短編集「異世界恋愛」

狭山ひびき@バカふり200万部突破

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聖女の座を悪役令嬢に譲ってスローライフ!のはずが、何故か王子と悪役令嬢がもれなく付いている模様です

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 結論から申しましょう。

 わたしのビバ腐女子スローライフは、二週間で幕を閉じました。

 え? なぜかって。それは――

「リーゼロッテ! この花は花壇のどのあたりがいいだろう」

「リーゼロッテ! わたくし、グリーンカーテンなるものを作ってみたいのです」

 茫然とするわたしをよそに、目の前のきらびやかなお二人はスコップ片手に土まみれになっている。

 可愛らしいパンジーの花を片手に、スコップを持った手で額の汗をぬぐい、「リーゼロッテ」と話しかけるお美しいお方は、この国の第一王子、シオン様。

 そして、ゴーヤっぽい植物の種を持って、グリーンカーテン! と騒いでいるのは、はい、悪役令嬢ポジションのユーグレーナ。

 なんでこの二人がいるのかって?

 それはわたしのほうが聞きたいです!



 わたしの楽しいスローライフ生活は、二日前にやってきたシオン様とユーグレーナによって脅かされています。

 この二人が何しにやってきたのか、それはわたしにもわかりません!

 だが、突然仲良くやってきたこの二人は、なぜかわたしを取り合ってバチバチと火花を散らしている。

 ちなみに、シオン様はわたしの幼馴染で、年は二十歳。光り輝くようなきらっきらの金髪に知的な濃紺の瞳をお持ちだ。

 わたしはお妃候補のひとりだそうだけど、わたしにとってはお兄ちゃん的存在で、もちろん結婚する気はさらさらなし。だってこの人、さわやかな外見に似合わず絶倫なんだもん(ゲーム情報)。ちょっぴりアブノーマルなプレイもお好きみたいだし(絶対嫌!)。
何故か彼は昔っからわたしに対して超過保護で、何かにつけて世話を焼きたがる。でもまかね、一国の王子がよ? しかも王位継承権一位の第一王子がよ? ど田舎にまで妹分の世話下記のために来ると思わないじゃない!

 そしてユーグレーナ。……こっちは、まあ、わたしが悪いと言えなくもない。

 くどいようだが、わたしは悪役令嬢である彼女が嫌いではない。そのため、わたしが前世の記憶を取り戻してからは、とっても仲良くしていた。ユーグレーナはすでにわたしを「親友」扱いしていて――、なぜかわたしに近づく男どもをあの手この手で蹴散らしている。

 わたしは、はーっとため息をついて、とりあえずパンジーとゴーヤっぽい植物の種を植えることにした。

 庭づくりを手伝ってくれるのはいいけどさー。もうちょっと仲良くやってくれないかな。

 パンジーを植えに行けばこっちを早く手伝えと腕を引っ張るユーグレーナに、ゴーヤっぽい種を植えに行けば、新しい花を持ってきてはこれはどこに植えるんだと手を引くシオン様。もうね、帰ってくれない?

 ぐったりなガーデニングタイムを終えて、土だらけの服を着替えて、こじんまりとした居間に入ると、わたしは二人のためにミルクティーを煎れはじめる。王都にある王家御用達のお店の紅茶みたいな高級品じゃないけど、いいよね? だってど田舎だもん。三十分ほど歩いたところにある小さな町のこれまた小さなお店で買った紅茶なんだから、高級品が売っているはずもない。

 うちの両親は、ド田舎で生活する愛娘のために、いろいろと世話を焼こうとしたが、次々と高級品が届けられる毎日ではスローライフとは呼べません! ということで、生活に困らない程度のお金はありがたく頂戴したけれど、それ以外は全部自分でやるって決めているの。お金をもらえるだけ、すっごくハッピーですよ! 社会人経験なくして死にましたけど、日本では「働かざるもの食うべからず」というありがたーい格言がございますからね。

「で、お二人はいつまでここにいらっしゃるんですか?」

 小さな家と言っても、ゲストルームは用意されている。庶民の家と比べるとかなり贅沢なお家。二人を泊める部屋には困らないが、城やユーグレーナの侯爵家と比べると狭いし、食べるものも、わたしの手作りだから自慢できるものでもない。

 わたしが訊ねれば、二人は息ぴったりにこう言った。

「「リーゼロッテが帰るまで」」

「………なんで?」

 わたくし、帰るつもりはございませんのよ?

 だって、目的は聖女回避だし、腐女子スローライフだし、帰る理由なんてございません。むしろ帰ったりなんかしたら、未来の夫との激しくて息も絶え絶えな恐ろしい夫婦生活に突入ですよ。冗談じゃない。

 そりゃね、結婚には憧れるけど、フツーがいいのよ。フツーに愛されたいの。絶倫とかドSとか、ヤンデレとかはお呼びでない。

(シオン様、エスッけあるし……)

 ゲームをやっていたからわかる。今の親密度的に、リーゼロッテの未来の夫にはシオンが一番近いところにいる。だがしかし。彼は絶倫。アブノーマルプレイ大好き。そしてマジ泣きするまで責め立てるような容赦のないご性格。――彼と結婚したら、まず間違いなく地獄を見るね。

 だからわたしのことは放っておいて、おかえりいただきたいのだけど――

「僕の可愛いリーゼ、帰っておいで。一生大切にしてあげる」

 シオン様はわたしをふんわり抱きしめると、まるで恋人にそうするように頬にチュッとキスをしてくる。

「あー! 抜け駆けですわ!」

 それを見たユーグレーナが憤然と立ち上がり、わたしの反対側の頬にチュッとキス。

「リーゼロッテ! わたくしのほうが一生あなたを大事にいたしますから、わたくしと帰りましょう!」

 わたしを挟んでバチバチと散る火花。

 どうしてこうなったのか、誰か説明いただけないでしょうか⁉





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