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聖女の座を悪役令嬢に譲ってスローライフ!のはずが、何故か王子と悪役令嬢がもれなく付いている模様です
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壁ドンは乙女の夢とは言うけれど、時と場合によると思うのですよ。
夜、わたしはさっそく絶体絶命の場面を迎えていた。
わたしの住んでいる家は、二階に三部屋あって、一部屋がわたしの部屋、二部屋がゲストルームでそれぞれシオン様とユーグレーナが使っている。
部屋には内鍵もかかるけれど、基本的に警戒心の欠片もないわたしは、部屋に鍵をかけたことはない。
そしてそれがまさか、こんな結果を招くとは思わなかった――
「シオン様……、あ、あの、これはいったい……」
すよすよと気持ちのいい眠りについていたわたしは、なぜかシオン様に壁に追いつめられている。
だって、誰かの気配がするなーって目が覚めてしまったわたしは、部屋の中にシオン様がいて飛び上がらんばかりに驚いた。
そして、にっこり微笑んでベッドに片膝をついて乗り上げようとしたシオン様から逃れるべくベッドから逃亡――、壁に追いつめられて、シオン様に壁ドンされている状況に陥った。
シオン様はにっこりと微笑む。
窓から入り込む月明かりが照らすその笑顔が美しい――、ではなくって!
追い詰められたわたしは逃げ場を失い、おろおろと視線を彷徨わせる。
シオン様は優美な笑顔を浮かべたまま、愛おしそうにリーゼロッテの頬を撫でた。
「リーゼが悪いんだよ? 僕のそばから離れてこんなところに来るんだから」
「あ、あの……」
「僕はかなりわかりやすく接していたと思うんだけど、態度だけでは足りなかったんだなって痛感したよ」
「えっと……」
「だからこれからは、行動で示そうと思って、ね」
いやー! 夜着のリボンをほどかないで!
わたしは真っ青になって、シオン様から逃れようとしたけれども、壁に追いつめられたか弱い乙女が背の高い男性にかなうはずもない。シオン様、剣の腕もピカイチだし。抑え込まれればなす術もございません。
夜着の胸元のリボンがほどかれて、わたしの白い胸の谷間が見え隠れする。リーゼロッテは乙女ゲームのヒロインだけあって、それは見事なプロポーションの持ち主だけど、こういう場面のときはむしろ「女として見れない」と言われた友理奈でありたい!
せめてもの抵抗に身をよじって胸元を隠そうとすれば、お仕置きだとばかりに耳があまがみされた。
(ひー!)
まずい、これはまずい。
こんな場面はゲームにはなかったけど、このゲーム、結婚前の本番なかった気がするけど、でもこれは、このままいけばおいしくいただかれるコースではございませんか⁉
「リーゼ、怯えているの? 可愛い……」
あー! この人Sだった! ビクビクするのは逆効果だった!
うっとりとわたしの首から肩にかけて撫でているシオン様の手が熱い。
怯えと混乱であわあわしているうちにシオン様に膝裏を救い上げられてお姫様抱っこされたわたしは、そのままベッドの上に下ろされた。
「怖がらないで、リーゼ。一生大切にしてあげるからね」
一生大切にされるのはヒロインが聖女だってわかったあとではございませんでしたかー⁉
マジで泣きそうになったわたしの目尻を、シオン様がねっとりと舐め上げる。
「リーゼ、本当にかわいい……」
またしてもシオン様を喜ばしてしまったらしいわたしは、もはや絶体絶命。
このまま美味しくいただかれて、あれよあれよと絶倫地獄の結婚生活に突入か――、とブルブルと震えていた、その時だった。
「抜け駆けは許しませんわ―――!」
叫び声とともにバターンと部屋の扉が開いて、やわやわとシオン様に胸をもまれていたわたしは、涙目で顔をあげた。
そこには、憤怒の表情のユーグレーナが仁王立ちしていて。
「リーゼロッテはわたくしのものだと申し上げたはずですわ!」
「勝手なことを言うな。リーゼは昔から、それこそ生まれたときから僕のものだ」
いえ、わたしは生まれたときからわたしのものです。
思わず心の中で突っ込んでしまったわたしは、どうやらユーグレーナのおかげで少し冷静さを取り戻せた様子。
だが、ホッと息をついたわたしにずんずんと近づいてきたユーグレーナが、シオン様を押しのけてわたしにのしかかってきて、わたしは息を呑んだ。
「ゆ、ユーグレーナ……?」
「ああ、かわいい。わたくしのリーゼロッテ……」
なんだか雲行きがおかしい。
どんどんユーグレーナの顔が近づいてくるし――、あれ、もしかしなくてもわたし、このままキスされる? 目くるめく百合の世界に連れ込まれるの⁉
と思えば、横からユーグレーナに容赦ない蹴りを浴びせたシオン様が、再びわたしの上に陣取って。
「んぅ―――!」
あっという間に、わたしの口を塞いでくれた。
驚いて開いた口の中に侵入した舌がわたしの口の中を蹂躙して、口を離したシオン様が、ぺろりと唇についた唾液を舐める。
「リーゼは渡さないぞ、この女装野郎!」
……え?
今何か、聞き捨てならない単語が出てまいりましたよ?
リーゼロッテが恐る恐る首を巡らせると、美しい顔に笑みを張り付けたユーグレーナが――、え?
ちょっとまって。
今まで気がつかなかったけど、豊満なお胸がぺったんこですよ?
あれ、どういうこと?
まさか――、と思いながらふるふる震えていると、ユーグレーナが笑顔のまま「ごめんなさいね」と言う。
「本当はまだ内緒にしておこうと思ったんだけどばらされちゃったから」
「ゆ、ユーグレーナ? まさか……」
男――? 震える唇でそう紡げば、パチンとウインクされた。
「そのまさかよ」
ガーン、と頭を殴られる衝撃とはこういうことを言うのだろうか。
茫然を通り越して放心してしまったわたしは、わたしのからだをなでなでしはじめたシオン様にも気がつかず、穴があくほどユーグレーナを見つめる。
(男? 男? ユーグレーナが、男?)
いやいや、まてまて。
ゲームの世界ではユーグレーナは女性でしたよね、「悪役令嬢」だったよね?
そのユーグレーナがどうして「男」になってるの?
わたしの混乱をよそに、怪しい動きでわたしをなでなでしていたシオン様とユーグレーナのバトルが再度勃発して、激しい口論になっているし。
わたしはくらくらして、両手で顔を覆うと。
「もうどうなっているのか、誰か説明してください!」
叫ばずには、いられなかった。
~~~完~~~
夜、わたしはさっそく絶体絶命の場面を迎えていた。
わたしの住んでいる家は、二階に三部屋あって、一部屋がわたしの部屋、二部屋がゲストルームでそれぞれシオン様とユーグレーナが使っている。
部屋には内鍵もかかるけれど、基本的に警戒心の欠片もないわたしは、部屋に鍵をかけたことはない。
そしてそれがまさか、こんな結果を招くとは思わなかった――
「シオン様……、あ、あの、これはいったい……」
すよすよと気持ちのいい眠りについていたわたしは、なぜかシオン様に壁に追いつめられている。
だって、誰かの気配がするなーって目が覚めてしまったわたしは、部屋の中にシオン様がいて飛び上がらんばかりに驚いた。
そして、にっこり微笑んでベッドに片膝をついて乗り上げようとしたシオン様から逃れるべくベッドから逃亡――、壁に追いつめられて、シオン様に壁ドンされている状況に陥った。
シオン様はにっこりと微笑む。
窓から入り込む月明かりが照らすその笑顔が美しい――、ではなくって!
追い詰められたわたしは逃げ場を失い、おろおろと視線を彷徨わせる。
シオン様は優美な笑顔を浮かべたまま、愛おしそうにリーゼロッテの頬を撫でた。
「リーゼが悪いんだよ? 僕のそばから離れてこんなところに来るんだから」
「あ、あの……」
「僕はかなりわかりやすく接していたと思うんだけど、態度だけでは足りなかったんだなって痛感したよ」
「えっと……」
「だからこれからは、行動で示そうと思って、ね」
いやー! 夜着のリボンをほどかないで!
わたしは真っ青になって、シオン様から逃れようとしたけれども、壁に追いつめられたか弱い乙女が背の高い男性にかなうはずもない。シオン様、剣の腕もピカイチだし。抑え込まれればなす術もございません。
夜着の胸元のリボンがほどかれて、わたしの白い胸の谷間が見え隠れする。リーゼロッテは乙女ゲームのヒロインだけあって、それは見事なプロポーションの持ち主だけど、こういう場面のときはむしろ「女として見れない」と言われた友理奈でありたい!
せめてもの抵抗に身をよじって胸元を隠そうとすれば、お仕置きだとばかりに耳があまがみされた。
(ひー!)
まずい、これはまずい。
こんな場面はゲームにはなかったけど、このゲーム、結婚前の本番なかった気がするけど、でもこれは、このままいけばおいしくいただかれるコースではございませんか⁉
「リーゼ、怯えているの? 可愛い……」
あー! この人Sだった! ビクビクするのは逆効果だった!
うっとりとわたしの首から肩にかけて撫でているシオン様の手が熱い。
怯えと混乱であわあわしているうちにシオン様に膝裏を救い上げられてお姫様抱っこされたわたしは、そのままベッドの上に下ろされた。
「怖がらないで、リーゼ。一生大切にしてあげるからね」
一生大切にされるのはヒロインが聖女だってわかったあとではございませんでしたかー⁉
マジで泣きそうになったわたしの目尻を、シオン様がねっとりと舐め上げる。
「リーゼ、本当にかわいい……」
またしてもシオン様を喜ばしてしまったらしいわたしは、もはや絶体絶命。
このまま美味しくいただかれて、あれよあれよと絶倫地獄の結婚生活に突入か――、とブルブルと震えていた、その時だった。
「抜け駆けは許しませんわ―――!」
叫び声とともにバターンと部屋の扉が開いて、やわやわとシオン様に胸をもまれていたわたしは、涙目で顔をあげた。
そこには、憤怒の表情のユーグレーナが仁王立ちしていて。
「リーゼロッテはわたくしのものだと申し上げたはずですわ!」
「勝手なことを言うな。リーゼは昔から、それこそ生まれたときから僕のものだ」
いえ、わたしは生まれたときからわたしのものです。
思わず心の中で突っ込んでしまったわたしは、どうやらユーグレーナのおかげで少し冷静さを取り戻せた様子。
だが、ホッと息をついたわたしにずんずんと近づいてきたユーグレーナが、シオン様を押しのけてわたしにのしかかってきて、わたしは息を呑んだ。
「ゆ、ユーグレーナ……?」
「ああ、かわいい。わたくしのリーゼロッテ……」
なんだか雲行きがおかしい。
どんどんユーグレーナの顔が近づいてくるし――、あれ、もしかしなくてもわたし、このままキスされる? 目くるめく百合の世界に連れ込まれるの⁉
と思えば、横からユーグレーナに容赦ない蹴りを浴びせたシオン様が、再びわたしの上に陣取って。
「んぅ―――!」
あっという間に、わたしの口を塞いでくれた。
驚いて開いた口の中に侵入した舌がわたしの口の中を蹂躙して、口を離したシオン様が、ぺろりと唇についた唾液を舐める。
「リーゼは渡さないぞ、この女装野郎!」
……え?
今何か、聞き捨てならない単語が出てまいりましたよ?
リーゼロッテが恐る恐る首を巡らせると、美しい顔に笑みを張り付けたユーグレーナが――、え?
ちょっとまって。
今まで気がつかなかったけど、豊満なお胸がぺったんこですよ?
あれ、どういうこと?
まさか――、と思いながらふるふる震えていると、ユーグレーナが笑顔のまま「ごめんなさいね」と言う。
「本当はまだ内緒にしておこうと思ったんだけどばらされちゃったから」
「ゆ、ユーグレーナ? まさか……」
男――? 震える唇でそう紡げば、パチンとウインクされた。
「そのまさかよ」
ガーン、と頭を殴られる衝撃とはこういうことを言うのだろうか。
茫然を通り越して放心してしまったわたしは、わたしのからだをなでなでしはじめたシオン様にも気がつかず、穴があくほどユーグレーナを見つめる。
(男? 男? ユーグレーナが、男?)
いやいや、まてまて。
ゲームの世界ではユーグレーナは女性でしたよね、「悪役令嬢」だったよね?
そのユーグレーナがどうして「男」になってるの?
わたしの混乱をよそに、怪しい動きでわたしをなでなでしていたシオン様とユーグレーナのバトルが再度勃発して、激しい口論になっているし。
わたしはくらくらして、両手で顔を覆うと。
「もうどうなっているのか、誰か説明してください!」
叫ばずには、いられなかった。
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