36 / 112
第一部 街角パン屋の訳あり娘
サーラの過去 1
しおりを挟む
「最初に教えてください。ウォレス様は、第一王子セザール殿下ですか? 第二王子オクタヴィアン殿下ですか?」
「君が、君の秘密を話すと約束するのなら」
「……約束、します」
どのみち、これほどの大物相手に、秘密を秘密のままでおくことはできまい。隠そうとしても暴かれる。
「わかった」
ウォレスはサーラの手から懐中時計を取り返して、ポケットに納めた。
「私は、第二王子だ」
「そう、ですか……」
「今、少し安堵したな」
「そうかも、しれませんね」
セザールでなければいいと思っていたのは事実だ。
サーラは一つ、息を吐く。
「王子殿下が……」
「ウォレスでいい」
「……ウォレス様が、下町をうろうろしていたのはどうしてですか?」
「兄と私で、王位継承を争っていることは知っているか?」
「ええ、まあ」
「父は、より君主として優れている方を王に据えると言った。後は察してくれ」
(つまり、王になるための実績を積んでいるってところかしら?)
不正を見つけて、暴く。もちろんそれ以外にもあるだろう。
例えばセザールの方を押している貴族を追い落とすための材料集めと言うのもありそうだ。
王位争いと言うのは、ある意味陣地取りに似ている。より多くの味方を集め、国の、できるだけ多くを掌握した方が勝ちだ。そのためには相手の陣地を奪い取ることも考えなくてはならない。
(妙なことに首を突っ込みたがると思ったら、そういうことだったのね)
貴族街だけでなく下町にも目を向けたのは、悪くない選択だと思う。
上位貴族になればなるほど、下町には足を踏み入れないだろう。
けれどもそこに、貴族が関与している裏取引がないとは言い切れない。
民衆から生まれた暴徒が反乱を起こして、結果新しい王が立ったという例もある。
何も国は、貴族街だけで成り立っているわけではない。
(……そういうことなら、わたしの存在は気になって仕方がないでしょうね)
ウォレスと関わったのは間違いだった。
けれども、一度、怪しいと思われてしまったサーラは、彼から逃げることはできない。
「私の秘密は話した。今度は君の番だ」
掴まれている手首が、熱い。
サーラは大きく息を吸って、そして吐き出した。
ドクドクと鼓動が早鐘を打つように早くなっている。
秘密を教えた後、サーラはどうなるだろう。
「……一つ、約束してください」
「なんだ?」
「秘密にしていることを教えても、わたしの家族……アドルフやグレース、シャルには絶対に手出ししないと、誓ってください」
「それは、聞いてみないことには判断できない。彼らが何らかの罪を犯しているのなら――」
「犯していません。それは誓って言えます」
「……わかった」
いいだろう、とウォレスの了承の言葉を聞いて、サーラはちょっとだけ安心した。
これで、もうこれ以上あの親子に迷惑をかけずにすむ。
サーラは一度目を伏せて、それからまっすぐにウォレスを見つめた。
「わたしの本当の名は、サラフィーネ・プランタット。ディエリア国の、およそ八年前に取りつぶしになったプランタット公爵家の一人娘です」
「君が、君の秘密を話すと約束するのなら」
「……約束、します」
どのみち、これほどの大物相手に、秘密を秘密のままでおくことはできまい。隠そうとしても暴かれる。
「わかった」
ウォレスはサーラの手から懐中時計を取り返して、ポケットに納めた。
「私は、第二王子だ」
「そう、ですか……」
「今、少し安堵したな」
「そうかも、しれませんね」
セザールでなければいいと思っていたのは事実だ。
サーラは一つ、息を吐く。
「王子殿下が……」
「ウォレスでいい」
「……ウォレス様が、下町をうろうろしていたのはどうしてですか?」
「兄と私で、王位継承を争っていることは知っているか?」
「ええ、まあ」
「父は、より君主として優れている方を王に据えると言った。後は察してくれ」
(つまり、王になるための実績を積んでいるってところかしら?)
不正を見つけて、暴く。もちろんそれ以外にもあるだろう。
例えばセザールの方を押している貴族を追い落とすための材料集めと言うのもありそうだ。
王位争いと言うのは、ある意味陣地取りに似ている。より多くの味方を集め、国の、できるだけ多くを掌握した方が勝ちだ。そのためには相手の陣地を奪い取ることも考えなくてはならない。
(妙なことに首を突っ込みたがると思ったら、そういうことだったのね)
貴族街だけでなく下町にも目を向けたのは、悪くない選択だと思う。
上位貴族になればなるほど、下町には足を踏み入れないだろう。
けれどもそこに、貴族が関与している裏取引がないとは言い切れない。
民衆から生まれた暴徒が反乱を起こして、結果新しい王が立ったという例もある。
何も国は、貴族街だけで成り立っているわけではない。
(……そういうことなら、わたしの存在は気になって仕方がないでしょうね)
ウォレスと関わったのは間違いだった。
けれども、一度、怪しいと思われてしまったサーラは、彼から逃げることはできない。
「私の秘密は話した。今度は君の番だ」
掴まれている手首が、熱い。
サーラは大きく息を吸って、そして吐き出した。
ドクドクと鼓動が早鐘を打つように早くなっている。
秘密を教えた後、サーラはどうなるだろう。
「……一つ、約束してください」
「なんだ?」
「秘密にしていることを教えても、わたしの家族……アドルフやグレース、シャルには絶対に手出ししないと、誓ってください」
「それは、聞いてみないことには判断できない。彼らが何らかの罪を犯しているのなら――」
「犯していません。それは誓って言えます」
「……わかった」
いいだろう、とウォレスの了承の言葉を聞いて、サーラはちょっとだけ安心した。
これで、もうこれ以上あの親子に迷惑をかけずにすむ。
サーラは一度目を伏せて、それからまっすぐにウォレスを見つめた。
「わたしの本当の名は、サラフィーネ・プランタット。ディエリア国の、およそ八年前に取りつぶしになったプランタット公爵家の一人娘です」
163
お気に入りに追加
706
あなたにおすすめの小説
愛すべきマリア
志波 連
恋愛
幼い頃に婚約し、定期的な交流は続けていたものの、互いにこの結婚の意味をよく理解していたため、つかず離れずの穏やかな関係を築いていた。
学園を卒業し、第一王子妃教育も終えたマリアが留学から戻った兄と一緒に参加した夜会で、令嬢たちに囲まれた。
家柄も美貌も優秀さも全て揃っているマリアに嫉妬したレイラに指示された女たちは、彼女に嫌味の礫を投げつける。
早めに帰ろうという兄が呼んでいると知らせを受けたマリアが発見されたのは、王族の居住区に近い階段の下だった。
頭から血を流し、意識を失っている状態のマリアはすぐさま医務室に運ばれるが、意識が戻ることは無かった。
その日から十日、やっと目を覚ましたマリアは精神年齢が大幅に退行し、言葉遣いも仕草も全て三歳児と同レベルになっていたのだ。
体は16歳で心は3歳となってしまったマリアのためにと、兄が婚約の辞退を申し出た。
しかし、初めから結婚に重きを置いていなかった皇太子が「面倒だからこのまま結婚する」と言いだし、予定通りマリアは婚姻式に臨むことになった。
他サイトでも掲載しています。
表紙は写真ACより転載しました。
1度だけだ。これ以上、閨をともにするつもりは無いと旦那さまに告げられました。
尾道小町
恋愛
登場人物紹介
ヴィヴィアン・ジュード伯爵令嬢
17歳、長女で爵位はシェーンより低が、ジュード伯爵家には莫大な資産があった。
ドン・ジュード伯爵令息15歳姉であるヴィヴィアンが大好きだ。
シェーン・ロングベルク公爵 25歳
結婚しろと回りは五月蝿いので大富豪、伯爵令嬢と結婚した。
ユリシリーズ・グレープ補佐官23歳
優秀でシェーンに、こき使われている。
コクロイ・ルビーブル伯爵令息18歳
ヴィヴィアンの幼馴染み。
アンジェイ・ドルバン伯爵令息18歳
シェーンの元婚約者。
ルーク・ダルシュール侯爵25歳
嫁の父親が行方不明でシェーン公爵に相談する。
ミランダ・ダルシュール侯爵夫人20歳、父親が行方不明。
ダン・ドリンク侯爵37歳行方不明。
この国のデビット王太子殿下23歳、婚約者ジュリアン・スチール公爵令嬢が居るのにヴィヴィアンの従妹に興味があるようだ。
ジュリアン・スチール公爵令嬢18歳デビット王太子殿下の婚約者。
ヴィヴィアンの従兄弟ヨシアン・スプラット伯爵令息19歳
私と旦那様は婚約前1度お会いしただけで、結婚式は私と旦那様と出席者は無しで式は10分程で終わり今は2人の寝室?のベッドに座っております、旦那様が仰いました。
一度だけだ其れ以上閨を共にするつもりは無いと旦那様に宣言されました。
正直まだ愛情とか、ありませんが旦那様である、この方の言い分は最低ですよね?
「本当に僕の子供なのか検査して調べたい」子供と顔が似てないと責められ離婚と多額の慰謝料を請求された。
window
恋愛
ソフィア伯爵令嬢は公爵位を継いだ恋人で幼馴染のジャックと結婚して公爵夫人になった。何一つ不自由のない環境で誰もが羨むような生活をして、二人の子供に恵まれて幸福の絶頂期でもあった。
「長男は僕に似てるけど、次男の顔は全く似てないから病院で検査したい」
ある日ジャックからそう言われてソフィアは、時間が止まったような気持ちで精神的な打撃を受けた。すぐに返す言葉が出てこなかった。この出来事がきっかけで仲睦まじい夫婦にひびが入り崩れ出していく。
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
一年で死ぬなら
朝山みどり
恋愛
一族のお食事会の主な話題はクレアをばかにする事と同じ年のいとこを褒めることだった。
理不尽と思いながらもクレアはじっと下を向いていた。
そんなある日、体の不調が続いたクレアは医者に行った。
そこでクレアは心臓が弱っていて、余命一年とわかった。
一年、我慢しても一年。好きにしても一年。吹っ切れたクレアは・・・・・
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる