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超年の差結婚だけど幸せでした! でも短すぎる夫婦生活だったのでやり直しを希望します!
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「神様のぉ――、どけちぃ―――!」
深夜。
誰もいない教会の裏手の墓地に立っている女神像を蹴飛ばしながら、わたしは叫んだ。
「何が運命よ! 運命なんてくそくらえ! うわーん、旦那様ぁああああ!」
びーび―泣きながらげしげしと女神像を蹴り続ける。
わたし、ベルイヤ・バローク。通称ベル。二十二歳。つい三日前にこの墓地に最愛の旦那様が埋葬された未亡人です。
わたしと旦那様は驚くなかれ、その差五十歳という年の差結婚。
わたしが十六歳の時に、当時六十六歳だった旦那様と結婚したの。
あ、今、借金のかたにーとか、脅されてーとか失礼なことを思ったわね?
違うわよ!
はじまりは恋愛――ってわけじゃなかったけど、わたしと旦那様はきちんと愛を育んで結婚したラブラブ夫婦よ!
簡単に言えば、旦那様って戦争のときにすごい功績を立てた勇敢な騎士で、わたしはその騎士に下賜された姫君ってわけ。
戦争が終わったのは今から四十年も前の話だけどね。
旦那様、戦争があったときはいつ死ぬかもしれないからって誰とも結婚しないで、戦争が終わったら終わったで、こんな厳つい顔の男の妻にされては女性がかわいそうだって結婚しなくって――、なんだかんだと五十六歳まですごしてきたんだけど、当時国王だったわたしのおじいさまが、「一生独身ですごす気か! せめて死ぬ前に若い娘でも貰っておけ」って強引に自分の孫娘だったわたしと婚約させたわけ。ちなみにわたしは当時六歳で、旦那様は「ふざけてんのか!」ってキレたらしいけど、おじいさまったら権力を傘に「命令だ」って押し通したって言うからすごいわよね。
わたしはそんなこんなで十六歳のときに旦那様に嫁いだんだけど、旦那様ってば最初のころは本当に申し訳なさそうで「自分はすぐ死ぬから、死ぬ前にいい人を探してやるからな」って言うんだもの。
でも、婚約してしばらくは、おじいさまと年の変わらない旦那様と結婚することに「結婚? 本当に?」って思っていたわたしだけど、結婚するときにはすでに厳ついけど優しい旦那様にメロメロになっていたから、旦那様以外の人と結婚するなんて冗談じゃなかった。
でも旦那様はなかなか納得してくれなくて、二年くらい「好きだ」「勘違いだ」の攻防を繰り返したものよ。
最終的には旦那様が折れてくれて、幸せな結婚生活を送ってたんだけど――、どんなに強くても、年には勝てなかったみたい。
三日前に旦那様は、風邪をこじらせてそのまま逝ってしまった。
最期に、君はまだ若いから、誰かほかの人と幸せになれって言い残して。
あんまりだ。
神様は意地悪よ。
もっともっと一緒にいたかったのに。
完全な八つ当たりだってわかっているけど、ほかに文句を言うところがなくて、わたしは何度も女神像を蹴飛ばした。
神父が、旦那様を埋葬するときに泣いて泣いて仕方がないわたしに「これは運命だ」と言ったのがなによりも腹が立つ。
何が運命よ!
運命なら、旦那様がもっと若いときに出会いたかった!
一緒に年老いて、一緒に死にたかったのに!
「旦那様にもう一回会わせろぉおおお―――!」
ほかの人と何と再婚なんて無理。
わたしは旦那様以外となんて幸せになれやしないのよ!
わーんわーんと誰もいない墓地で泣き続けていたら、突然、「はー」と疲れたようなため息が聞こえてきた。
「うるさいわねぇ」
心底鬱陶しそうなその声に、わたしはぴたりと泣くのをやめた。
え? この女神像、今喋らなかった?
足蹴にした体勢のまま女神像を見上げると――、あれ? なんかわたしを見下ろしてない?
泣きすぎて頭がおかしくなったのかと思ったわたしだけど、もうこの際何だっていいや。
「旦那様ああああああ―――!」
再び泣き叫びはじめたわたしに、女神像が「うるさああああい!」って怒鳴る。
「もう我慢できない! そんなに会いたきゃ会わせてあげるわよ! だからもう二度とわたしの安眠を妨害しないでちょうだい!」
とっとと消えろ――、そんな乱暴な声がして。
わたしの意識は闇に飲まれた。
深夜。
誰もいない教会の裏手の墓地に立っている女神像を蹴飛ばしながら、わたしは叫んだ。
「何が運命よ! 運命なんてくそくらえ! うわーん、旦那様ぁああああ!」
びーび―泣きながらげしげしと女神像を蹴り続ける。
わたし、ベルイヤ・バローク。通称ベル。二十二歳。つい三日前にこの墓地に最愛の旦那様が埋葬された未亡人です。
わたしと旦那様は驚くなかれ、その差五十歳という年の差結婚。
わたしが十六歳の時に、当時六十六歳だった旦那様と結婚したの。
あ、今、借金のかたにーとか、脅されてーとか失礼なことを思ったわね?
違うわよ!
はじまりは恋愛――ってわけじゃなかったけど、わたしと旦那様はきちんと愛を育んで結婚したラブラブ夫婦よ!
簡単に言えば、旦那様って戦争のときにすごい功績を立てた勇敢な騎士で、わたしはその騎士に下賜された姫君ってわけ。
戦争が終わったのは今から四十年も前の話だけどね。
旦那様、戦争があったときはいつ死ぬかもしれないからって誰とも結婚しないで、戦争が終わったら終わったで、こんな厳つい顔の男の妻にされては女性がかわいそうだって結婚しなくって――、なんだかんだと五十六歳まですごしてきたんだけど、当時国王だったわたしのおじいさまが、「一生独身ですごす気か! せめて死ぬ前に若い娘でも貰っておけ」って強引に自分の孫娘だったわたしと婚約させたわけ。ちなみにわたしは当時六歳で、旦那様は「ふざけてんのか!」ってキレたらしいけど、おじいさまったら権力を傘に「命令だ」って押し通したって言うからすごいわよね。
わたしはそんなこんなで十六歳のときに旦那様に嫁いだんだけど、旦那様ってば最初のころは本当に申し訳なさそうで「自分はすぐ死ぬから、死ぬ前にいい人を探してやるからな」って言うんだもの。
でも、婚約してしばらくは、おじいさまと年の変わらない旦那様と結婚することに「結婚? 本当に?」って思っていたわたしだけど、結婚するときにはすでに厳ついけど優しい旦那様にメロメロになっていたから、旦那様以外の人と結婚するなんて冗談じゃなかった。
でも旦那様はなかなか納得してくれなくて、二年くらい「好きだ」「勘違いだ」の攻防を繰り返したものよ。
最終的には旦那様が折れてくれて、幸せな結婚生活を送ってたんだけど――、どんなに強くても、年には勝てなかったみたい。
三日前に旦那様は、風邪をこじらせてそのまま逝ってしまった。
最期に、君はまだ若いから、誰かほかの人と幸せになれって言い残して。
あんまりだ。
神様は意地悪よ。
もっともっと一緒にいたかったのに。
完全な八つ当たりだってわかっているけど、ほかに文句を言うところがなくて、わたしは何度も女神像を蹴飛ばした。
神父が、旦那様を埋葬するときに泣いて泣いて仕方がないわたしに「これは運命だ」と言ったのがなによりも腹が立つ。
何が運命よ!
運命なら、旦那様がもっと若いときに出会いたかった!
一緒に年老いて、一緒に死にたかったのに!
「旦那様にもう一回会わせろぉおおお―――!」
ほかの人と何と再婚なんて無理。
わたしは旦那様以外となんて幸せになれやしないのよ!
わーんわーんと誰もいない墓地で泣き続けていたら、突然、「はー」と疲れたようなため息が聞こえてきた。
「うるさいわねぇ」
心底鬱陶しそうなその声に、わたしはぴたりと泣くのをやめた。
え? この女神像、今喋らなかった?
足蹴にした体勢のまま女神像を見上げると――、あれ? なんかわたしを見下ろしてない?
泣きすぎて頭がおかしくなったのかと思ったわたしだけど、もうこの際何だっていいや。
「旦那様ああああああ―――!」
再び泣き叫びはじめたわたしに、女神像が「うるさああああい!」って怒鳴る。
「もう我慢できない! そんなに会いたきゃ会わせてあげるわよ! だからもう二度とわたしの安眠を妨害しないでちょうだい!」
とっとと消えろ――、そんな乱暴な声がして。
わたしの意識は闇に飲まれた。
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