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うさ耳殿下と町デート 1
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「うわああああああ‼ ライナルト――ッ‼」
翌朝。
居ても立っても居られないという様子で、訪問予定時間を強引にはやめて我が家に突撃してきた伯父様は、サロンに入るなりソファに座っていたライナルト殿下に抱き着いて泣き出した。
銀色の髪にエメラルド色の瞳。
美男美女の伯父様と伯母様の息子であるライナルト殿下は、遺伝子の優秀さを見せつけるかのような超絶美形だったが、何よりわたしを萌えさせるのは、その頭にぴょこんと生えた二つの黒いうさ耳だった。
よくわからないけれど、ライナルト殿下にかけられた呪いが後退したのか、昨日の夜、わたしがお風呂から上がると、そこには裸にシーツを巻き付けた超絶イケメンが立っていた。
いくらイケメンだろうとさすがに裸にシーツである。しかも頭には、うさ耳。
不審者だと思って悲鳴を上げたわたしは、間違ってはいなかった……はずだ。
けれどもわたしの悲鳴を聞きつけて家族や使用人が部屋に飛び込んできて、そのあと大騒動になったのを見たわたしは、もっと冷静に対応すべきではなかっただろうかと反省した。
まず、お父様が激怒して、ライナルト殿下に飛び掛かろうとしたのだ。
それをお母様が「ちょっと待ってー!」とお父様に体当たりでとめて、すっころんだお父様はお母様の下敷きにされた。
お兄様は箒ならぬルンタッタ君を掲げ持って、「不審者!」とライナルト殿下に殴り掛かろうとするし(あんな固そうなもので殴ったら、当たり所悪かったら死ぬからね?)、フィリベルトたち使用人は、急いで邸を警護している騎士を呼びに行こうとするしで、どこからどう収拾していいのかわからない状況だった。
その状況を止めたのが、一番困惑しているだろうライナルト殿下だったのは、もう、本当に申し訳ないと言うかなんというか。
――その、突然ですまない。兎から人に戻ったようなのだが……。
と、何とも気まずそうな顔で、視線を斜め下に落として告げたライナルト殿下は、本当にもう可哀想だった。
やっと元に戻ったと感動に浸る間もなく不審者扱いだからね……。
さすがにイケメンの裸にシーツはあまりにも目に毒――ではなく、可哀想だったから、すぐにお兄様の服に着替えてもらって、ようやくそこでライナルト殿下は頭に生えたままのうさ耳に気づいて愕然としていた。
呪いが解けたと思ったら完全に解けてなかったパターンだもんね、うん、ショックを受けるのは仕方ない。
でも、イケメンのうさ耳は何というか、ごちそうさまです! って感じですけどね。空気読めなくてすみません! って思うけど、すごい破壊力ですから。
そして、うさ耳が生えた状態の王子殿下を人目にさらすのは憚られるかもしれない、ということで、国王陛下たちのお迎えは控えてもらって、サロンで待機してもらっていたというわけだ。
「……父上、鼻水が垂れてますけど」
父親に抱き着かれてわーわー泣かれたライナルト殿下は、ちょっと迷惑そうである。
伯父様が「うむ」と言って泣きながらハンカチで鼻を抑えると、今度は待ってましたとばかりに伯母様がライナルト殿下に泣きながら抱き着いた。
ディートヘルム殿下も、手をワキワキさせて抱き着く順番待ちをしている。
……うん、しばらく収拾つかなさそうだから、温かく見守ってあげた方がいいよね。
一人迷惑そうなライナルト殿下には申し訳ないが、この感動を邪魔してはならない。
それに、ライナルト殿下も、迷惑そうな顔をしつつ照れているみたいだから、まんざらでもないのかもしれないし。
しかし、銀髪イケメンに黒いうさ耳……。なんて素敵な組み合わせだろうか。カメラがないのが心底悔やまれる。この奇跡の組み合わせは、絶対に写真で残すべきだと思うのに。
「お兄様、次は魔術具カメラを開発して」
「お前が何を考えているのか手に取るようだけど、やめておけ。王家の秘密を写真で残したらまずいだろう」
そうだった。
ライナルト殿下が呪いにむしばまれていることは一部の人間を除いて秘密にされていることなので、堂々と証拠品を残せるはずもない。
……なんてこと。これは絶対に残すべき光景なのに!
母親のあとは弟に抱き着かれて、「もういいだろう?」と眉尻を下げている激カワうさ耳イケメンを拝みたい気持ちでいると、涙を拭いた伯父様がサロンの入り口に立ち尽くしたままのわたしを振り返った。
「それで、ライナルトをどうやって元に……まあ、完全ではないが、これはこれで可愛いからまあいいとして、どうやって人の姿に戻したんだ」
ぽろっと本音が混じっている伯父様の質問に、わたしはきょとんとして首をひねった。
え、そんなこと訊かれてもわかんないんだけど。
助けを求めるようにお兄様を見たら肩をすくめられたので無視して、今度はお父様を見る。お父様も困った顔をしたので無視して、最後の頼みだとお母様を見れば、頬に手を当ててころころと笑って、とんでもない爆弾発言をぶっこんできた。
「うふふ、たぶんうちの娘、聖女だと思うのよ」
サロンにいた全員が目を見開いて沈黙したのは、言うまでもない。
翌朝。
居ても立っても居られないという様子で、訪問予定時間を強引にはやめて我が家に突撃してきた伯父様は、サロンに入るなりソファに座っていたライナルト殿下に抱き着いて泣き出した。
銀色の髪にエメラルド色の瞳。
美男美女の伯父様と伯母様の息子であるライナルト殿下は、遺伝子の優秀さを見せつけるかのような超絶美形だったが、何よりわたしを萌えさせるのは、その頭にぴょこんと生えた二つの黒いうさ耳だった。
よくわからないけれど、ライナルト殿下にかけられた呪いが後退したのか、昨日の夜、わたしがお風呂から上がると、そこには裸にシーツを巻き付けた超絶イケメンが立っていた。
いくらイケメンだろうとさすがに裸にシーツである。しかも頭には、うさ耳。
不審者だと思って悲鳴を上げたわたしは、間違ってはいなかった……はずだ。
けれどもわたしの悲鳴を聞きつけて家族や使用人が部屋に飛び込んできて、そのあと大騒動になったのを見たわたしは、もっと冷静に対応すべきではなかっただろうかと反省した。
まず、お父様が激怒して、ライナルト殿下に飛び掛かろうとしたのだ。
それをお母様が「ちょっと待ってー!」とお父様に体当たりでとめて、すっころんだお父様はお母様の下敷きにされた。
お兄様は箒ならぬルンタッタ君を掲げ持って、「不審者!」とライナルト殿下に殴り掛かろうとするし(あんな固そうなもので殴ったら、当たり所悪かったら死ぬからね?)、フィリベルトたち使用人は、急いで邸を警護している騎士を呼びに行こうとするしで、どこからどう収拾していいのかわからない状況だった。
その状況を止めたのが、一番困惑しているだろうライナルト殿下だったのは、もう、本当に申し訳ないと言うかなんというか。
――その、突然ですまない。兎から人に戻ったようなのだが……。
と、何とも気まずそうな顔で、視線を斜め下に落として告げたライナルト殿下は、本当にもう可哀想だった。
やっと元に戻ったと感動に浸る間もなく不審者扱いだからね……。
さすがにイケメンの裸にシーツはあまりにも目に毒――ではなく、可哀想だったから、すぐにお兄様の服に着替えてもらって、ようやくそこでライナルト殿下は頭に生えたままのうさ耳に気づいて愕然としていた。
呪いが解けたと思ったら完全に解けてなかったパターンだもんね、うん、ショックを受けるのは仕方ない。
でも、イケメンのうさ耳は何というか、ごちそうさまです! って感じですけどね。空気読めなくてすみません! って思うけど、すごい破壊力ですから。
そして、うさ耳が生えた状態の王子殿下を人目にさらすのは憚られるかもしれない、ということで、国王陛下たちのお迎えは控えてもらって、サロンで待機してもらっていたというわけだ。
「……父上、鼻水が垂れてますけど」
父親に抱き着かれてわーわー泣かれたライナルト殿下は、ちょっと迷惑そうである。
伯父様が「うむ」と言って泣きながらハンカチで鼻を抑えると、今度は待ってましたとばかりに伯母様がライナルト殿下に泣きながら抱き着いた。
ディートヘルム殿下も、手をワキワキさせて抱き着く順番待ちをしている。
……うん、しばらく収拾つかなさそうだから、温かく見守ってあげた方がいいよね。
一人迷惑そうなライナルト殿下には申し訳ないが、この感動を邪魔してはならない。
それに、ライナルト殿下も、迷惑そうな顔をしつつ照れているみたいだから、まんざらでもないのかもしれないし。
しかし、銀髪イケメンに黒いうさ耳……。なんて素敵な組み合わせだろうか。カメラがないのが心底悔やまれる。この奇跡の組み合わせは、絶対に写真で残すべきだと思うのに。
「お兄様、次は魔術具カメラを開発して」
「お前が何を考えているのか手に取るようだけど、やめておけ。王家の秘密を写真で残したらまずいだろう」
そうだった。
ライナルト殿下が呪いにむしばまれていることは一部の人間を除いて秘密にされていることなので、堂々と証拠品を残せるはずもない。
……なんてこと。これは絶対に残すべき光景なのに!
母親のあとは弟に抱き着かれて、「もういいだろう?」と眉尻を下げている激カワうさ耳イケメンを拝みたい気持ちでいると、涙を拭いた伯父様がサロンの入り口に立ち尽くしたままのわたしを振り返った。
「それで、ライナルトをどうやって元に……まあ、完全ではないが、これはこれで可愛いからまあいいとして、どうやって人の姿に戻したんだ」
ぽろっと本音が混じっている伯父様の質問に、わたしはきょとんとして首をひねった。
え、そんなこと訊かれてもわかんないんだけど。
助けを求めるようにお兄様を見たら肩をすくめられたので無視して、今度はお父様を見る。お父様も困った顔をしたので無視して、最後の頼みだとお母様を見れば、頬に手を当ててころころと笑って、とんでもない爆弾発言をぶっこんできた。
「うふふ、たぶんうちの娘、聖女だと思うのよ」
サロンにいた全員が目を見開いて沈黙したのは、言うまでもない。
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