家族と移住した先で隠しキャラ拾いました

狭山ひびき@バカふり200万部突破

文字の大きさ
上 下
30 / 42

訓練とうさ耳 3

しおりを挟む
 夜、わたしはライナルト殿下とともに城へ向かった。
 お父様もお母様もお兄様も招待されているが、同じ馬車に全員が乗るとキツキツになるので、馬車を二つに分けることにしたのだ。

 今日もギーゼラの「聖女っぽく見えるメイク」で、わたしのきつい顔立ちは二割ほど抑えられている。
 まあそれでもきつい顔立ちには変わりないが、ライナルト殿下が「可愛い」と言ってくれたので気にしないことにした。

 ライナルト殿下一人が帽子をかぶっていたら目立つので、わたしも、わたしの家族も、何と国王夫妻と王太子殿下も、今日は帽子着用である。
 王族が全員帽子を着用していたら、今年の新しい流行の一つと認識されて受け入れられるだろう。

 ……帽子着用の夜会なんて聞いたことがないけど、ファッションの一つとして捕らえればそれほど不思議でもない……はずだ。たぶん。

 ちなみにわたしとライナルト殿下の帽子は、デザインこそ違うけれど、色は白を基調としたものでお揃いだ。

 ドレスは明るい若葉色で、ライナルト殿下のエメラルド色の瞳と同系統の色にしてみた。
 ライナルト殿下はわたしのドレスと同じ色のタイを締め、わたしの髪色と同じ金のタイピンを止めている。カフスボタンには、わたしの瞳にあわせてラピスラズリがあしらわれていた。

 お城に到着すると、わたしたちは王族席に席が準備されているので、そちらへ向かう。
 王族席は大広間全体を見渡せるように高い位置に作られていて、ベルベッドのカーテンが引かれていた。まだ開始時間ではないので、ばらばらと到着する貴族たちを緊張させないようにカーテンを引いてこちら側が見えないようにしているのだ。

 ……あと、パーティーがはじまる前に飲み食いする気満々の伯父様が、もりもり食べているところを貴族たちに見られないようにするためでもあるみたい。

 王族席に到着したわたしは、すでに大量の料理が並べられているテーブルを見て驚いた。
 お母様は平然としているけど、お父様もお兄様も「え?」みたいな顔をしている。

「今のうちに食べておきなさい。パーティーがはじまったら、ドリンクくらいしか口にできなくなるからね」

 伯父様に言われて、わたしとライナルト殿下が席に着くと、使用人がテーブルの上から食事を取り分けて持ってきてくれる。
 パーティーは三時間くらいあるから、先に食べておかないと途中でお腹がすいて苦しくなるらしい。
 大広間の端には軽食が並べられているけれど、さすがに王族が食べに行くわけにもいかないからね。

 はじめてパーティーに参加するライナルト殿下は、「こんなことをしていたのか」とちょっとあきれ顔をしていた。
 だが、空腹状態で三時間耐えるのは嫌だったのか、素直に食事を口に運ぶ。

 今日はわたしのお披露目なので、パーティーがはじまったらライナルト殿下とダンスを一曲踊ることになっているが、それ以外の時間はこの場から広間を観察するくらいしかすることがない。
 あとは、挨拶に来る貴族たちににこりと笑みを返すのが仕事だろうか。
 その程度のことは、マリウス殿下の婚約者だった時に経験済みなのでなんてことはない。ただ、ずっと笑顔を浮かべておく必要があるので、表情筋がぴくぴくするくらいだ。

 食事を終え、目の前から食事とテーブルが片付けられると、しばらくして閉じていたカーテンが開かれた。
 シャンデリアに照らされてキラキラしている大広間が見える。
 どれだけの貴族に招待状を配ったのか、広間がぎゅうぎゅうになるくらい大勢の人が集まっていた。

 伯父様がワインの入った細いグラスを持って立ち上がると、喧騒に包まれていた広間がシンと静まり返る。
 伯父様は、朗々と響き渡る声で、わたしがこの国の聖女として認められたこと、それから長年病で臥せっていた(ということにされていた)ライナルト殿下が快癒したことを報告する。

 さらに、ロヴァルタ国王の了承が得られれば、ライナルト殿下とわたしが婚約する予定であることも告げられた。
 ロヴァルタ国王から了承を得られる前に報告しちゃっていいのかしらと思ったが、聖女認定式でもほのめかしていたので今更だろう。

 伯父様に立ち上がるように言われたので、わたしとライナルト殿下が立ち上がって一歩前に出ると、わあっと広間から歓声が上がる。
 軽く手を振ってそれに応えた後で、わたしはライナルト殿下とともに広間に降りた。
 今から一曲、大観衆の中でダンスを踊るのである。

 わたしはマリウス殿下のときに、この羞恥プレイを経験済みだが、ライナルト殿下は大丈夫かしらと見上げれば、長年呪われていてもさすがは王子様だ。堂々としたものだった。

 柔らかい音色の、ゆったりとしたワルツの演奏がはじまる。
 一緒に踊ることがわかっていたので、邸で何度か練習したけれど、わたしとライナルト殿下は息がぴったりだった。
 おそらくライナルト殿下がわたしに合わせてくれているのだろう。
 強引だったマリウス殿下とのダンスと違って、ライナルト殿下とのダンスは、ダンス自体を楽しむことができる。

 ……早く終われ~って思ってたマリウス殿下とのダンスと大違いだわ。

 ライナルト殿下はダンスのさなかもものすごくわたしを気遣ってくれて、丁寧に優しくリードしてくれる。
 派手さはないが、とても品のいい、見本のようなダンスを踊る人だ。
 魔王の呪いがかかっていたこともあり、外に出られなかったライナルト殿下を心配した王妃様が、せめて少しは体を動かさないとと、暇さえあれば一緒にダンスを踊ってくれていたらしい。
 ライナルト殿下の体調もあったし、兎になった後は練習できていなかったそうだが、おかげで人並みには踊れると言っていた。

 ……人並み以上だと思うけどね!

 ライナルト殿下の人柄が現れているような、ふわりと柔らかいダンスに、広間のあちこちから「はあ」とか「ほぅ」とかご婦人方のため息が聞こえてくる。

 そうでしょうそうでしょう、ライナルト殿下はカッコよくて可愛くて優しくて、すっごくすっごく素敵なのだ!

 わたしにはあっという間に感じられたダンスを終え、ライナルト殿下とともに、人に囲まれる前に王族席へ戻る。

「素敵だったわよぅ」

 とお母様がにこにこしながらわたしたちを褒めて、お父様にすっと手を差し出した。

「わたくしも久しぶりに踊りたいわね、あなた」
「いいね!」

 そんなやり取りをして、わたしたちと入れ替わるようにお母様とお父様が広間に降りて行った。
 生まれ変わっても仲がよさそうで結構なことである。
 いつもなら女の子にきゃーきゃー騒がれること目的でダンスを踊りに行くお兄様は、徹夜続きでぼーっとしている。

 ……そう言えば今は、洗濯機を作っているって言ってたわね。魔術具の。

 一通り満足したら元のナルシストなお兄様に戻るだろうが、それはもう少しかかりそうだ。
 伯父様たちやわたしたちの元に挨拶者が来はじめたので、わたしは姿勢を正して応対していく。
 しばらくして挨拶者がいなくなったところで、疲れたらしいライナルト殿下がわたしにすっと手を差し出してきた。

「もうパーティーも終盤だし、ちょっと抜け出さない?」

 それはとても魅力的な申し出だったので、もちろん、わたしに否やはなかった。



しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!

蜜柑
ファンタジー
レイラは生まれた時から強力な魔力を持っていたため、キアーラ王国の大神殿で大司教に聖女として育てられ、毎日祈りを捧げてきた。大司教は国政を乗っ取ろうと王太子とレイラの婚約を決めたが、王子は身元不明のレイラとは結婚できないと婚約破棄し、彼女を国外追放してしまう。 ――え、もうお肉も食べていいの? 白じゃない服着てもいいの? 追放される道中、偶然出会った冒険者――剣士ステファンと狼男のライガに同行することになったレイラは、冒険者ギルドに登録し、冒険者になる。もともと神殿での不自由な生活に飽き飽きしていたレイラは美味しいものを食べたり、可愛い服を着たり、冒険者として仕事をしたりと、外での自由な生活を楽しむ。 その一方、魔物が出るようになったキアーラでは大司教がレイラの回収を画策し、レイラの出自をめぐる真実がだんだんと明らかになる。 ※序盤1話が短めです(1000字弱) ※複数視点多めです。 ※小説家になろうにも掲載しています。 ※表紙イラストはレイラを月塚彩様に描いてもらいました。

許婚と親友は両片思いだったので2人の仲を取り持つことにしました

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<2人の仲を応援するので、どうか私を嫌わないでください> 私には子供のころから決められた許嫁がいた。ある日、久しぶりに再会した親友を紹介した私は次第に2人がお互いを好きになっていく様子に気が付いた。どちらも私にとっては大切な存在。2人から邪魔者と思われ、嫌われたくはないので、私は全力で許嫁と親友の仲を取り持つ事を心に決めた。すると彼の評判が悪くなっていき、それまで冷たかった彼の態度が軟化してきて話は意外な展開に・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?

しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。 そんな小説みたいなことが本当に起こった。 婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。 婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。 仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。 これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。 辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。

聖女召喚に巻き込まれた挙句、ハズレの方と蔑まれていた私が隣国の過保護な王子に溺愛されている件

バナナマヨネーズ
恋愛
聖女召喚に巻き込まれた志乃は、召喚に巻き込まれたハズレの方と言われ、酷い扱いを受けることになる。 そんな中、隣国の第三王子であるジークリンデが志乃を保護することに。 志乃を保護したジークリンデは、地面が泥濘んでいると言っては、志乃を抱き上げ、用意した食事が熱ければ火傷をしないようにと息を吹きかけて冷ましてくれるほど過保護だった。 そんな過保護すぎるジークリンデの行動に志乃は戸惑うばかり。 「私は子供じゃないからそんなことしなくてもいいから!」 「いや、シノはこんなに小さいじゃないか。だから、俺は君を命を懸けて守るから」 「お…重い……」 「ん?ああ、ごめんな。その荷物は俺が持とう」 「これくらい大丈夫だし、重いってそういうことじゃ……。はぁ……」 過保護にされたくない志乃と過保護にしたいジークリンデ。 二人は共に過ごすうちに知ることになる。その人がお互いの運命の人なのだと。 全31話

もしも生まれ変わるなら……〜今度こそは幸せな一生を〜

こひな
恋愛
生まれ変われたら…転生できたら…。 なんて思ったりもしていました…あの頃は。 まさかこんな人生終盤で前世を思い出すなんて!

【完結】婚姻無効になったので新しい人生始めます~前世の記憶を思い出して家を出たら、愛も仕事も手に入れて幸せになりました~

Na20
恋愛
セレーナは嫁いで三年が経ってもいまだに旦那様と使用人達に受け入れられないでいた。 そんな時頭をぶつけたことで前世の記憶を思い出し、家を出ていくことを決意する。 「…そうだ、この結婚はなかったことにしよう」 ※ご都合主義、ふんわり設定です ※小説家になろう様にも掲載しています

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

【完】聖女じゃないと言われたので、大好きな人と一緒に旅に出ます!

えとう蜜夏☆コミカライズ中
恋愛
 ミレニア王国にある名もなき村の貧しい少女のミリアは酒浸りの両親の代わりに家族や妹の世話を懸命にしていたが、その妹や周囲の子ども達からは蔑まれていた。  ミリアが八歳になり聖女の素質があるかどうかの儀式を受けると聖女見習いに選ばれた。娼館へ売り払おうとする母親から逃れマルクト神殿で聖女見習いとして修業することになり、更に聖女見習いから聖女候補者として王都の大神殿へと推薦された。しかし、王都の大神殿の聖女候補者は貴族令嬢ばかりで、平民のミリアは虐げられることに。  その頃、大神殿へ行商人見習いとしてやってきたテオと知り合い、見習いの新人同士励まし合い仲良くなっていく。  十五歳になるとミリアは次期聖女に選ばれヘンリー王太子と婚約することになった。しかし、ヘンリー王太子は平民のミリアを気に入らず婚約破棄をする機会を伺っていた。  そして、十八歳を迎えたミリアは王太子に婚約破棄と国外追放の命を受けて、全ての柵から解放される。 「これで私は自由だ。今度こそゆっくり眠って美味しいもの食べよう」  テオとずっと一緒にいろんな国に行ってみたいね。  21.11.7~8、ホットランキング・小説・恋愛部門で一位となりました! 皆様のおかげです。ありがとうございました。  ※「小説家になろう」さまにも掲載しております。  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

処理中です...