短編集「異世界恋愛」

狭山ひびき@バカふり200万部突破

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続・聖女は魔王に嫁ぎます!

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 マルベルさんって悪魔伯爵の娘なんですって。

 悪魔伯爵が何なのかはさっぱりわからないけれど、きっと人間界で言う貴族に様なものよね。

 マルベルさんの登場によって、クロにたたき起こされたジオルドはまだ眠そうな顔をしてコーヒーを飲んでいる。

 マルベルさんはジオルドに城から追い出されて、わたしを射殺さんばかりに睨みつけたあとで去って行った。

 まさに嵐が来て去って行ったかのように、わずかな時間とはいえどっと疲れちゃったわ。

 ジオルドによると、生贄を娶らなかった魔王の妻は、悪魔伯爵たちの娘から選ばれていたことが多かったそうで、もしもわたしが現れなければマルベルさんもその候補だったらしいわ。だからわたしに怒っているみたいよ。

 ジオルドは気にするなって言うけれど、あの様子だとまた来そうだし、ちょっと胃が痛い。

「俺を含めてこの城の使用人たちは全力でお前を守るから、心配しなくていいぞ」

 コーヒーを飲み干して、ようやく眠気から覚めてきたらしいジオルドがそう言って微笑んだ。

 グスタヴがからになったコーヒーカップを下げると、使用人に命じて縦に長いテーブルの上に次々と朝食が運ばれてくる。

 思いがけない嵐の到来だったけど、こうしてジオルドと朝ごはんを食べられたのはラッキーだったかしら?

 わたしも大概、現金なものなので、ジオルドと向かい合って朝ごはんを食べはじめると、どんよりしていた気分もすぐに浮上してくる。

 目の前に並ぶ朝食は長年粗食生活を続けてきたわたしの小さな胃には多いけれど、ミントとグスタヴが気を遣って量を半分以下に減らしてくれているから、頑張ればどうにか食べきることができる。

 ジオルドと比べると半分以下のサイズの小さなオムレツを口に運ぶ。

 ジオルドはオムレツに辛いペッパーソースをたっぷりかけていた。ジオルドって辛いものが好きらしいの。だけど、せっかくの黄金色のオムレツが赤く染まるまでソースをかけなくてもいいと思うのよ。見た目、おいしくなさそうに見えるもの。

「午後から何をするんだ?」

 ペッパーソースの海に溺れたオムレツをおいしそうに食べながら、ジオルドが訊ねてくる。

 そうねぇ。

 塔に閉じ込められていたときもそうだったけれど、この城でわたしがすることはほとんどない。

 魔王に嫁いできたからにはこの世界のことを知るべきだと思っているから、ジオルドに頼んで家庭教師をつけてもらったけれど、さすが悪魔と言うか、雇われた家庭教師はとっても気まぐれで、来たり来なかったり。

 今日は来るのかしら?

「先生が来たらお勉強の続きを、来なかったら本でも読もうかしら?」

 わたしが考えてそう答えれば、ジオルドが小さく頷く。

 家庭教師が来ているときは、ジオルドは気を遣ってか、わたしのそばからいなくなるけれど、いないときはわたしと一緒にいることが多いから、本を読むなら多分隣でくつろいでいるんだと思うの。

 魔王の妻になって二か月半――、魔王ってとても愛妻家なのねって驚きとともにしみじみと感じる今日この頃よ。






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