69 / 163
第一部 街角パン屋の訳あり娘
沼底の秘密 3
しおりを挟む
翌日、沼にはティル伯爵家から借りた大勢の兵士が集まっていた。
皆、手には大きな網やしゃべるなどを持っている。
泳ぎが得意なものは潜って調べてくれるようだが、沼の中央付近にはガスが湧いているので気を付けるようにとウォレスを通して注意してもらった。
沼の中を捜索していると、心配になったのか大勢の村人たちが集まって来た。
中には村長やギョームの姿もある。
村長とギョームの顔色は悪かったが、他の村人たちは興味津々な顔をしていた。
「おっ、網に魚がかかったぞ」
「あれでかいな。くれないかな」
などと気楽な話が聞こえてきて、離れて様子を見ていたサーラは思わず噴き出してしまう。
マルセルから手を出すなと言われているウォレスもサーラの隣で見物しており、小さく笑って伯爵家の兵士の一人に声をかけた。
声をかけられた兵士が村人の方へ走っていき、何やら話をしている。
どうやら、網にかかった魚でほしいものがあれば取っていいと言ったらしい。
数人の村人が嬉しそうに網に駆け寄っていく。
マルセルとシャルは捜索の指揮を取っているので大忙しだ。
沼池の捜索には時間がかかりそうなので、サーラとウォレスは敷物を敷いた上に座って待つことにした。
今日はベレニスも同行しており、持参したポットからお茶を入れようとしたので、サーラも慌てて手伝う。侍女見習いが侍女を動かしてはならない。
「わたくしたちは邪魔にしかなりませんから、お茶でも飲んで休憩しましょう」
ベレニスがそう言って、三人分のお茶を用意して敷物の上に座った。ベレニスが休憩しなければ見習いのサーラが休憩できないからだろう。
ウォレスとベレニスと三人でお茶を飲みつつ、捜索を見守る。
捜索をはじめて三時間ほどが経ったころだった。
「殿下!」
船の上から潜って沼底を探っている兵士たちに指示を出していたマルセルが声を張り上げた。
船が岸に到着すると、マルセルが何やら金属でできた立方体を持って走ってくる。
マルセルの顔は強張っていた。
「どうした?」
立ち上がり、マルセルが持って来たものを確認したウォレスがさっと表情をこわばらせた。
「マルセル!」
「御意!」
ウォレスが指示を出すまでもなく、マルセルがその場にいた者たちに捜索は終了だと声をかける。
そして、直ちに道具を片付けて撤収するように言われた兵士たちが急いで指示通りに動き出した。
(何が見つかったの?)
気になったが、ウォレスの強張った顔を見るに、今は話しかけない方がいいように思えた。
兵士たちが撤収していく中、ウォレスが厳しい顔を村長とギョームへ向けた。
「お前たち二人は残れ。後は村に帰るように。これは命令だ」
ウォレスの固い声に、村人たちは怯えたような顔をして頷いて、ばたばたと足早に沼から離れていく。
ウォレスがはーっと大きな息を吐いて、座ったままのサーラをちらりと振り返った。
来いということだと判断して立ち上がって駆け寄れば、ウォレスが手に持っていたものをそっと見せてくれる。
サーラはひゅっと息を呑んだ。
ウォレスの手にあったのは、貨幣を鋳造するための鋳型だった。
そしてそれはおそらく――贋金の。
皆、手には大きな網やしゃべるなどを持っている。
泳ぎが得意なものは潜って調べてくれるようだが、沼の中央付近にはガスが湧いているので気を付けるようにとウォレスを通して注意してもらった。
沼の中を捜索していると、心配になったのか大勢の村人たちが集まって来た。
中には村長やギョームの姿もある。
村長とギョームの顔色は悪かったが、他の村人たちは興味津々な顔をしていた。
「おっ、網に魚がかかったぞ」
「あれでかいな。くれないかな」
などと気楽な話が聞こえてきて、離れて様子を見ていたサーラは思わず噴き出してしまう。
マルセルから手を出すなと言われているウォレスもサーラの隣で見物しており、小さく笑って伯爵家の兵士の一人に声をかけた。
声をかけられた兵士が村人の方へ走っていき、何やら話をしている。
どうやら、網にかかった魚でほしいものがあれば取っていいと言ったらしい。
数人の村人が嬉しそうに網に駆け寄っていく。
マルセルとシャルは捜索の指揮を取っているので大忙しだ。
沼池の捜索には時間がかかりそうなので、サーラとウォレスは敷物を敷いた上に座って待つことにした。
今日はベレニスも同行しており、持参したポットからお茶を入れようとしたので、サーラも慌てて手伝う。侍女見習いが侍女を動かしてはならない。
「わたくしたちは邪魔にしかなりませんから、お茶でも飲んで休憩しましょう」
ベレニスがそう言って、三人分のお茶を用意して敷物の上に座った。ベレニスが休憩しなければ見習いのサーラが休憩できないからだろう。
ウォレスとベレニスと三人でお茶を飲みつつ、捜索を見守る。
捜索をはじめて三時間ほどが経ったころだった。
「殿下!」
船の上から潜って沼底を探っている兵士たちに指示を出していたマルセルが声を張り上げた。
船が岸に到着すると、マルセルが何やら金属でできた立方体を持って走ってくる。
マルセルの顔は強張っていた。
「どうした?」
立ち上がり、マルセルが持って来たものを確認したウォレスがさっと表情をこわばらせた。
「マルセル!」
「御意!」
ウォレスが指示を出すまでもなく、マルセルがその場にいた者たちに捜索は終了だと声をかける。
そして、直ちに道具を片付けて撤収するように言われた兵士たちが急いで指示通りに動き出した。
(何が見つかったの?)
気になったが、ウォレスの強張った顔を見るに、今は話しかけない方がいいように思えた。
兵士たちが撤収していく中、ウォレスが厳しい顔を村長とギョームへ向けた。
「お前たち二人は残れ。後は村に帰るように。これは命令だ」
ウォレスの固い声に、村人たちは怯えたような顔をして頷いて、ばたばたと足早に沼から離れていく。
ウォレスがはーっと大きな息を吐いて、座ったままのサーラをちらりと振り返った。
来いということだと判断して立ち上がって駆け寄れば、ウォレスが手に持っていたものをそっと見せてくれる。
サーラはひゅっと息を呑んだ。
ウォレスの手にあったのは、貨幣を鋳造するための鋳型だった。
そしてそれはおそらく――贋金の。
119
お気に入りに追加
727
あなたにおすすめの小説

踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています
オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。
◇◇◇◇◇◇◇
「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。
14回恋愛大賞奨励賞受賞しました!
これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。
ありがとうございました!
ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。
この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

【完結】え、お嬢様が婚約破棄されたって本当ですか?
瑞紀
恋愛
「フェリシア・ボールドウィン。お前は王太子である俺の妃には相応しくない。よって婚約破棄する!」
婚約を公表する手はずの夜会で、突然婚約破棄された公爵令嬢、フェリシア。父公爵に勘当まで受け、絶体絶命の大ピンチ……のはずが、彼女はなぜか平然としている。
部屋まで押しかけてくる王太子(元婚約者)とその恋人。なぜか始まる和気あいあいとした会話。さらに、親子の縁を切ったはずの公爵夫妻まで現れて……。
フェリシアの執事(的存在)、デイヴィットの視点でお送りする、ラブコメディー。
ざまぁなしのハッピーエンド!
※8/6 16:10で完結しました。
※HOTランキング(女性向け)52位,お気に入り登録 220↑,24hポイント4万↑ ありがとうございます。
※お気に入り登録、感想も本当に嬉しいです。ありがとうございます。

私だけが家族じゃなかったのよ。だから放っておいてください。
鍋
恋愛
男爵令嬢のレオナは王立図書館で働いている。古い本に囲まれて働くことは好きだった。
実家を出てやっと手に入れた静かな日々。
そこへ妹のリリィがやって来て、レオナに助けを求めた。
※このお話は極端なざまぁは無いです。
※最後まで書いてあるので直しながらの投稿になります。←ストーリー修正中です。
※感想欄ネタバレ配慮無くてごめんなさい。
※SSから短編になりました。

忘れられた幼な妻は泣くことを止めました
帆々
恋愛
アリスは十五歳。王国で高家と呼ばれるう高貴な家の姫だった。しかし、家は貧しく日々の暮らしにも困窮していた。
そんな時、アリスの父に非常に有利な融資をする人物が現れた。その代理人のフーは巧みに父を騙して、莫大な借金を負わせてしまう。
もちろん返済する目処もない。
「アリス姫と我が主人との婚姻で借財を帳消しにしましょう」
フーの言葉に父は頷いた。アリスもそれを責められなかった。家を守るのは父の責務だと信じたから。
嫁いだドリトルン家は悪徳金貸しとして有名で、アリスは邸の厳しいルールに従うことになる。フーは彼女を監視し自由を許さない。そんな中、夫の愛人が邸に迎え入れることを知る。彼女は庭の隅の離れ住まいを強いられているのに。アリスは嘆き悲しむが、フーに強く諌められてうなだれて受け入れた。
「ご実家への援助はご心配なく。ここでの悪くないお暮らしも保証しましょう」
そういう経緯を仲良しのはとこに打ち明けた。晩餐に招かれ、久しぶりに心の落ち着く時間を過ごした。その席にははとこ夫妻の友人のロエルもいて、彼女に彼の掘った珍しい鉱石を見せてくれた。しかし迎えに現れたフーが、和やかな夜をぶち壊してしまう。彼女を庇うはとこを咎め、フーの無礼を責めたロエルにまで痛烈な侮蔑を吐き捨てた。
厳しい婚家のルールに縛られ、アリスは外出もままならない。
それから五年の月日が流れ、ひょんなことからロエルに再会することになった。金髪の端正な紳士の彼は、彼女に問いかけた。
「お幸せですか?」
アリスはそれに答えられずにそのまま別れた。しかし、その言葉が彼の優しかった印象と共に尾を引いて、彼女の中に残っていく_______。
世間知らずの高貴な姫とやや強引な公爵家の子息のじれじれなラブストーリーです。
古風な恋愛物語をお好きな方にお読みいただけますと幸いです。
ハッピーエンドを心がけております。読後感のいい物語を努めます。
※小説家になろう様にも投稿させていただいております。

召喚聖女に嫌われた召喚娘
ざっく
恋愛
闇に引きずり込まれてやってきた異世界。しかし、一緒に来た見覚えのない女の子が聖女だと言われ、亜優は放置される。それに文句を言えば、聖女に悲しげにされて、その場の全員に嫌われてしまう。
どうにか、仕事を探し出したものの、聖女に嫌われた娘として、亜優は魔物が闊歩するという森に捨てられてしまった。そこで出会った人に助けられて、亜優は安全な場所に帰る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる