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拾ったわんこ(狼)が可愛すぎてモフりまくってたら襲われた(R18)
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半年後、わたしは夫であるブラッドリー伯爵の顔を一度も見ないまま、輿入れの日を迎えた。
ブラッドリー伯爵とは、二度ほど手紙でやり取りしただけ。
ただ、その手紙を見る限り、とても紳士的な方のように見受けられた。
お父様は、もう少し長く婚約期間をとっても良かったのではないかとか、一度も顔を見ないままなのはどうかと思うとかブツブツ言っていたが、わたしがいいと言ったからか渋々送り出してくれる。
身の回りのものも、世話をしてくれる侍女もすべてこちらで手配するとブラッドリー伯爵がおっしゃられるので、アレクサンダー以外、わたしは本当に身一つで嫁ぐこととなった。
ブラッドリー伯爵の領地まで馬車で一週間以上もかかる。
アレクサンダーは一緒に馬車に乗っているから、わたしはずっともふもふしながら道中を楽しんだ。
伯爵の領地は北の地で、領地が近くなるにつれて寒くなっていったが、アレクサンダーを抱きしめていると暖かいから困らなかったし、出立前にわざわざ伯爵から分厚いコートが贈られていたから、寒さに途中で慌てることもなかった。
気を遣ってコートを贈ってくださるあたり、優しい方のように思えてホッとする。
そりゃ、アレクサンダーと一緒にいたいって言うのが大前提だけど、夫となる方は優しい方がいい。
「どんな方なのかしらね、アレクサンダー」
頭をなでなでしてわたしが問えば、アレクサンダーはべろんとわたしの顔をなめた。
ブラッドリー伯爵家は大きな古城のようだった。
小高い丘に建つ邸は石壁で背が高く、コの字型の建物の左右は塔のように屋根がとんがっている。
綺麗に手入れされている庭も広く、これならアレクサンダーも思いっきり走り回れてよさそうだ。
邸に入ると、ずらっと二列に並んだ使用人さんたちが、ぴしっと一部の乱れもなく頭を下げて歓迎してくれる。
その中から一人の背の高い男性が進み出てきた。黒髪をピシッと撫でつけた、少し強面の彼は、どうやらブラッドリー家の執事らしい。
彼はオスカーと名乗った。オスカーはちらりとわたしの隣にいるアレクサンダーに視線を落としてから、口を開いた。
「お遠いところからいらしてくださり、ありがとうございました。主も喜んでおります。お疲れでしょうから、晩餐までお部屋でおくつろぎくださいませ。お時間になればお呼びいたします」
オスカーに呼ばれてメイドの二人が進み出ると、わたしを部屋に案内してくれる。
案内された部屋は二階の角部屋で、とても広かった。内扉でつながっている隣の部屋が寝室で、そのさらに奥がブラッドリー伯爵の私室だそうだ。
部屋の中は白やピンク、黄色など華やかな色で統一されていて、おかれている家具も上等なもので、とてもすごしやすそうだった。
わたしが疲れていると思ったからか、楽なルームドレスに着替えさせてくれたメイドたちが部屋を退出しようとするのを、わたしは慌てて呼び止めた。
「あ、あの、ブラッドリー伯爵は……?」
すると、メイド二人は困ったように顔を見合わせて、それからなぜかアレクサンダーを見、首を横に振った。
「伯爵は所用があり出かけております。夜には戻られると思いますので……」
「そう、なんですか……」
仮にも花嫁が来たというのに外出していて顔も見せてくれないなんて――、とがっかりしてしまったわたしは悪くないと思う。
メイドたちが出て行くと、わたしはソファに腹ばいに寝そべって、アレクサンダーの頭を撫でた。
「わたし、伯爵に歓迎されてないのかな……」
貴族の結婚なんてほとんど政略的なものだから、愛されて可愛がられる妻を夢見てきたわけではないけれど、さすがにへこむ。
アレクサンダーがまるで「そんなことないよ」と慰めるようにわたしの頬に顔をすりすりしてきて、わたしはちょっぴり感傷的になって腕を伸ばして彼を抱きしめると、ぐすんと鼻を鳴らした。
ブラッドリー伯爵とは、二度ほど手紙でやり取りしただけ。
ただ、その手紙を見る限り、とても紳士的な方のように見受けられた。
お父様は、もう少し長く婚約期間をとっても良かったのではないかとか、一度も顔を見ないままなのはどうかと思うとかブツブツ言っていたが、わたしがいいと言ったからか渋々送り出してくれる。
身の回りのものも、世話をしてくれる侍女もすべてこちらで手配するとブラッドリー伯爵がおっしゃられるので、アレクサンダー以外、わたしは本当に身一つで嫁ぐこととなった。
ブラッドリー伯爵の領地まで馬車で一週間以上もかかる。
アレクサンダーは一緒に馬車に乗っているから、わたしはずっともふもふしながら道中を楽しんだ。
伯爵の領地は北の地で、領地が近くなるにつれて寒くなっていったが、アレクサンダーを抱きしめていると暖かいから困らなかったし、出立前にわざわざ伯爵から分厚いコートが贈られていたから、寒さに途中で慌てることもなかった。
気を遣ってコートを贈ってくださるあたり、優しい方のように思えてホッとする。
そりゃ、アレクサンダーと一緒にいたいって言うのが大前提だけど、夫となる方は優しい方がいい。
「どんな方なのかしらね、アレクサンダー」
頭をなでなでしてわたしが問えば、アレクサンダーはべろんとわたしの顔をなめた。
ブラッドリー伯爵家は大きな古城のようだった。
小高い丘に建つ邸は石壁で背が高く、コの字型の建物の左右は塔のように屋根がとんがっている。
綺麗に手入れされている庭も広く、これならアレクサンダーも思いっきり走り回れてよさそうだ。
邸に入ると、ずらっと二列に並んだ使用人さんたちが、ぴしっと一部の乱れもなく頭を下げて歓迎してくれる。
その中から一人の背の高い男性が進み出てきた。黒髪をピシッと撫でつけた、少し強面の彼は、どうやらブラッドリー家の執事らしい。
彼はオスカーと名乗った。オスカーはちらりとわたしの隣にいるアレクサンダーに視線を落としてから、口を開いた。
「お遠いところからいらしてくださり、ありがとうございました。主も喜んでおります。お疲れでしょうから、晩餐までお部屋でおくつろぎくださいませ。お時間になればお呼びいたします」
オスカーに呼ばれてメイドの二人が進み出ると、わたしを部屋に案内してくれる。
案内された部屋は二階の角部屋で、とても広かった。内扉でつながっている隣の部屋が寝室で、そのさらに奥がブラッドリー伯爵の私室だそうだ。
部屋の中は白やピンク、黄色など華やかな色で統一されていて、おかれている家具も上等なもので、とてもすごしやすそうだった。
わたしが疲れていると思ったからか、楽なルームドレスに着替えさせてくれたメイドたちが部屋を退出しようとするのを、わたしは慌てて呼び止めた。
「あ、あの、ブラッドリー伯爵は……?」
すると、メイド二人は困ったように顔を見合わせて、それからなぜかアレクサンダーを見、首を横に振った。
「伯爵は所用があり出かけております。夜には戻られると思いますので……」
「そう、なんですか……」
仮にも花嫁が来たというのに外出していて顔も見せてくれないなんて――、とがっかりしてしまったわたしは悪くないと思う。
メイドたちが出て行くと、わたしはソファに腹ばいに寝そべって、アレクサンダーの頭を撫でた。
「わたし、伯爵に歓迎されてないのかな……」
貴族の結婚なんてほとんど政略的なものだから、愛されて可愛がられる妻を夢見てきたわけではないけれど、さすがにへこむ。
アレクサンダーがまるで「そんなことないよ」と慰めるようにわたしの頬に顔をすりすりしてきて、わたしはちょっぴり感傷的になって腕を伸ばして彼を抱きしめると、ぐすんと鼻を鳴らした。
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