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追放された聖女は滅亡した妖精の国を蘇らせる
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「なるほど、君のところにもバーミリオンが攻めてきたのか」
正直なところ、ロベルトにとってそれは意外なことだった。
国の豊かさはすべて聖女の祈りのおかげである。そのことはロベルトや彼の国の国民たちにとっての常識であり、聖女の祈りが消えるとともに大地は枯れ果てると信じられていたからだ。
異国の王、バーミリオンはそのことを知らなかったのだろうか?
しかし、なるほど。死の孤島の大樹が再び芽吹いたのはエリーゼの祈りのおかげだったらしい。聖女の力を疑っているわけではないが、その力は躯となった過去の遺物である大樹までもをよみがえらせてしまうとは驚きだった。
大樹の太い幹に背中を預けて、ロベルトはまじまじとエリーゼを見つめた。
三歳のころよりずっと神殿の奥深くで聖女として祈りの日々を送っていたせいか、彼女はどこか浮世離れしたような不思議な雰囲気を漂わせているがーー
(……きれいになったな)
三歳の時も、かわいらしい女の子だった。
婚約者という言葉が理解できないのか、兄と勘違いしてひたすら後を追いかけてくる幼子が、ロベルトはかわいくて仕方がなかった。
正直なところ、ロベルトもこの幼い子供が将来の自分の妻になるという認識は持てていなかったが、あの頃は妹ができたようでただただ楽しかったのを覚えている。
もしもエリーゼが聖女に選ばれなければ、彼女はすでに自分の妻だったかもしれない。
そう思うとひどく感慨深く、また、無性に彼女のすべらかな頬に触れてみたい気になって、そっと手を伸ばした。
指先で頬を撫でると、彼女はきょとんとした表情を浮かべて、それから花が咲くように笑った。
「君がここにいるのならば、近いうちにバーミリオンが攻めてくるだろう。君の祈りなくして国は存続しない。田畑は荒れ、川は干上がり、バーミリオンの砂漠の国のようなことになる。そうなったらあの男は君をこの地へ追いやったことを後悔するだろう。君を連れ戻そうとするはずだ」
ロベルトは言いながら眉を寄せた。
バーミリオンが軍を率いて攻めてきたとき、ロベルト一人ではどうすることもできないだろう。
けれども、エリーゼを逃がそうにも船もない。
エリーゼが不安そうに目を伏せたその時、妖精の王アバロンが、大樹の木の幹を撫でながら言った。
「そんな心配は無用だ」
アバロンの言った通り、ロベルトは生きていた。
エリーゼがほっとしたのもつかの間、バーミリオンが攻めてくると聞いて、彼女の頭は真っ白になった。
ロベルトの話では、国は完全にバーミリオンの手に落ちたらしい。
エリーゼは神殿の祈りの間で出会ったあの大きな男を思い出す。額から目の横にかけての大きな傷跡を持った砂漠の王。彼はどこまで奪えば気がすむのだろうか。
「そんな心配は無用だ」
抵抗することもできず、逃げることもできないのかとエリーゼが視線を落とした時、アバロンのどこか飄々とした声が響いた。
「私たち妖精でかなえられることであれば、なんなりとかなえる。そう言っただろう?」
エリーゼを王と呼ぶアバロンはそう言って、不敵に笑った。
正直なところ、ロベルトにとってそれは意外なことだった。
国の豊かさはすべて聖女の祈りのおかげである。そのことはロベルトや彼の国の国民たちにとっての常識であり、聖女の祈りが消えるとともに大地は枯れ果てると信じられていたからだ。
異国の王、バーミリオンはそのことを知らなかったのだろうか?
しかし、なるほど。死の孤島の大樹が再び芽吹いたのはエリーゼの祈りのおかげだったらしい。聖女の力を疑っているわけではないが、その力は躯となった過去の遺物である大樹までもをよみがえらせてしまうとは驚きだった。
大樹の太い幹に背中を預けて、ロベルトはまじまじとエリーゼを見つめた。
三歳のころよりずっと神殿の奥深くで聖女として祈りの日々を送っていたせいか、彼女はどこか浮世離れしたような不思議な雰囲気を漂わせているがーー
(……きれいになったな)
三歳の時も、かわいらしい女の子だった。
婚約者という言葉が理解できないのか、兄と勘違いしてひたすら後を追いかけてくる幼子が、ロベルトはかわいくて仕方がなかった。
正直なところ、ロベルトもこの幼い子供が将来の自分の妻になるという認識は持てていなかったが、あの頃は妹ができたようでただただ楽しかったのを覚えている。
もしもエリーゼが聖女に選ばれなければ、彼女はすでに自分の妻だったかもしれない。
そう思うとひどく感慨深く、また、無性に彼女のすべらかな頬に触れてみたい気になって、そっと手を伸ばした。
指先で頬を撫でると、彼女はきょとんとした表情を浮かべて、それから花が咲くように笑った。
「君がここにいるのならば、近いうちにバーミリオンが攻めてくるだろう。君の祈りなくして国は存続しない。田畑は荒れ、川は干上がり、バーミリオンの砂漠の国のようなことになる。そうなったらあの男は君をこの地へ追いやったことを後悔するだろう。君を連れ戻そうとするはずだ」
ロベルトは言いながら眉を寄せた。
バーミリオンが軍を率いて攻めてきたとき、ロベルト一人ではどうすることもできないだろう。
けれども、エリーゼを逃がそうにも船もない。
エリーゼが不安そうに目を伏せたその時、妖精の王アバロンが、大樹の木の幹を撫でながら言った。
「そんな心配は無用だ」
アバロンの言った通り、ロベルトは生きていた。
エリーゼがほっとしたのもつかの間、バーミリオンが攻めてくると聞いて、彼女の頭は真っ白になった。
ロベルトの話では、国は完全にバーミリオンの手に落ちたらしい。
エリーゼは神殿の祈りの間で出会ったあの大きな男を思い出す。額から目の横にかけての大きな傷跡を持った砂漠の王。彼はどこまで奪えば気がすむのだろうか。
「そんな心配は無用だ」
抵抗することもできず、逃げることもできないのかとエリーゼが視線を落とした時、アバロンのどこか飄々とした声が響いた。
「私たち妖精でかなえられることであれば、なんなりとかなえる。そう言っただろう?」
エリーゼを王と呼ぶアバロンはそう言って、不敵に笑った。
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