上 下
43 / 99
超年の差結婚だけど幸せでした! でも短すぎる夫婦生活だったのでやり直しを希望します!

しおりを挟む
「神様のぉ――、どけちぃ―――!」

 深夜。

 誰もいない教会の裏手の墓地に立っている女神像を蹴飛ばしながら、わたしは叫んだ。

「何が運命よ! 運命なんてくそくらえ! うわーん、旦那様ぁああああ!」

 びーび―泣きながらげしげしと女神像を蹴り続ける。

 わたし、ベルイヤ・バローク。通称ベル。二十二歳。つい三日前にこの墓地に最愛の旦那様が埋葬された未亡人です。

 わたしと旦那様は驚くなかれ、その差五十歳という年の差結婚。

 わたしが十六歳の時に、当時六十六歳だった旦那様と結婚したの。

 あ、今、借金のかたにーとか、脅されてーとか失礼なことを思ったわね?

 違うわよ!

 はじまりは恋愛――ってわけじゃなかったけど、わたしと旦那様はきちんと愛を育んで結婚したラブラブ夫婦よ!

 簡単に言えば、旦那様って戦争のときにすごい功績を立てた勇敢な騎士で、わたしはその騎士に下賜された姫君ってわけ。

 戦争が終わったのは今から四十年も前の話だけどね。

 旦那様、戦争があったときはいつ死ぬかもしれないからって誰とも結婚しないで、戦争が終わったら終わったで、こんな厳つい顔の男の妻にされては女性がかわいそうだって結婚しなくって――、なんだかんだと五十六歳まですごしてきたんだけど、当時国王だったわたしのおじいさまが、「一生独身ですごす気か! せめて死ぬ前に若い娘でも貰っておけ」って強引に自分の孫娘だったわたしと婚約させたわけ。ちなみにわたしは当時六歳で、旦那様は「ふざけてんのか!」ってキレたらしいけど、おじいさまったら権力を傘に「命令だ」って押し通したって言うからすごいわよね。

 わたしはそんなこんなで十六歳のときに旦那様に嫁いだんだけど、旦那様ってば最初のころは本当に申し訳なさそうで「自分はすぐ死ぬから、死ぬ前にいい人を探してやるからな」って言うんだもの。

 でも、婚約してしばらくは、おじいさまと年の変わらない旦那様と結婚することに「結婚? 本当に?」って思っていたわたしだけど、結婚するときにはすでに厳ついけど優しい旦那様にメロメロになっていたから、旦那様以外の人と結婚するなんて冗談じゃなかった。

 でも旦那様はなかなか納得してくれなくて、二年くらい「好きだ」「勘違いだ」の攻防を繰り返したものよ。

 最終的には旦那様が折れてくれて、幸せな結婚生活を送ってたんだけど――、どんなに強くても、年には勝てなかったみたい。

 三日前に旦那様は、風邪をこじらせてそのまま逝ってしまった。

 最期に、君はまだ若いから、誰かほかの人と幸せになれって言い残して。

 あんまりだ。

 神様は意地悪よ。

 もっともっと一緒にいたかったのに。

 完全な八つ当たりだってわかっているけど、ほかに文句を言うところがなくて、わたしは何度も女神像を蹴飛ばした。

 神父が、旦那様を埋葬するときに泣いて泣いて仕方がないわたしに「これは運命だ」と言ったのがなによりも腹が立つ。

 何が運命よ!

 運命なら、旦那様がもっと若いときに出会いたかった!

 一緒に年老いて、一緒に死にたかったのに!

「旦那様にもう一回会わせろぉおおお―――!」

 ほかの人と何と再婚なんて無理。

 わたしは旦那様以外となんて幸せになれやしないのよ!

 わーんわーんと誰もいない墓地で泣き続けていたら、突然、「はー」と疲れたようなため息が聞こえてきた。

「うるさいわねぇ」

 心底鬱陶しそうなその声に、わたしはぴたりと泣くのをやめた。

 え? この女神像、今喋らなかった?

 足蹴にした体勢のまま女神像を見上げると――、あれ? なんかわたしを見下ろしてない?

 泣きすぎて頭がおかしくなったのかと思ったわたしだけど、もうこの際何だっていいや。

「旦那様ああああああ―――!」

 再び泣き叫びはじめたわたしに、女神像が「うるさああああい!」って怒鳴る。

「もう我慢できない! そんなに会いたきゃ会わせてあげるわよ! だからもう二度とわたしの安眠を妨害しないでちょうだい!」

 とっとと消えろ――、そんな乱暴な声がして。

 わたしの意識は闇に飲まれた。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

逆ハーレムの構成員になった後最終的に選ばれなかった男と結婚したら、人生薔薇色になりました。

下菊みこと
恋愛
逆ハーレム構成員のその後に寄り添う女性のお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

処理中です...