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第一部 街角パン屋の訳あり娘
地下の男 2
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裏口から中庭に出ると、裏の塀の通用口から裏口にかけて、誰かが歩いた痕跡があった。
草が踏まれ、まるで獣道のように細い道が通っているのである。
「裏から誰かが出入りしていたのは間違いないみたいだな。問題は、このような意味のわからないことをした人間の目的ではあるが……」
家を借りたのに、そこを空き家に見せたまま住むなんて回りくどいことをする理由はなんだろうか。
裏庭の確認を終えたので、ついでに一階を重点的に調べてみるかと、まずはキッチンへ向かった。
ここに人が住んでいたのならば、キッチンを使った痕跡もあると思ったからだ。
「埃だらけですね」
キッチンに入ると、そこは埃にまみれていた。
「キッチンは使わなかったということか?」
「あ、でも見てください。ここだけ埃がないです」
食器棚の前だけ、埃が綺麗に拭き取られている。
(食器だけが必要だったってこと?)
食器棚をあけてみると、綺麗に洗われた食器がいくつか入っている。
「ここで暮らしていた人間は、料理はしないが、食べ物はどこかから買って帰っていた、ということか?」
「そうかもしれませんね」
「サーラさん、こっちの洗い桶も綺麗ですよ」
ルイスに呼ばれて、ウォレスとともに向かう。
木で作られた洗い桶は確かに最近使ったばかりのように綺麗だった。
「井戸は裏口を出てすぐのところにあったな。見に行こう」
再び裏庭に出ると、ウォレスは井戸のポンプを確かめた。
ポンプを動かすと、綺麗な水が流れ出す。鉄さびの色の水が出ないことから、この井戸が最近まで使われていたことが想像できた。
「……人が住んでいたのにも関わらず、空き家に見せかけていた家……。なんだか犯罪の匂いがするな」
ウォレスがつぶやくと、ルイスがギョッとして振り返った。
「や、やめてくださいよ。そんなはずないじゃないですか」
青ざめたルイスが可哀想だったのでサーラは何も言わなかったが、サーラもウォレスの意見に同意である。このような手の込んだことをするのだ。何か後ろめたいことがあったに違いない。
「ルイスさん、この家の持ち主は今どこにいらっしゃるのかご存じですか?」
「鍵を管理しているのは、隣町に住んでいる老夫婦です。昔ここに住んでいたのはその老夫婦で、この家は息子夫婦に譲ったらしいんですが、その息子夫婦が五年ほど前からここから少し離れたところにある伯爵領で仕事をはじめたので、無人のまま放置していたみたいですね」
「以前とは言え、このあたりに住んでいたのだからお金持ちだと思うのですけど、お店か何かをされているんですか?」
「老婦人が腕のいいデザイナーだったんですよ。年を取って引退して、温泉のある隣町に引っ越したんだそうです。王都にはもう何年も来ていないみたいですね」
「そうですか……。息子夫婦の方は何を?」
「ボクは詳しく知らないんですけど、奥さんの実家が伯爵領で何かの店をしていて、その手伝いがどうとかって聞いたような、聞かなかったような……。曖昧ですみません」
「持ち主がわざわざ、このような奇妙な暮らし方はしないだろう。やはり誰かに貸していたとみるのがいいんじゃないか?」
ウォレスの言うことはもっともである。
「他も見て回りましょうか」
「そうだな」
「サーラさん、どこに行きますか?」
ルイスがランタンを掲げて先を行きながら訊ねる。
「どこでもいいですが……そうですね、ダイニングにでも行きますか?」
「確認できるところはすべて見たほうがいいだろうからな」
「では、ダイニングに向かいましょう」
ダイニングの中は、埃をかぶったダイニングテーブルと、何も入っていない、同じく埃をかぶった飾り棚があった。
床は板張りで、絨毯は敷かれていない。
「止まってください」
ランタンの光が床に反射したのを見たサーラは、そう言って足を止めた。
「どうしました?」
ルイスが振り返る。
「ルイスさん、床を照らしてくれませんか?」
「え、ええ……?」
不思議そうに首をひねって、ルイスが床を照らした。
ウォレスが目を見開く。
「……足跡だな」
「はい。リジーと兄がここに来ていないのであれば、あの足跡はここで暮らしていた人のものになると思います」
「奥に続いているみたいですね」
ダイニングの、入ってきた扉とは反対側の壁には別の扉があった。
「行ってみよう」
好奇心と緊張の入り混じった声でウォレスが言って、きゅっとサーラの手を握る。
あの奥にはいったい何があるのだろうかと、サーラの体にもちょっとだけ緊張が走った。
草が踏まれ、まるで獣道のように細い道が通っているのである。
「裏から誰かが出入りしていたのは間違いないみたいだな。問題は、このような意味のわからないことをした人間の目的ではあるが……」
家を借りたのに、そこを空き家に見せたまま住むなんて回りくどいことをする理由はなんだろうか。
裏庭の確認を終えたので、ついでに一階を重点的に調べてみるかと、まずはキッチンへ向かった。
ここに人が住んでいたのならば、キッチンを使った痕跡もあると思ったからだ。
「埃だらけですね」
キッチンに入ると、そこは埃にまみれていた。
「キッチンは使わなかったということか?」
「あ、でも見てください。ここだけ埃がないです」
食器棚の前だけ、埃が綺麗に拭き取られている。
(食器だけが必要だったってこと?)
食器棚をあけてみると、綺麗に洗われた食器がいくつか入っている。
「ここで暮らしていた人間は、料理はしないが、食べ物はどこかから買って帰っていた、ということか?」
「そうかもしれませんね」
「サーラさん、こっちの洗い桶も綺麗ですよ」
ルイスに呼ばれて、ウォレスとともに向かう。
木で作られた洗い桶は確かに最近使ったばかりのように綺麗だった。
「井戸は裏口を出てすぐのところにあったな。見に行こう」
再び裏庭に出ると、ウォレスは井戸のポンプを確かめた。
ポンプを動かすと、綺麗な水が流れ出す。鉄さびの色の水が出ないことから、この井戸が最近まで使われていたことが想像できた。
「……人が住んでいたのにも関わらず、空き家に見せかけていた家……。なんだか犯罪の匂いがするな」
ウォレスがつぶやくと、ルイスがギョッとして振り返った。
「や、やめてくださいよ。そんなはずないじゃないですか」
青ざめたルイスが可哀想だったのでサーラは何も言わなかったが、サーラもウォレスの意見に同意である。このような手の込んだことをするのだ。何か後ろめたいことがあったに違いない。
「ルイスさん、この家の持ち主は今どこにいらっしゃるのかご存じですか?」
「鍵を管理しているのは、隣町に住んでいる老夫婦です。昔ここに住んでいたのはその老夫婦で、この家は息子夫婦に譲ったらしいんですが、その息子夫婦が五年ほど前からここから少し離れたところにある伯爵領で仕事をはじめたので、無人のまま放置していたみたいですね」
「以前とは言え、このあたりに住んでいたのだからお金持ちだと思うのですけど、お店か何かをされているんですか?」
「老婦人が腕のいいデザイナーだったんですよ。年を取って引退して、温泉のある隣町に引っ越したんだそうです。王都にはもう何年も来ていないみたいですね」
「そうですか……。息子夫婦の方は何を?」
「ボクは詳しく知らないんですけど、奥さんの実家が伯爵領で何かの店をしていて、その手伝いがどうとかって聞いたような、聞かなかったような……。曖昧ですみません」
「持ち主がわざわざ、このような奇妙な暮らし方はしないだろう。やはり誰かに貸していたとみるのがいいんじゃないか?」
ウォレスの言うことはもっともである。
「他も見て回りましょうか」
「そうだな」
「サーラさん、どこに行きますか?」
ルイスがランタンを掲げて先を行きながら訊ねる。
「どこでもいいですが……そうですね、ダイニングにでも行きますか?」
「確認できるところはすべて見たほうがいいだろうからな」
「では、ダイニングに向かいましょう」
ダイニングの中は、埃をかぶったダイニングテーブルと、何も入っていない、同じく埃をかぶった飾り棚があった。
床は板張りで、絨毯は敷かれていない。
「止まってください」
ランタンの光が床に反射したのを見たサーラは、そう言って足を止めた。
「どうしました?」
ルイスが振り返る。
「ルイスさん、床を照らしてくれませんか?」
「え、ええ……?」
不思議そうに首をひねって、ルイスが床を照らした。
ウォレスが目を見開く。
「……足跡だな」
「はい。リジーと兄がここに来ていないのであれば、あの足跡はここで暮らしていた人のものになると思います」
「奥に続いているみたいですね」
ダイニングの、入ってきた扉とは反対側の壁には別の扉があった。
「行ってみよう」
好奇心と緊張の入り混じった声でウォレスが言って、きゅっとサーラの手を握る。
あの奥にはいったい何があるのだろうかと、サーラの体にもちょっとだけ緊張が走った。
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