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招集 4

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 城から馬車で三十分ほどの距離のところに、王家の墓地はあった。

 広大な敷地の中に余裕をもって建てられている大きな墓たちの中に、たくさんの新しい花に埋もれるようにして存在している、真っ白な墓がある。

 今日は週に一度の、墓地が一般公開をされていない日なので、墓地の入口に警備の兵士が立っているだけで、中には誰もいなかった。

 冬で芝生は茶色く変色しているけれど、春になると若葉が芽吹いて、あたり一面が緑で覆われる。ずっと暗い古城のキッチンの中に閉じ込められていたネヴァルトが、日当たりのいい、綺麗な場所に埋葬されて本当によかった。

 エイジェリンはネヴァルトの墓の前に膝をついて、花に埋もれている大理石の墓の表を、指先で撫でる。

 途中で寄った花屋で買った花と、それから花屋の隣の店で買った三つのジャガイモを、ウィリアムがそっと墓の上に置く。

(会いに来るのが遅くなってごめんなさい。そして、直接迎えに行けなくて、ごめんなさい)

 エイジェリンが心の中でネヴァルトに話しかけると、一瞬、遠くで「ママ」と言う声がした。

 ハッと顔をあげた瞬間、ぽろりと、左手の親指から指輪が抜け落ちる。

「逝ったな」

 芝生の上に落ちた指輪を拾い上げながら、ウィリアムが言った。

「……あっけなさすぎませんか?」

「いつもこんなものだよ。遺体を見つけてもらえて、そして君がここに会いに来て、きっと満足したんだろう」

「そう、でしょうか……」

 本音を言えば、少しくらい姿を見せてくれるのではないだろうかと思っていた。

 胸の中にじわじわと寂寥感が広がって行って、エイジェリンは胸の上を押さえる。

「なんだか、すごく淋しい気がします」

「そうだな。……俺も、さっさと成仏してくれればいいのにと思っていたのに、少しだけ淋しいよ」

 ウィリアムが冬の高い空を見上げる。

 何となく、エイジェリンも空のどこかにネヴァルトがいる気がして、彼に習った。

 しばらく二人でそうしていると、焦れたように、離れたところで待っていたルーベンスが呼びに来る。

 いつまでもここにいるわけにはいかない。

 フリードリヒに、鍵と指輪を返さなくてはいけないからだ。

「エイジェリン、帰ろう」

 ウィリアムが右手を差し出してきたので、エイジェリンも自然と彼の手を取った。

 思えば、最近、ウィリアムの距離が近い気がするけれど、気のせいだろうか。いつの間にか、呼び方も「エイミー」から「エイジェリン」に変わっている。ハーパー伯爵家を取り戻したエイジェリンはもう偽名を使う必要がなくなったとはいえ、少しくすぐったい。

(本当に……ありがとうございました)

 ウィリアムがいなければ、エイジェリンは伯爵家を取り戻せなかっただろう。もっと言えば、路頭に迷っていたかもしれない。できることなら、そばにいて恩を返したかったけれど、伯爵家を相続して立て直すと言う大仕事が待っているエイジェリンは、彼のもとで使用人を続けることはできない。

 社交嫌いで一年中領地に籠っているウィリアムとは、この先、数えるほどしか会うことはないだろう。

 ウィリアムともサヨナラ打と思うと、胸の奥が小さく痛んだけれど、エイジェリンは針を刺したようなその痛みに気づかないふりをして、そっと目を伏せた。
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