11 / 99
お花畑脳の婚約者が「来世でも結婚する運命の人と結婚したいから別れてくれ」と言い出した
エピローグ
しおりを挟む
デビットとキャロルの結婚が白紙に戻ったと聞いたのは、それから一週間後のことだった。
理由は簡単だ。キャロルが浮気をしたのである。
本人曰く「本当の王子様を見つけた」らしい。
おとぎ話の国で生きるキャロルは、真実の愛に目覚めたのだそうだ。どこかで聞いたようなセリフである。
お姫様は運命の王子に出会って幸せに暮らすのだと言って、キャロルの方からデビットを振ったらしい。
だが、現実はおとぎ話のように「めでたしめでたし」と綺麗に終わるものではない。
特に、キャロルのように「人のもの」を取ることに何の躊躇いもないタイプは、自身の行動が地雷の上を歩くようなものだとは気がついていないのだ。
姉の婚約者を奪うのならばまだいい。外聞の問題だけですむだろう。けれどもキャロルが見つけた「本当の王子様」はほかの女性のもの――既婚者だった。
脳内おとぎ話の国のお姫様であるキャロルは、関係を持った男が妻を捨てて自分を選ぶと信じて疑わなかったのだろう。
男の妻がフィーヴィー伯爵家に乗り込んできたときも悪びれることなく、あの男は自分のものだから別れろとまで言ったそうだ。
「それで多額の慰謝料を請求されて、王都の邸を手放すことになったなんて……、我が妹ながら馬鹿なのかしら?」
ウォルト伯爵家にも父が援助を頼みに来たと言うが、もとよりフィーヴィー伯爵のセシルに対する扱いに怒っていたカイルが彼を助けるはずもない。逆に絶縁状を叩きつけて、二度とウォルト伯爵家に関わるなと追い返したそうだ。
「馬鹿ついでに、キャロルは妊娠しているらしいよ」
「なんですって!?」
セシルはぎょっと目を見開いた。
カイルは優雅にティーカップを傾けながら世間話をするようにのんびりと言う。
「相手はデビットかはたまた浮気相手か、わからないというけどね」
「なんてこと……」
セシルは両手で口元を覆った。
「婚約者を捨てて妹に手を出した挙句に浮気されて破談になったデビットも、しばらくは社交界の笑い物だろう。エッグハルト男爵も相当怒っていると言うから、下手をしたら廃嫡かな」
「で、でも……キャロルの子供がもし、デビットの子供だったら……」
「そんなもの、生まれてみないとわからないけどね。どっちの子供にしてもモメることに違いないだろうね。まあ、産めばの話だけど」
「で、でも下ろすのは……」
この国の教会は厳しい。もしもキャロルが堕胎を選択したら、下手をすればキャロルのみならず父も、爵位と領地取り上げの憂き目を見ることになるだろう。それを考えると、キャロルの意志はどうであれ、父が堕胎を許すとは思えない。
「ま、全部自業自得だから、セシルが気にするようなことじゃないよ。関わってもいいことはない」
「……ええ」
セシルだって、フィーヴィー伯爵家にいい思い出はない。幼いころに母を亡くしたセシルは、伯爵家に居場所なんてなかった。虐待こそされなかったが、常にセシルはいないものとして扱われてきたのだ。父にも異母妹にも、義母にも愛情はない。
「デビットは性懲りもなくまた来そうな気がしているけどね。まあ、次に来たら本当に決闘を申し込んで、二度とセシルに近づけないようにしてやるつもりだよ」
「ほ、ほどほどにね……?」
カイルは優しいが、怒ると怖い。デビットがまたセシルに会いに来たならば、カイルは本当に決闘を申し込むはずだ。
「ぼこぼこにしたら、あのお花畑の脳みそも、もっとまともに働くようになるかもしれないよ」
それはどうだろうか。むしろもっと馬鹿になりそうな気がしている。
セシルがふとデビットの能天気な顔を思い浮かべていると、カイルにそっと引き寄せられた。
「だからね、君はもう、あの連中に思い煩わされる必要はないわけだ。これからは俺のことだけを考えてくれ」
「カイルったら……」
そんなことを真顔で言うものだから、セシルは恥ずかしくなってうつむいた。
カイルはセシルの赤い顔を見て満足そうに頷くと、最近どうやら夫への愛を自覚したらしい新妻を、ぎゅうっと抱きしめたのだった。
~~~完~~~
理由は簡単だ。キャロルが浮気をしたのである。
本人曰く「本当の王子様を見つけた」らしい。
おとぎ話の国で生きるキャロルは、真実の愛に目覚めたのだそうだ。どこかで聞いたようなセリフである。
お姫様は運命の王子に出会って幸せに暮らすのだと言って、キャロルの方からデビットを振ったらしい。
だが、現実はおとぎ話のように「めでたしめでたし」と綺麗に終わるものではない。
特に、キャロルのように「人のもの」を取ることに何の躊躇いもないタイプは、自身の行動が地雷の上を歩くようなものだとは気がついていないのだ。
姉の婚約者を奪うのならばまだいい。外聞の問題だけですむだろう。けれどもキャロルが見つけた「本当の王子様」はほかの女性のもの――既婚者だった。
脳内おとぎ話の国のお姫様であるキャロルは、関係を持った男が妻を捨てて自分を選ぶと信じて疑わなかったのだろう。
男の妻がフィーヴィー伯爵家に乗り込んできたときも悪びれることなく、あの男は自分のものだから別れろとまで言ったそうだ。
「それで多額の慰謝料を請求されて、王都の邸を手放すことになったなんて……、我が妹ながら馬鹿なのかしら?」
ウォルト伯爵家にも父が援助を頼みに来たと言うが、もとよりフィーヴィー伯爵のセシルに対する扱いに怒っていたカイルが彼を助けるはずもない。逆に絶縁状を叩きつけて、二度とウォルト伯爵家に関わるなと追い返したそうだ。
「馬鹿ついでに、キャロルは妊娠しているらしいよ」
「なんですって!?」
セシルはぎょっと目を見開いた。
カイルは優雅にティーカップを傾けながら世間話をするようにのんびりと言う。
「相手はデビットかはたまた浮気相手か、わからないというけどね」
「なんてこと……」
セシルは両手で口元を覆った。
「婚約者を捨てて妹に手を出した挙句に浮気されて破談になったデビットも、しばらくは社交界の笑い物だろう。エッグハルト男爵も相当怒っていると言うから、下手をしたら廃嫡かな」
「で、でも……キャロルの子供がもし、デビットの子供だったら……」
「そんなもの、生まれてみないとわからないけどね。どっちの子供にしてもモメることに違いないだろうね。まあ、産めばの話だけど」
「で、でも下ろすのは……」
この国の教会は厳しい。もしもキャロルが堕胎を選択したら、下手をすればキャロルのみならず父も、爵位と領地取り上げの憂き目を見ることになるだろう。それを考えると、キャロルの意志はどうであれ、父が堕胎を許すとは思えない。
「ま、全部自業自得だから、セシルが気にするようなことじゃないよ。関わってもいいことはない」
「……ええ」
セシルだって、フィーヴィー伯爵家にいい思い出はない。幼いころに母を亡くしたセシルは、伯爵家に居場所なんてなかった。虐待こそされなかったが、常にセシルはいないものとして扱われてきたのだ。父にも異母妹にも、義母にも愛情はない。
「デビットは性懲りもなくまた来そうな気がしているけどね。まあ、次に来たら本当に決闘を申し込んで、二度とセシルに近づけないようにしてやるつもりだよ」
「ほ、ほどほどにね……?」
カイルは優しいが、怒ると怖い。デビットがまたセシルに会いに来たならば、カイルは本当に決闘を申し込むはずだ。
「ぼこぼこにしたら、あのお花畑の脳みそも、もっとまともに働くようになるかもしれないよ」
それはどうだろうか。むしろもっと馬鹿になりそうな気がしている。
セシルがふとデビットの能天気な顔を思い浮かべていると、カイルにそっと引き寄せられた。
「だからね、君はもう、あの連中に思い煩わされる必要はないわけだ。これからは俺のことだけを考えてくれ」
「カイルったら……」
そんなことを真顔で言うものだから、セシルは恥ずかしくなってうつむいた。
カイルはセシルの赤い顔を見て満足そうに頷くと、最近どうやら夫への愛を自覚したらしい新妻を、ぎゅうっと抱きしめたのだった。
~~~完~~~
応援ありがとうございます!
37
お気に入りに追加
679
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる