどのレベルではなく、実をつけたのは実験的に温室で栽培していたライチの木の一本だけだそうだ。それを知っていたのは、近所の人間と、農家が報告を上げたので領主……ビュイソン侯爵とその周辺。それから……レナエルの専属護衛官のラウルだという。ラウルはビュンソン侯爵から聞いて、農家に直接連絡を取ったらしい。レナエルがライチが好きなのだが、ライチはもう熟しているのかと。農家に宛てて送られた手紙が残っていて、アルフレッドが農家から買い取った」
「専属護衛官ってことは、去年の成婚パレードの際に、レジスを殺したあの専属護衛官ですか?」
「そうだ」
サーラもウォレスと同じく天井を見上げた。一点に視点を固定しつつ、うーんと唸る。
「確認ですが、ビュンソン侯爵とラウルはどこに接点があったのでしょう。それから、まあ、聞かなくともわかるような気がしますが、ビュンソン侯爵は第一王子派閥ですか?」
第一王子妃の専属護衛官が親しくするのであれば、ビュンソン侯爵は第二王子派閥ではなかろう。
案の定、ウォレスはちらりとサーラを見て頷いた。
「そうだ。ビュンソン侯爵は兄上の派閥の、しかも筆頭に近いところにいる貴族だ。ビュンソン侯爵とラウルの接点だが、確実なところはわかっていないが、アルフレッドの予測だと、十一月の終わりにビュンソン侯爵家のタウンハウスで開かれたパーティーではないかということだ。レナエルも兄上とともに参加していて、ラウルも護衛として同行した」
(十一月の終わり、ね)
なるほど、そのあたりで情報を仕入れていたのならば、計画を練る時間は充分にあっただろう。
「つまり現時点の容疑者は、ビュンソン侯爵とラウルということですよね」
「そうなるが、そうなると不可解なのが派閥の問題だ。バラケ男爵は兄上の派閥だ。相手が男爵だとはいえ、派閥内の勢力を削るようなことをするか?」
「そうですよね……」
しかし、引っかかるのはレナエルの専属護衛官である。
あちらは、パレードに乱入してすでに騎士たちに取り押さえられていたにもかかわらず、そのレジスを殺したという、不可解な前科がある。
本人はレナエルを守るためだと主張したそうだが、過剰防衛もいいところだった。
そしてレナエルとともにヴォワトール国にやって来た彼女の兄フィリベール・シャミナードも不可解な行動を取っていた。
この件につながりがないと言い切れない。
「例えばの話ですが、バラケ男爵が例の贋金の件に絡んでいたということはないですか?」
「それはないと思うが、可能性はゼロではないな。アルフレッドも探ったようだが、情報を仕入れるにしても限界がある。サーラはラウルが怪しいと思っているのか?」
「……すみません。どうしてもシャミナード公爵側だと思うだけで怪しく思えてしまいます」
「謝ることはない。君の気持は理解できる」
ウォレスはそう言うが、客観性を欠いてはならないだろう。
思い込みで判断すると、いつか大変な間違いを犯しそうで怖い。
過去の両親の冤罪を晴らすにしても、サーラ自身が客観的に判断しつつ証拠を集めなくてはならないのだ。
恨みを忘れるのは難しいが、感情的になってはならない。
「さすがに証拠も揃っていないのに本人たちを事情聴取はできませんもんね」
「ああ」
下手につつけば、こちらが隙を突かれる結果になりかねない。
ここまで情報を集めてアルフレッドが動かないのは、動けないからだろう。
「この問題はいったん棚上げですか」
「そうなるだろうな。アルフレッドが悔しそうだった」
「前から少し思っていたんですけど、アルフレッド様は敵対派閥を陥れるのが好きなんでしょうか。突く隙を見つけるとすごく楽しそうな顔をするんですが」
「まあ、兄上の派閥連中には、過去に散々やられているからな。まあ、こちらもやり返していたようなので、どっちもどっちだと思うが」
(ははーん、つまりは意趣返しもあるわけね)
アルフレッドがやられっぱなしで黙っているはずがない。
使えるものは養女でも使って、とにかくあちらを攻撃するネタを探し回っているのだろう。
「派閥同士の喧嘩は面倒くさそうですね」
「そうだな。だが派閥でも全員が全員ではないぞ。派閥を超えてうまく付き合っている連中もいる。アルフレッドのような売られた喧嘩は買うタイプがバチバチやっているだけだ」
「ブノアさんは穏やかそうなのに」
「ブノアもな……。あれはあれで普段は穏やかなんだが、やられて黙っているタイプではないから、攻撃されれば倍返しくらいはするぞ」
「そうなんですか?」
「攻撃されなければ何もしないがな。……タイプが違うように見えても、ブノアはアルフレッドの父親だ」
(あー……)
サーラの中の素敵紳士の印象がちょっと変わりそうだ。
ブノアは確かにあの変人の父親である。
「あの、もう一つ訊いてもいいですか?」
「なんだ?」
「セザール殿下とレナエル妃の関係は良好なんでしょうか?」
不可解なことを訊かれたと、ウォレスが目を丸くする。
「兄上の夫婦関係か? どうなんだろうな……。結婚式をしてからは、特に話は聞かないが……。何故そんなことが気になる? ……まさか、君、兄上に気があるんじゃないだろうな」
「ありませんよ!」
どうしてそうなる。
ただ、あの弟が大好きで食えない第一王子のことだ。
セザールがレナエルとの結婚を選択したのも、何か裏がありそうな気がするのである。
(順当に考えると、レナエルを娶った方が王位に近づくのに、セザール殿下は自分がレナエルを娶ったのよね)
セザールはウォレスを蹴落とそうとは考えていない。
むしろ、サーラの勘では、ウォレスをサポートしているような気がしてならないのだ。
そうであるならば、むしろレナセルを自分の妃にせずウォレスと結婚させた方が、セザールとしては都合がよかったような気がするのである。
(セザール殿下の考えがわかったら楽なんだけど。感情を隠すのは得意そうだし、本音がわからないから考えがまとまらないわ)
セザールがレナエルとどのくらい親密なのかによっても、今後の動きが変わる。
あの男は敵に回したくないが、もしサーラが過去の自分の両親の冤罪を張らすべく、レナエルやフィリベール・シャミナードを探っていたら、彼は敵に回るのだろうか。
もしラウルがバラケ男爵殺害に関係していて、主であるレナエルの指示であったと仮定すると、レナエルとセザールの関係が重要である。関係性によってはセザールも絡んでいる可能性が浮上するからだ。
考え込んでいると、ウォレスがぎゅうっと抱き着いてきた。
「私と別れても、兄上のところには行くな」
「何を言っているんですか?」
ウォレスが突然わけのわからないことを言い出した。
「君は私のものだ」
「……だから、わたしはセザール殿下のことは何とも思っていませんよ」
この困った王子様は焼きもちを焼いてしまったようだ。
ウォレスの機嫌が降下してしまったので、話はこのくらいで切りやめたほうがいい。
「そろそろ寝ましょう?」
サーラをぎゅうぎゅうに抱きしめたウォレスは、「うん」とどこか拗ねた声で頷いた。
心臓が壊れそうだった。
本来、侍女が落とすべき部屋の灯りをウォレスが落として、隣にもぐりこむ。
指一本すら動かせないほど硬直して、浅い息を繰り返していると、隣のウォレスがもぞもぞと動いてサーラを腕の中に抱き込んだ。
「……何もしない」
かすれた声が、耳元でした。
「だからそんなにがちがちにならないでくれ。……なんだか、悪いことをしている気になる」
悪いことかどうかは、サーラにはわからないが、推奨されるようなことではないだろう。
天蓋のカーテンを落としたベッドの中は、まるで外界と隔離されて狭い箱の中のようだ。
誰もいない。
二人きり。
ウォレスの息遣いや鼓動が、まるでこの狭い箱の世界のすべてであるかのように思える。
伝わってくる体温が、熱いくらいだった。
ウォレスがゆっくりとサーラの髪に指を滑らせる。
バスルームでの話の続きを、と思ったが、緊張しすぎてとてもではないがサーラは口がきけそうになかった。
「……四月五日までは、このままの関係で。それでいいか?」
髪を梳き、額や頬に唇を寄せ、ウォレスがささやく。
サーラが頷けば、口づけが落ちてきた。
一度離れ、またくっつき、深くなる。
はっと途中で大きく息を継げば、ウォレスが唇を放してこつんと額同士をくっつけた。
「それから、四月五日が過ぎても、侍女をやめないでほしい」
「……はい」
おそらく、すでにサーラを自陣に組み込んだつもりでいるアルフレッドが辞めさせるはずがないが、自分の意思でサーラは頷く。
たとえ関係が変わっても、サーラはウォレスが許す限り側にいるつもりだ。
城にいなければレナエルたちの動向を探れないという理由も大きいが、なによりサーラが、ウォレスから離れたくなかった。
彼の周りにはサーラがついていなくとも人はいるけれど、彼が甘えられる人物は少ない。
関係が変わればウォレスはサーラに甘えなくなるかもしれないけれど、無理をしていないかどうか、少なくともしばらくの間は彼を見ていたかった。
――たとえそれが、つらくとも。
ウォレスが再びサーラの唇を塞ぎ、頬を、首をくすぐってきた。
けれども、おずおずとサーラがウォレスの背中に腕を回したとき、「……まずい」とくぐもった声がして唇が離される。
「何か話をしよう。冷静になれる話がいい」
「え……、と」
「深くは聞くな」
サーラはボッと赤くなった。
ウォレスがサーラから少し距離を取って、けれどもきゅっとサーラの手を握ると仰向けになる。
「えーと、えーと……」
必死に何か話題を探そうとしているウォレスに、サーラは噴き出した。
しばらく唸っていたウォレスは、何か話題を思いついたようだ。「ああそうだった!」と声を上げる。
「少し前のライチの件があっただろう?」
「バラケ男爵の件ですよね」
「ああ。アルフレッドが調べたんだが。少々不可解なことがわかった」
「不可解、ですか?」
バラケ男爵を殺害したのは、その後死んだ執事である。
少なくともサーラとアルフレッドの見解は執事が犯人で一致していた。
しかし執事が他殺だったため、彼に指示を出し男爵を殺害至らしめた人物がいるはずで、それについてはとある農家がライチの温室栽培に成功したらしいという情報を男爵本人、もしくは執事にもたらした人物が有力候補だ。
「ライチの温室栽培の件だがな、農家によると、栽培に成功したものの売り出すほどのレベルではなく、実をつけたのは実験的に温室で栽培していたライチの木の一本だけだそうだ。それを知っていたのは、近所の人間と、農家が報告を上げたので領主……ビュイソン侯爵とその周辺。それから……レナエルの専属護衛官のラウルだという。ラウルはビュンソン侯爵から聞いて、農家に直接連絡を取ったらしい。レナエルがライチが好きなのだが、ライチはもう熟しているのかと。農家に宛てて送られた手紙が残っていて、アルフレッドが農家から買い取った」
「専属護衛官ってことは、去年の成婚パレードの際に、レジスを殺したあの専属護衛官ですか?」
「そうだ」
サーラもウォレスと同じく天井を見上げた。一点に視点を固定しつつ、うーんと唸る。
「確認ですが、ビュンソン侯爵とラウルはどこに接点があったのでしょう。それから、まあ、聞かなくともわかるような気がしますが、ビュンソン侯爵は第一王子派閥ですか?」
第一王子妃の専属護衛官が親しくするのであれば、ビュンソン侯爵は第二王子派閥ではなかろう。
案の定、ウォレスはちらりとサーラを見て頷いた。
「そうだ。ビュンソン侯爵は兄上の派閥の、しかも筆頭に近いところにいる貴族だ。ビュンソン侯爵とラウルの接点だが、確実なところはわかっていないが、アルフレッドの予測だと、十一月の終わりにビュンソン侯爵家のタウンハウスで開かれたパーティーではないかということだ。レナエルも兄上とともに参加していて、ラウルも護衛として同行した」
(十一月の終わり、ね)
なるほど、そのあたりで情報を仕入れていたのならば、計画を練る時間は充分にあっただろう。
「つまり現時点の容疑者は、ビュンソン侯爵とラウルということですよね」
「そうなるが、そうなると不可解なのが派閥の問題だ。バラケ男爵は兄上の派閥だ。相手が男爵だとはいえ、派閥内の勢力を削るようなことをするか?」
「そうですよね……」
しかし、引っかかるのはレナエルの専属護衛官である。
あちらは、パレードに乱入してすでに騎士たちに取り押さえられていたにもかかわらず、そのレジスを殺したという、不可解な前科がある。
本人はレナエルを守るためだと主張したそうだが、過剰防衛もいいところだった。
そしてレナエルとともにヴォワトール国にやって来た彼女の兄フィリベール・シャミナードも不可解な行動を取っていた。
この件につながりがないと言い切れない。
「例えばの話ですが、バラケ男爵が例の贋金の件に絡んでいたということはないですか?」
「それはないと思うが、可能性はゼロではないな。アルフレッドも探ったようだが、情報を仕入れるにしても限界がある。サーラはラウルが怪しいと思っているのか?」
「……すみません。どうしてもシャミナード公爵側だと思うだけで怪しく思えてしまいます」
「謝ることはない。君の気持は理解できる」
ウォレスはそう言うが、客観性を欠いてはならないだろう。
思い込みで判断すると、いつか大変な間違いを犯しそうで怖い。
過去の両親の冤罪を晴らすにしても、サーラ自身が客観的に判断しつつ証拠を集めなくてはならないのだ。
恨みを忘れるのは難しいが、感情的になってはならない。
「さすがに証拠も揃っていないのに本人たちを事情聴取はできませんもんね」
「ああ」
下手につつけば、こちらが隙を突かれる結果になりかねない。
ここまで情報を集めてアルフレッドが動かないのは、動けないからだろう。
「この問題はいったん棚上げですか」
「そうなるだろうな。アルフレッドが悔しそうだった」
「前から少し思っていたんですけど、アルフレッド様は敵対派閥を陥れるのが好きなんでしょうか。突く隙を見つけるとすごく楽しそうな顔をするんですが」
「まあ、兄上の派閥連中には、過去に散々やられているからな。まあ、こちらもやり返していたようなので、どっちもどっちだと思うが」
(ははーん、つまりは意趣返しもあるわけね)
アルフレッドがやられっぱなしで黙っているはずがない。
使えるものは養女でも使って、とにかくあちらを攻撃するネタを探し回っているのだろう。
「派閥同士の喧嘩は面倒くさそうですね」
「そうだな。だが派閥でも全員が全員ではないぞ。派閥を超えてうまく付き合っている連中もいる。アルフレッドのような売られた喧嘩は買うタイプがバチバチやっているだけだ」
「ブノアさんは穏やかそうなのに」
「ブノアもな……。あれはあれで普段は穏やかなんだが、やられて黙っているタイプではないから、攻撃されれば倍返しくらいはするぞ」
「そうなんですか?」
「攻撃されなければ何もしないがな。……タイプが違うように見えても、ブノアはアルフレッドの父親だ」
(あー……)
サーラの中の素敵紳士の印象がちょっと変わりそうだ。
ブノアは確かにあの変人の父親である。
「あの、もう一つ訊いてもいいですか?」
「なんだ?」
「セザール殿下とレナエル妃の関係は良好なんでしょうか?」
不可解なことを訊かれたと、ウォレスが目を丸くする。
「兄上の夫婦関係か? どうなんだろうな……。結婚式をしてからは、特に話は聞かないが……。何故そんなことが気になる? ……まさか、君、兄上に気があるんじゃないだろうな」
「ありませんよ!」
どうしてそうなる。
ただ、あの弟が大好きで食えない第一王子のことだ。
セザールがレナエルとの結婚を選択したのも、何か裏がありそうな気がするのである。
(順当に考えると、レナエルを娶った方が王位に近づくのに、セザール殿下は自分がレナエルを娶ったのよね)
セザールはウォレスを蹴落とそうとは考えていない。
むしろ、サーラの勘では、ウォレスをサポートしているような気がしてならないのだ。
そうであるならば、むしろレナセルを自分の妃にせずウォレスと結婚させた方が、セザールとしては都合がよかったような気がするのである。
(セザール殿下の考えがわかったら楽なんだけど。感情を隠すのは得意そうだし、本音がわからないから考えがまとまらないわ)
セザールがレナエルとどのくらい親密なのかによっても、今後の動きが変わる。
あの男は敵に回したくないが、もしサーラが過去の自分の両親の冤罪を張らすべく、レナエルやフィリベール・シャミナードを探っていたら、彼は敵に回るのだろうか。
もしラウルがバラケ男爵殺害に関係していて、主であるレナエルの指示であったと仮定すると、レナエルとセザールの関係が重要である。関係性によってはセザールも絡んでいる可能性が浮上するからだ。
考え込んでいると、ウォレスがぎゅうっと抱き着いてきた。
「私と別れても、兄上のところには行くな」
「何を言っているんですか?」
ウォレスが突然わけのわからないことを言い出した。
「君は私のものだ」
「……だから、わたしはセザール殿下のことは何とも思っていませんよ」
この困った王子様は焼きもちを焼いてしまったようだ。
ウォレスの機嫌が降下してしまったので、話はこのくらいで切りやめたほうがいい。
「そろそろ寝ましょう?」
サーラをぎゅうぎゅうに抱きしめたウォレスは、「うん」とどこか拗ねた声で頷いた。
72
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

笑わない妻を娶りました
mios
恋愛
伯爵家嫡男であるスタン・タイロンは、伯爵家を継ぐ際に妻を娶ることにした。
同じ伯爵位で、友人であるオリバー・クレンズの従姉妹で笑わないことから氷の女神とも呼ばれているミスティア・ドゥーラ嬢。
彼女は美しく、スタンは一目惚れをし、トントン拍子に婚約・結婚することになったのだが。

虐げられた私、ずっと一緒にいた精霊たちの王に愛される〜私が愛し子だなんて知りませんでした〜
ボタニカルseven
恋愛
「今までお世話になりました」
あぁ、これでやっとこの人たちから解放されるんだ。
「セレス様、行きましょう」
「ありがとう、リリ」
私はセレス・バートレイ。四歳の頃に母親がなくなり父がしばらく家を留守にしたかと思えば愛人とその子供を連れてきた。私はそれから今までその愛人と子供に虐げられてきた。心が折れそうになった時だってあったが、いつも隣で見守ってきてくれた精霊たちが支えてくれた。
ある日精霊たちはいった。
「あの方が迎えに来る」
カクヨム/なろう様でも連載させていただいております

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?
瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」
婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。
部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。
フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。
ざまぁなしのハッピーエンド!
※8/6 16:10で完結しました。
※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。
※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる