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第二部 すべてを奪われた少女は隣国にて返り咲く
誰が男爵を殺したのか 2
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要領を得ないのでアルフレッドに詳細を聞いたところ、少し長くなるからお茶でも飲みながら話をしようということになった。
アルフレッドが呼びつけたメイドがティーセットを用意して下がると、サーラはウォレスの隣に腰かける。
アルフレッドが片眉を跳ね上げた。
「マリア、侍女が主の隣に腰かけてはいけません。さあ、パパの隣にいらっしゃい」
「行かすか‼」
確かにその通りだと腰を浮かせかけたサーラの腕を、ウォレスがすかさずつかんで押しとどめる。
三男オーディロンは関わらないことに決めたようで、わざとらしく窓の外を見やりながら「わー、今日は雪が降りそうだなあ」などと大きな独り言をつぶやいていた。
マルセルは彫像のように扉の前から動かない。
普段はウォレスの執務室にブノアもいるそうだが、今日は仕事があって不在だった。
ブノアは、第二王子付きの侍従長という立場らしい。つまりお偉いさんで、護衛から補佐官、侍女まで、ウォレスの側近をすべて束ねる立場にあるそうだ。
そんなお偉いさんに、趣味で借りている下町の邸の執事のまねごとをさせていたというのだから驚きである。
もっと言えば、パン屋で店番までさせたのだが、考えるだけで頭が痛くなりそうなのでやめておくことにした。
ちなみに侍従長という職は、王宮内庁と呼ばれる王族のプライベートから公務までのすべてを管理している機関の長官の一人だ。
一番上には国王の侍従長が君臨しているが、第一王子と第二王子の侍従長は横並びなので、すなわちブノアは横並びの王宮内庁ナンバーツーの立場である。権限的には大臣と同等だ。
「仕方がないですね。マルセル、人が入ってこないようにしっかりと扉を守っているんですよ。侍女を隣に侍らせている殿下の様子を誰かに見せるわけにはいきません」
(侍らせるって……言い方……)
言葉の意味合いとしては間違っているわけではないが、もう少し別の言い方はできないものだろうか。
ウォレスもムッと眉を寄せて、目の前の紅茶に手を伸ばす。
「ええっと……それで、具体的には何があったんですか?」
男爵が死亡し、子爵が容疑者になっているというのは理解できたが、それしか情報が得られていない。
貴族がらみの血なまぐさい事件は侍女の仕事の領分を超えている気がするが、アルフレッドは何を言ってもサーラを巻き込むつもりでいるようなので、とりあえず話を聞いてみないことにははじまらないだろう。
アルフレッドがウォレスに視線を向けた。
「何か新しい情報は得られましたか?」
「いや……」
聞けば、ウォレスが離席していたのは、その事件の調査報告で駆り出されていたかららしい。
しかし、男爵の死亡事件に王子が引っ張り出されるのは妙な話である。
「最初から説明いたしましょう。まず、三日前の十二月十七日の夜、コルシェ子爵家でパーティーがありました。死亡したバラケ男爵はそのパーティーに出席しましたが、途中で体調不良を訴えて帰宅しています。その後、奥方によると男爵は嘔吐し、やがて意識が混濁。そのまま意識が戻ることなく、昨日の十二月十九日の朝、息を引き取りました」
「あの、それでどうして、コルシェ子爵に容疑がかかっているのでしょうか?」
「バラケ男爵はパーティーに向かうまではとても元気だったそうなのですよ。持病もありません。それが急に体調を崩して死んだとあれば、パーティーで、例えば毒物か何かが盛られた可能性があると、第一王子派の人間が騒ぎ立てたんです」
「第一王子派の人間?」
「ああ、そこの説明も必要ですか。つまり、死んだバラケ男爵は第一王子セザール殿下を擁立しようとしている派閥の人間であり、容疑がかかっているコルシェ子爵は殿下――第二王子オクタヴィアン殿下を擁立しようとしている派閥である、ということです」
(……なるほど)
これは単純な死亡事件ではなかったということだ。
それならば王子が駆り出されたのもわからないでない。
第二王子派閥の人間が、第一王子派閥の勢力をそぐために事件を起こしたと騒がれれば、ウォレスだって静観できないだろう。
ウォレスが関与していなくとも、世間的にはその言い分が通されると厄介である。
(だから、コルシェ子爵を容疑者から外したい、と)
最初から引っかかってはいた。
アルフレッドは、コルシェ子爵は犯人ではないはずだから容疑を晴らしたい、とは言わなかった。
コルシェ子爵を犯人にしたくないから何とかしろと言ったのである。
つまり真実はどうだっていいから、コルシェ子爵を容疑者から外す方法はないか考えろと言っているのだ。
サーラはちょっと嫌な気分になって、目の前のクッキーに手を伸ばした。
サーラの雰囲気を察したのか、ウォレスが慌てて口を挟む。
「サーラ、誤解しないでくれ。私はコルシェ子爵が犯人だと思っていない。コルシェ子爵は人のいい人物で、殺人を犯すような人ではないんだ」
ウォレスの顔を見るに、嘘はついていないようである。
アルフレッドはともかくとして、ウォレスは心の底からコルシェ子爵を信じていて彼の容疑を晴らしたいのだろう。
「私もコルシェ子爵がはめられた可能性が高いとは見ています。セザール殿下派閥の人間は、オクタヴィアン殿下に煮え湯を飲まされていますからね。仕返しかもしれません」
「人聞きの悪い言い方をするな! 煮え湯というようなものではないだろう、あれは!」
「どういうことです?」
「以前、あなたが暴いたのでしょう? ブルダン男爵夫人の件ですよ」
(ブルダン男爵夫人……?)
どこかで聞いたことがある名前だと首を傾げたサーラはハッとした。
ブルダン男爵夫人は、今年の春に起こったオードラン商会の商会長殺人事件で、商会長の殺害を企てた犯人の一人である。
「ブルダン男爵夫人はセザール殿下派閥だったんですか?」
「ええそうです。あの一件で派閥の過激派連中が大騒ぎをしましたからね。殿下二人は静かなものだというのに、派閥というのはまったく面倒くさいものです」
そうは言うが、ウォレスの側にいるということは、少なからずアルフレッドは――というか、サヴァール伯爵家やその縁者は第二王子派閥だろう。
小さな火種を見つけては大騒ぎをする過激な部類には入らないのかもしれないが、隙あらば相手の足を引っ張りたいのは彼も同じな気がする。アルフレッドは小さな隙も見逃さなそうだ。
(その隙を、今回こちらが作っちゃったから、何とかして埋めたい、と)
相手の隙をつくのは楽しいが、つかれるのは気に入らない。そういうことか。
貴族同士の足の引っ張り合いは正直嫌気が差すが、サーラはすでにウォレスの侍女になってしまった。第二王子の陣営に組み込まれたのと同意である。
郷に入っては郷に従え。
自分で選んだことだ、諦めるしかない。
(誰かの罪を捏造するのは嫌だけど、ウォレス様の口ぶりだと、コルシェ子爵がはめられた可能性は高いみたいだからね)
冤罪を晴らすと思えば、それほど嫌ではなかった。
誰かが犯していない罪で裁かれるのは気分がいいものではない。
「今の話だけではわかりません。パーティー会場だったコルシェ子爵家で、毒物の類は見つかったんですか?」
「いいえ、見つかりませんでした。でも、毒物検査をすべきと判断された時にはパーティー会場だった子爵家の広間は片付けられていましたからね。容疑を晴らすには不十分です」
「では、その日にバラケ男爵が口にしたものはわかりますか?」
「今のところ、ワイン、チーズ、ブドウを少々。それからウイスキーを口にしたという証言は得られていますね」
「同じものを食べた方で具合が悪くなった方は?」
「もちろんいません」
「それらのものは個別に配られたんですか?」
「いいえ。すべて会場のテーブルの上に置かれていて、自由に取れるようになっていました。使用人に頼めば運んできてももらえたみたいですが、男爵はすべて自分で取ったようですね」
「つまり、男爵がどれを手に取るかはわからなかったってことですね」
「そうなります」
サーラは視線を落とした。
コルシェ子爵がバラケ男爵を殺害したのならば、どうやって毒物を摂取させたかのかという問題が残る。
「バラケ男爵が何を手に取るか、予測はつけられるものですか? 例えば好みがあったとか、お酒が並んでいたら右下から取る癖があるとか」
「ありませんね」
「男爵はパーティーでは他に何を?」
「数名の知り合いと話をしていたようですが、これと言って他には何も。奥方と一緒にいらしていましたけどダンスも踊らず、体調を崩して到着して三十分ほどで帰ったそうです」
「……証拠不十分で容疑者から外すのは無理なんですか? 今の話だと、容疑者に上げるには無理がある気がしますが」
「それができるなら、わざわざあなたを呼びつけたりしませんよ」
「それもそうですね……」
第一王子派閥の人間は、これ幸いと強引にコルシェ子爵を容疑者に仕立て上げるつもりだろう。殺害の証拠はないが、殺害していないという証拠もない。
「パーティーがはじまる前は、バラケ男爵は何をしていたんですか?」
「王都の邸にいたそうですよ」
「邸では何を?」
「知りません」
「調べられますか? できれば詳しく調べてほしいです。もしパーティーに向かう前に口にしたものがあるなら、そのすべてを知りたいんですが」
「そうですねえ……」
アルフレッドは眼鏡をはずしてハンカチでレンズを拭きながら考える。
「……殿下、できますか?」
派閥が違うと、動きにくいのだろうか。
サーラがウォレスに視線を向けると、ウォレスはちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「やってみよう。最悪、兄上に頼めば何とかなるだろう。例の燃える沼の件での貸しがあるからな、協力してくれるはずだ」
アルフレッドが呼びつけたメイドがティーセットを用意して下がると、サーラはウォレスの隣に腰かける。
アルフレッドが片眉を跳ね上げた。
「マリア、侍女が主の隣に腰かけてはいけません。さあ、パパの隣にいらっしゃい」
「行かすか‼」
確かにその通りだと腰を浮かせかけたサーラの腕を、ウォレスがすかさずつかんで押しとどめる。
三男オーディロンは関わらないことに決めたようで、わざとらしく窓の外を見やりながら「わー、今日は雪が降りそうだなあ」などと大きな独り言をつぶやいていた。
マルセルは彫像のように扉の前から動かない。
普段はウォレスの執務室にブノアもいるそうだが、今日は仕事があって不在だった。
ブノアは、第二王子付きの侍従長という立場らしい。つまりお偉いさんで、護衛から補佐官、侍女まで、ウォレスの側近をすべて束ねる立場にあるそうだ。
そんなお偉いさんに、趣味で借りている下町の邸の執事のまねごとをさせていたというのだから驚きである。
もっと言えば、パン屋で店番までさせたのだが、考えるだけで頭が痛くなりそうなのでやめておくことにした。
ちなみに侍従長という職は、王宮内庁と呼ばれる王族のプライベートから公務までのすべてを管理している機関の長官の一人だ。
一番上には国王の侍従長が君臨しているが、第一王子と第二王子の侍従長は横並びなので、すなわちブノアは横並びの王宮内庁ナンバーツーの立場である。権限的には大臣と同等だ。
「仕方がないですね。マルセル、人が入ってこないようにしっかりと扉を守っているんですよ。侍女を隣に侍らせている殿下の様子を誰かに見せるわけにはいきません」
(侍らせるって……言い方……)
言葉の意味合いとしては間違っているわけではないが、もう少し別の言い方はできないものだろうか。
ウォレスもムッと眉を寄せて、目の前の紅茶に手を伸ばす。
「ええっと……それで、具体的には何があったんですか?」
男爵が死亡し、子爵が容疑者になっているというのは理解できたが、それしか情報が得られていない。
貴族がらみの血なまぐさい事件は侍女の仕事の領分を超えている気がするが、アルフレッドは何を言ってもサーラを巻き込むつもりでいるようなので、とりあえず話を聞いてみないことにははじまらないだろう。
アルフレッドがウォレスに視線を向けた。
「何か新しい情報は得られましたか?」
「いや……」
聞けば、ウォレスが離席していたのは、その事件の調査報告で駆り出されていたかららしい。
しかし、男爵の死亡事件に王子が引っ張り出されるのは妙な話である。
「最初から説明いたしましょう。まず、三日前の十二月十七日の夜、コルシェ子爵家でパーティーがありました。死亡したバラケ男爵はそのパーティーに出席しましたが、途中で体調不良を訴えて帰宅しています。その後、奥方によると男爵は嘔吐し、やがて意識が混濁。そのまま意識が戻ることなく、昨日の十二月十九日の朝、息を引き取りました」
「あの、それでどうして、コルシェ子爵に容疑がかかっているのでしょうか?」
「バラケ男爵はパーティーに向かうまではとても元気だったそうなのですよ。持病もありません。それが急に体調を崩して死んだとあれば、パーティーで、例えば毒物か何かが盛られた可能性があると、第一王子派の人間が騒ぎ立てたんです」
「第一王子派の人間?」
「ああ、そこの説明も必要ですか。つまり、死んだバラケ男爵は第一王子セザール殿下を擁立しようとしている派閥の人間であり、容疑がかかっているコルシェ子爵は殿下――第二王子オクタヴィアン殿下を擁立しようとしている派閥である、ということです」
(……なるほど)
これは単純な死亡事件ではなかったということだ。
それならば王子が駆り出されたのもわからないでない。
第二王子派閥の人間が、第一王子派閥の勢力をそぐために事件を起こしたと騒がれれば、ウォレスだって静観できないだろう。
ウォレスが関与していなくとも、世間的にはその言い分が通されると厄介である。
(だから、コルシェ子爵を容疑者から外したい、と)
最初から引っかかってはいた。
アルフレッドは、コルシェ子爵は犯人ではないはずだから容疑を晴らしたい、とは言わなかった。
コルシェ子爵を犯人にしたくないから何とかしろと言ったのである。
つまり真実はどうだっていいから、コルシェ子爵を容疑者から外す方法はないか考えろと言っているのだ。
サーラはちょっと嫌な気分になって、目の前のクッキーに手を伸ばした。
サーラの雰囲気を察したのか、ウォレスが慌てて口を挟む。
「サーラ、誤解しないでくれ。私はコルシェ子爵が犯人だと思っていない。コルシェ子爵は人のいい人物で、殺人を犯すような人ではないんだ」
ウォレスの顔を見るに、嘘はついていないようである。
アルフレッドはともかくとして、ウォレスは心の底からコルシェ子爵を信じていて彼の容疑を晴らしたいのだろう。
「私もコルシェ子爵がはめられた可能性が高いとは見ています。セザール殿下派閥の人間は、オクタヴィアン殿下に煮え湯を飲まされていますからね。仕返しかもしれません」
「人聞きの悪い言い方をするな! 煮え湯というようなものではないだろう、あれは!」
「どういうことです?」
「以前、あなたが暴いたのでしょう? ブルダン男爵夫人の件ですよ」
(ブルダン男爵夫人……?)
どこかで聞いたことがある名前だと首を傾げたサーラはハッとした。
ブルダン男爵夫人は、今年の春に起こったオードラン商会の商会長殺人事件で、商会長の殺害を企てた犯人の一人である。
「ブルダン男爵夫人はセザール殿下派閥だったんですか?」
「ええそうです。あの一件で派閥の過激派連中が大騒ぎをしましたからね。殿下二人は静かなものだというのに、派閥というのはまったく面倒くさいものです」
そうは言うが、ウォレスの側にいるということは、少なからずアルフレッドは――というか、サヴァール伯爵家やその縁者は第二王子派閥だろう。
小さな火種を見つけては大騒ぎをする過激な部類には入らないのかもしれないが、隙あらば相手の足を引っ張りたいのは彼も同じな気がする。アルフレッドは小さな隙も見逃さなそうだ。
(その隙を、今回こちらが作っちゃったから、何とかして埋めたい、と)
相手の隙をつくのは楽しいが、つかれるのは気に入らない。そういうことか。
貴族同士の足の引っ張り合いは正直嫌気が差すが、サーラはすでにウォレスの侍女になってしまった。第二王子の陣営に組み込まれたのと同意である。
郷に入っては郷に従え。
自分で選んだことだ、諦めるしかない。
(誰かの罪を捏造するのは嫌だけど、ウォレス様の口ぶりだと、コルシェ子爵がはめられた可能性は高いみたいだからね)
冤罪を晴らすと思えば、それほど嫌ではなかった。
誰かが犯していない罪で裁かれるのは気分がいいものではない。
「今の話だけではわかりません。パーティー会場だったコルシェ子爵家で、毒物の類は見つかったんですか?」
「いいえ、見つかりませんでした。でも、毒物検査をすべきと判断された時にはパーティー会場だった子爵家の広間は片付けられていましたからね。容疑を晴らすには不十分です」
「では、その日にバラケ男爵が口にしたものはわかりますか?」
「今のところ、ワイン、チーズ、ブドウを少々。それからウイスキーを口にしたという証言は得られていますね」
「同じものを食べた方で具合が悪くなった方は?」
「もちろんいません」
「それらのものは個別に配られたんですか?」
「いいえ。すべて会場のテーブルの上に置かれていて、自由に取れるようになっていました。使用人に頼めば運んできてももらえたみたいですが、男爵はすべて自分で取ったようですね」
「つまり、男爵がどれを手に取るかはわからなかったってことですね」
「そうなります」
サーラは視線を落とした。
コルシェ子爵がバラケ男爵を殺害したのならば、どうやって毒物を摂取させたかのかという問題が残る。
「バラケ男爵が何を手に取るか、予測はつけられるものですか? 例えば好みがあったとか、お酒が並んでいたら右下から取る癖があるとか」
「ありませんね」
「男爵はパーティーでは他に何を?」
「数名の知り合いと話をしていたようですが、これと言って他には何も。奥方と一緒にいらしていましたけどダンスも踊らず、体調を崩して到着して三十分ほどで帰ったそうです」
「……証拠不十分で容疑者から外すのは無理なんですか? 今の話だと、容疑者に上げるには無理がある気がしますが」
「それができるなら、わざわざあなたを呼びつけたりしませんよ」
「それもそうですね……」
第一王子派閥の人間は、これ幸いと強引にコルシェ子爵を容疑者に仕立て上げるつもりだろう。殺害の証拠はないが、殺害していないという証拠もない。
「パーティーがはじまる前は、バラケ男爵は何をしていたんですか?」
「王都の邸にいたそうですよ」
「邸では何を?」
「知りません」
「調べられますか? できれば詳しく調べてほしいです。もしパーティーに向かう前に口にしたものがあるなら、そのすべてを知りたいんですが」
「そうですねえ……」
アルフレッドは眼鏡をはずしてハンカチでレンズを拭きながら考える。
「……殿下、できますか?」
派閥が違うと、動きにくいのだろうか。
サーラがウォレスに視線を向けると、ウォレスはちょっと困ったような笑みを浮かべた。
「やってみよう。最悪、兄上に頼めば何とかなるだろう。例の燃える沼の件での貸しがあるからな、協力してくれるはずだ」
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