上 下
39 / 127
第一部 街角パン屋の訳あり娘

成婚パレード 2

しおりを挟む
「お父さん、サンドイッチがもうないわ」

 パン屋ポルポルの店番をしていたサーラは、今日限定で並べているサンドイッチの残りが少ないことに気がつくと、奥で作業しているアドルフに声をかけた。

「おや、もうかい?」
「うん。すごい売れ行きよ。サンドイッチだけじゃなくてパンもね!」
「それは嬉しいけど、目が回りそうだよ」

 アドルフの苦笑をにじませた声が奥からして、「サンドイッチはグレースに頼んでおくよ」と返答があった。
 今日限定のサンドイッチは、グレースが作成しているのだ。

 今日は、第一王子セザールと、隣国ディエリエ国の公爵令嬢レナエル・シャミナードの成婚パレードがある。
 下町の大通りもパレードの対象になっていて、パレードがはじまるのは昼過ぎだと言うのに、朝から場所取りのために大通りには人がごった返していた。
 今日のために休む店も少なくなく、リジーのところの菓子屋パレットもそれだ。
 リジーに再三誘われたが、サーラは成婚パレードを見に行くつもりはなく、両親も同じだったため、ポルポルは店を閉めることなく営業していた。

 おかげで、朝からひっきりなしに客が来てはパンを買っていく。
 パレードを見るために大通りに張り付いている人のために、本日限定のサンドイッチを作ってみたが、これがまた飛ぶように売れるのだ。カフェかレストランで食べようにも大半の店が閉まっているからだろう。
 ちなみに市民警察に勤めているシャルは警備に駆り出されていて、自分と同僚のために、大量のサンドイッチを抱えて行った。あのあたりからも口コミが広がっていそうである。

「飲み物をもらえるかい?」

 会計のために並んでいた客が言う。

「冷ました紅茶ならすぐに用意できますけど、それでもいいですか?」

 普段は誰もいない飲食スペースにも、常に人が座っていた。
 それでも足りないので店の外には椅子を並べてあるが、その椅子すら足りなくて、立って食べている人もいた。

「サーラさん、お茶は私が対応しましょう」

 パンと、それからお茶のお金を受け取って、慌ただしく準備をしようとしたサーラに、パン出しをしてくれていた花柄エプロンの紳士が振り返って穏やかに微笑む。
ブノアである。

 何故彼がここにいるのかと言えば、話は二日前にさかのぼる――



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

逃げた先の廃墟の教会で、せめてもの恩返しにお掃除やお祈りをしました。ある日、御祭神であるミニ龍様がご降臨し加護をいただいてしまいました。

下菊みこと
恋愛
主人公がある事情から逃げた先の廃墟の教会で、ある日、降臨した神から加護を貰うお話。 そして、その加護を使い助けた相手に求婚されるお話…? 基本はほのぼのしたハッピーエンドです。ざまぁは描写していません。ただ、主人公の境遇もヒーローの境遇もドアマット系です。 小説家になろう様でも投稿しています。

【完結】忌み子と呼ばれた公爵令嬢

美原風香
恋愛
「ティアフレア・ローズ・フィーン嬢に使節団への同行を命じる」  かつて、忌み子と呼ばれた公爵令嬢がいた。  誰からも嫌われ、疎まれ、生まれてきたことすら祝福されなかった1人の令嬢が、王国から追放され帝国に行った。  そこで彼女はある1人の人物と出会う。  彼のおかげで冷え切った心は温められて、彼女は生まれて初めて心の底から笑みを浮かべた。  ーー蜂蜜みたい。  これは金色の瞳に魅せられた令嬢が幸せになる、そんなお話。

結婚結婚煩いので、愛人持ちの幼馴染と偽装結婚してみた

夏菜しの
恋愛
 幼馴染のルーカスの態度は、年頃になっても相変わらず気安い。  彼のその変わらぬ態度のお陰で、周りから男女の仲だと勘違いされて、公爵令嬢エーデルトラウトの相手はなかなか決まらない。  そんな現状をヤキモキしているというのに、ルーカスの方は素知らぬ顔。  彼は思いのままに平民の娘と恋人関係を持っていた。  いっそそのまま結婚してくれれば、噂は間違いだったと知れるのに、あちらもやっぱり公爵家で、平民との結婚など許さんと反対されていた。  のらりくらりと躱すがもう限界。  いよいよ親が煩くなってきたころ、ルーカスがやってきて『偽装結婚しないか?』と提案された。  彼の愛人を黙認する代わりに、贅沢と自由が得られる。  これで煩く言われないとすると、悪くない提案じゃない?  エーデルトラウトは軽い気持ちでその提案に乗った。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

初耳なのですが…、本当ですか?

あおくん
恋愛
侯爵令嬢の次女として、父親の仕事を手伝ったり、邸の管理をしたりと忙しくしているアニーに公爵家から婚約の申し込みが来た! でも実際に公爵家に訪れると、異世界から来たという少女が婚約者の隣に立っていて…。

悪妃の愛娘

りーさん
恋愛
 私の名前はリリー。五歳のかわいい盛りの王女である。私は、前世の記憶を持っていて、父子家庭で育ったからか、母親には特別な思いがあった。  その心残りからか、転生を果たした私は、母親の王妃にそれはもう可愛がられている。  そんなある日、そんな母が父である国王に怒鳴られていて、泣いているのを見たときに、私は誓った。私がお母さまを幸せにして見せると!  いろいろ調べてみると、母親が悪妃と呼ばれていたり、腹違いの弟妹がひどい扱いを受けていたりと、お城は問題だらけ!  こうなったら、私が全部解決してみせるといろいろやっていたら、なんでか父親に構われだした。  あんたなんてどうでもいいからほっといてくれ!

処理中です...