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第一部 街角パン屋の訳あり娘
未来が見える男 1
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沼池から戻った次の日、ベレニスがティル伯爵夫人をお茶に誘っている間に、ウォレスとサーラはティル伯爵から話を聞くことにした。
サロンは夫人が使っているので、サーラ達はダイニングを借りる。
ティル伯爵は相変わらず顔色が悪く、目の下にはくっきりと濃い隈が浮かんでいた。
昨日の調査の報告という名目でティル伯爵をダイニングに呼び出したウォレスは、簡単に、沼の水を採取してきたことを伝え、これについては今から調べるとしたうえで話を切り出した。
「少し気になることがあるんだが、訊ねてもいいだろうか」
席についているのはウォレスと伯爵だけで、侍女見習いであるサーラはウォレスの背後に控えている。
マルセルとシャルはダイニングの入り口のところに立っていた。
「なんでございましょう」
ティル伯爵の声には覇気がない。
ウォレスは出されたティーカップに口をつけ、事前にサーラが質問してほしいと頼んでおいたことを口にした。
「まず最初に、沼池から炎が上がった時のことをもう少し詳しく聞きたい。どういう状況で、どのように炎が上がったのか、覚えている範囲でいい、教えてくれ」
「わかりました」
ティル伯爵は一つ頷いて、それから少しばかり間を置いた。
三週間前のことだ。しかも、青白い炎が上がったのを見て驚愕していたのだろうから、些細な情報は頭から抜け落ちている可能性もある。
その時の様子を思い出すように目を閉じ、ティル伯爵は口を開いた。
「その日は、村長だという杖を持った老人と、それから十数人の村人……男ばかりでしたね。彼らと、私、それから護衛のための私兵十人ばかりが森に入りました。よく晴れた日で、日差しを反射して輝く沼が美しかったのを覚えています。私たちは岸辺に立ち、沼を見ていました。村長はここは精霊の大切な水浴び場だと言いました。ここを奪おうとすれば精霊の怒りが降り注ぐと……、村長がそう言った直後、船の上からうわあと大きな声が上がりました。見れば、沼池の中央から青白い炎が上がっていたのです」
「……船? 船が出ていたのか?」
「あ、はい。私たちが到着したときには、沼池に一艘の小舟が浮かんでいました。何をしていたのかはわかりませんでしたが、村長も村人たちも平然としていたのでよくある光景なのでしょう」
「そうか……」
考え込むように視線を落としたウォレスの背後で、サーラもまた考え込んでいた。
わざわざ伯爵が視察に来ているときに、沼池に船を出す必要がどこにあっただろう。
ウォレスはしばらく考えこんでいたが、わからない問題を追及しても仕方がないと思ったのか質問を続けた。
「当時の様子についてはわかった。それからもう一つ。少し失礼な言い方になってしまうかもしれないんだが……、私の目には、伯爵がどうにも、必要以上に精霊の祟りを恐れているように見える。それは何故だろうか? こう言ってはなんだが、沼が一瞬燃えたように見えただけだろう? それの何にそれほど怯えるのだろう。実際に、その祟りとやらが伯爵の身に降り注いだりしたのだろうか。例えば、体に異変があったとか、親戚に不幸があったとか、それらしい何かが起こったのか?」
ティル伯爵はわずかに俯いて、ゆっくりと頭を振った。
「……いいえ、そういうわけでは」
「では何故、それほど精霊の祟りに過敏に反応しているのだろう。沼が燃えてもう三週間だ。何事も起こっていないのならば、ただの自然現象の一つとして片付けてもいいような気がするのだが」
「沼が燃えるのが自然現象でしょうか?」
「いや、確かにまあ、珍しい現象ではあるとは思っている。だが、それを抜きにしても、伯爵は過剰に反応しているように思えるんだ」
ティル伯爵はティーカップに手を添えて、そっと息を吐き出した。
「お伝えしても、信じていただけるかどうか……」
「それを決めるのは私だ。そして私は、この件を解決するためにも、できるだけ多くの情報がほしい」
「殿下がそうおっしゃるのでしたら……」
ティル伯爵はもう一度息を吐き出すと、紅茶を一口飲んでから、記憶を探るように目を伏せてから話しはじめた。
「あれは、四週間ほど前でしょうか。私はそのとき、仕事で王都におりました。貴族街のはずれにある行きつけのバーに、夜、ふらりと訪れたときのことです」
貴族街には、貴族が経営している店や、出資している店などが立ち並んでいる。
貴族街の外れということは下町に近いあたりだろうか。
「その店はあまり広くはないのですが、落ち着いた雰囲気で気に入っているところでして、王都にいる時はよく利用していたんです。その日はその……お恥ずかしい話、妻と些細なことで言い争ってしまいまして、気分を落ち着けるために外で飲もうかと、その店に向かいました。そこはいい店なのですが、それほど客入りは多くなく、あの時も私と、それから数人がいただけだったと思います。顔見知りがいなかったので、私はカウンターで飲んでいました」
ティル伯爵が淡々と話すのを、サーラは少々意外に思いながら聞いていた。気弱そうなこの伯爵でも妻と喧嘩をすることがあるらしい。てっきり完全に尻に敷かれていると思っていた。
「二杯ほどひっかけたときでしょうか。私の隣に、ふらりと何者かが座ったのです。ええ、何者か、でございます。正直、私は未だにそのものが何者かがわからないのです」
伯爵は疲労の濃い顔で何度もため息を吐き出した。
それにしても、何者かわからない人物というのはどういう意味だろう。
「何者かわからないとは、どういうことだ?」
ウォレスが、サーラが疑問に抱いたことを訊ねてくれた。
「そうですね……、男か女か、年はいくつか、どのような外見をしているのか……いったいどこの誰なのか、すべてがわからないと言えばいいでしょうか。そのものは顔の半分を覆うほどのフード付きの黒い外套を羽織っておりました。フードの隙間から見えた髪の色は明るかったように思いまずが、バーのオレンジ色の灯りのせいではっきりとはわかりませんでした」
「なるほど……」
「そのものは、私と同じ酒を一杯注文し、私に向かって、唐突にこう言いました。……領地に戻るのはやめなさい、と」
ティル伯爵が自分の腕を抱くようにして、ふるりと震えた。
「領地に戻れば、精霊に祟られる。精霊の怒りが、沼に炎を灯すだろう。そうなればあなたと、そしてあなたの家族は、未来永劫精霊に祟られ、一族には不幸が降り注ぐであろう、と」
サーラは軽く目を見張った。
ティル伯爵はその時のことを思い出したせいか、幾分か声を大きくしながら続けた。
「私はあのものに、私がどこの誰かも、領地に戻ってあの森の視察に行くことも伝えていません。それなのにあのものは私がティル伯爵であり、領地に戻って森の視察に行く予定であることを言い当て、さらにはあの精霊の祟りすらも予言して見せたのです。ええ、もちろん、あのとき私は、そのものがどこかで私の情報を知り得て、予言めいたことを言って金をせびろうとする占い師の類かと思いました。あのあたりには、そう言った自称占い師がたまに現れるので、同じような輩であろうと。ですので、最初は信じてはいなかったのです。――けれど、本当に起こってしまった」
伯爵はふるふると震えながら、首を何度も横に振った。
「私は祟られてしまったのです。そして、あのものの言葉を聞かなかったばっかりに、我が一族は永遠に精霊に祟られてしまったのです。……ああっ、私は、私はもう、どうしたらいいのかわかりません……! そのものは、私に予言めいたことを言うと、頼んだ酒に口もつけずに立ち去りました。今思えば、金をせびらなかったあのものは、本当の予言者だったのかもしれません……」
ウォレスが背後を振り返り、サーラに助けを求めるような視線を向けてきた。
四週間前のことを思い出して完全に怯えてしまったティル伯爵をどうすればいいのかわからないようだ。
サーラが、「もうこれ以上は大丈夫です」と言うように首を横に振ると、ウォレスはティル伯爵に向き直る。
「伯爵、嫌なことを思い出させてすまなかった。顔色が悪い。少し休まれた方がいいだろう」
ウォレスが退出を促すと、伯爵がよろめきながら立ち上がり、何度も頭を下げながらダイニングから去って行く。
サーラは去って行く伯爵の背中を見送りながら、やはり今回の件には、何か裏がありそうだとわずかに眉を寄せた。
サロンは夫人が使っているので、サーラ達はダイニングを借りる。
ティル伯爵は相変わらず顔色が悪く、目の下にはくっきりと濃い隈が浮かんでいた。
昨日の調査の報告という名目でティル伯爵をダイニングに呼び出したウォレスは、簡単に、沼の水を採取してきたことを伝え、これについては今から調べるとしたうえで話を切り出した。
「少し気になることがあるんだが、訊ねてもいいだろうか」
席についているのはウォレスと伯爵だけで、侍女見習いであるサーラはウォレスの背後に控えている。
マルセルとシャルはダイニングの入り口のところに立っていた。
「なんでございましょう」
ティル伯爵の声には覇気がない。
ウォレスは出されたティーカップに口をつけ、事前にサーラが質問してほしいと頼んでおいたことを口にした。
「まず最初に、沼池から炎が上がった時のことをもう少し詳しく聞きたい。どういう状況で、どのように炎が上がったのか、覚えている範囲でいい、教えてくれ」
「わかりました」
ティル伯爵は一つ頷いて、それから少しばかり間を置いた。
三週間前のことだ。しかも、青白い炎が上がったのを見て驚愕していたのだろうから、些細な情報は頭から抜け落ちている可能性もある。
その時の様子を思い出すように目を閉じ、ティル伯爵は口を開いた。
「その日は、村長だという杖を持った老人と、それから十数人の村人……男ばかりでしたね。彼らと、私、それから護衛のための私兵十人ばかりが森に入りました。よく晴れた日で、日差しを反射して輝く沼が美しかったのを覚えています。私たちは岸辺に立ち、沼を見ていました。村長はここは精霊の大切な水浴び場だと言いました。ここを奪おうとすれば精霊の怒りが降り注ぐと……、村長がそう言った直後、船の上からうわあと大きな声が上がりました。見れば、沼池の中央から青白い炎が上がっていたのです」
「……船? 船が出ていたのか?」
「あ、はい。私たちが到着したときには、沼池に一艘の小舟が浮かんでいました。何をしていたのかはわかりませんでしたが、村長も村人たちも平然としていたのでよくある光景なのでしょう」
「そうか……」
考え込むように視線を落としたウォレスの背後で、サーラもまた考え込んでいた。
わざわざ伯爵が視察に来ているときに、沼池に船を出す必要がどこにあっただろう。
ウォレスはしばらく考えこんでいたが、わからない問題を追及しても仕方がないと思ったのか質問を続けた。
「当時の様子についてはわかった。それからもう一つ。少し失礼な言い方になってしまうかもしれないんだが……、私の目には、伯爵がどうにも、必要以上に精霊の祟りを恐れているように見える。それは何故だろうか? こう言ってはなんだが、沼が一瞬燃えたように見えただけだろう? それの何にそれほど怯えるのだろう。実際に、その祟りとやらが伯爵の身に降り注いだりしたのだろうか。例えば、体に異変があったとか、親戚に不幸があったとか、それらしい何かが起こったのか?」
ティル伯爵はわずかに俯いて、ゆっくりと頭を振った。
「……いいえ、そういうわけでは」
「では何故、それほど精霊の祟りに過敏に反応しているのだろう。沼が燃えてもう三週間だ。何事も起こっていないのならば、ただの自然現象の一つとして片付けてもいいような気がするのだが」
「沼が燃えるのが自然現象でしょうか?」
「いや、確かにまあ、珍しい現象ではあるとは思っている。だが、それを抜きにしても、伯爵は過剰に反応しているように思えるんだ」
ティル伯爵はティーカップに手を添えて、そっと息を吐き出した。
「お伝えしても、信じていただけるかどうか……」
「それを決めるのは私だ。そして私は、この件を解決するためにも、できるだけ多くの情報がほしい」
「殿下がそうおっしゃるのでしたら……」
ティル伯爵はもう一度息を吐き出すと、紅茶を一口飲んでから、記憶を探るように目を伏せてから話しはじめた。
「あれは、四週間ほど前でしょうか。私はそのとき、仕事で王都におりました。貴族街のはずれにある行きつけのバーに、夜、ふらりと訪れたときのことです」
貴族街には、貴族が経営している店や、出資している店などが立ち並んでいる。
貴族街の外れということは下町に近いあたりだろうか。
「その店はあまり広くはないのですが、落ち着いた雰囲気で気に入っているところでして、王都にいる時はよく利用していたんです。その日はその……お恥ずかしい話、妻と些細なことで言い争ってしまいまして、気分を落ち着けるために外で飲もうかと、その店に向かいました。そこはいい店なのですが、それほど客入りは多くなく、あの時も私と、それから数人がいただけだったと思います。顔見知りがいなかったので、私はカウンターで飲んでいました」
ティル伯爵が淡々と話すのを、サーラは少々意外に思いながら聞いていた。気弱そうなこの伯爵でも妻と喧嘩をすることがあるらしい。てっきり完全に尻に敷かれていると思っていた。
「二杯ほどひっかけたときでしょうか。私の隣に、ふらりと何者かが座ったのです。ええ、何者か、でございます。正直、私は未だにそのものが何者かがわからないのです」
伯爵は疲労の濃い顔で何度もため息を吐き出した。
それにしても、何者かわからない人物というのはどういう意味だろう。
「何者かわからないとは、どういうことだ?」
ウォレスが、サーラが疑問に抱いたことを訊ねてくれた。
「そうですね……、男か女か、年はいくつか、どのような外見をしているのか……いったいどこの誰なのか、すべてがわからないと言えばいいでしょうか。そのものは顔の半分を覆うほどのフード付きの黒い外套を羽織っておりました。フードの隙間から見えた髪の色は明るかったように思いまずが、バーのオレンジ色の灯りのせいではっきりとはわかりませんでした」
「なるほど……」
「そのものは、私と同じ酒を一杯注文し、私に向かって、唐突にこう言いました。……領地に戻るのはやめなさい、と」
ティル伯爵が自分の腕を抱くようにして、ふるりと震えた。
「領地に戻れば、精霊に祟られる。精霊の怒りが、沼に炎を灯すだろう。そうなればあなたと、そしてあなたの家族は、未来永劫精霊に祟られ、一族には不幸が降り注ぐであろう、と」
サーラは軽く目を見張った。
ティル伯爵はその時のことを思い出したせいか、幾分か声を大きくしながら続けた。
「私はあのものに、私がどこの誰かも、領地に戻ってあの森の視察に行くことも伝えていません。それなのにあのものは私がティル伯爵であり、領地に戻って森の視察に行く予定であることを言い当て、さらにはあの精霊の祟りすらも予言して見せたのです。ええ、もちろん、あのとき私は、そのものがどこかで私の情報を知り得て、予言めいたことを言って金をせびろうとする占い師の類かと思いました。あのあたりには、そう言った自称占い師がたまに現れるので、同じような輩であろうと。ですので、最初は信じてはいなかったのです。――けれど、本当に起こってしまった」
伯爵はふるふると震えながら、首を何度も横に振った。
「私は祟られてしまったのです。そして、あのものの言葉を聞かなかったばっかりに、我が一族は永遠に精霊に祟られてしまったのです。……ああっ、私は、私はもう、どうしたらいいのかわかりません……! そのものは、私に予言めいたことを言うと、頼んだ酒に口もつけずに立ち去りました。今思えば、金をせびらなかったあのものは、本当の予言者だったのかもしれません……」
ウォレスが背後を振り返り、サーラに助けを求めるような視線を向けてきた。
四週間前のことを思い出して完全に怯えてしまったティル伯爵をどうすればいいのかわからないようだ。
サーラが、「もうこれ以上は大丈夫です」と言うように首を横に振ると、ウォレスはティル伯爵に向き直る。
「伯爵、嫌なことを思い出させてすまなかった。顔色が悪い。少し休まれた方がいいだろう」
ウォレスが退出を促すと、伯爵がよろめきながら立ち上がり、何度も頭を下げながらダイニングから去って行く。
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