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招集 3
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連れてこられたのは、城のサロンだった。
ティーセットが用意されて、部屋の中にフリードリヒとウィリアム、エイジェリンの三人になると、ティーカップに口をつけて一息ついたフリードリヒが話しはじめた。
「君の伯父夫婦だがね、やはり今回のことを知っていたよ」
きゅっ、とエイジェリンは唇をかんだ。
予想はついていたけれど、実際に確定事項として話されると苦しくなる。伯父夫妻は昔からエイジェリンに優しくて、一つ年上の従姉がいるので、幼いころから遊びに行くことも多かった。そんな彼らがエイジェリンを騙していたなんて、できることなら信じたくない。
フリードリヒが言うには、伯父夫婦はロバートに脅されていたらしかった。従姉の婚約者が
ロバートの親戚筋の人間で、協力しなければ婚約を解消させると迫ったらしい。娘が婚約者のことを深く愛していることを知っていた伯父夫婦は、悩んだ末にロバートに協力し、エイジェリンを欺くことで合意した。
彼らはそのことを今も悔やんでいて、問い詰めれば素直に白状したという。
伯父夫婦については、エイジェリンに嘘を伝えて勤め先を誘導しただけなので、国王への不敬罪は適用されない。罪はほとんど問われることはないそうだが、二人はエイジェリンに直接会って謝罪したいと申し出ているらしい。
どうする、と問われて、エイジェリンはすぐに答えられなかった。
今のエイジェリンには、彼らからの謝罪を受け入れる心の余裕がないからだ。伯父夫婦の顔を見ると、「どうして」という思いが先に来て、彼らを責めてしまうかもしれない。こんな精神状態では、まともに話をすることもできないだろう。
エイジェリンが言葉に詰まっていると、ウィリアムが助け舟を出してくれた。
「すぐに会わなくてもいいだろう。落ち着いたころに、君から連絡してやるといいさ。一言言っておけば、勝手に押しかけてくるような無粋なことをする人たちでもないだろう?」
伯父夫婦は常識をわきまえている人たちだ。エイジェリンの心を慮ることくらいはしてくれるはずである。
エイジェリンが頷くと、フリードリヒはついでとばかりに言った。
「そうそう、君の家庭教師先だったモーテン子爵家だけどね。子爵も罪には問えないんだが……、彼を裁けない代わりと言っては何だが、調べていると面白いことがわかったから、少しばかりいじめてやることにしたよ。だって、私は正義の味方だからね」
フリードリヒは片目をつむってそう言って、残りはウィリアムに聞くといいよと、一つの鍵を渡してくれた。
それは、王家の墓地の鍵だった。……ネヴァルトの骨が埋葬された、墓地の鍵だ。
用がすんだら、指輪とともに返しに来てくれと言って、フリードリヒはこのあと会議があるとかで席を立つ。
ウィリアムに促されて、エイジェリンも立ち上がった。
「陛下……その、この度は何から何まで、本当にありがとうございました」
これほどのことをしてくれたのに、きちんと礼も言っていなかったことに気づいて、エイジェリンが深く頭を下げると、フリードリヒがひらひらと手を振りながら去っていく。
たとえロバートが国王に虚偽申請して伯爵家を奪い取った事実がわかったからと言って、フリードリヒ自身が見て見ぬふりをすると決めれば、エイジェリンの手にハーパー伯爵家が戻ってくることも、彼らが捕えられることもなかった。本当に、感謝しきれない。
そして、ウィリアムも――
「あの、伯爵様も……」
同じように頭を下げようとすると、ウィリアムは照れたように頬を掻きながら「好きでやったことだから気にしなくていい」と笑った。
「そんなことより、ほら、墓地に行くんだろう?」
エイジェリンは、手の中にある少しくすんだ金色の鍵を見つめて、「はい」と大きく頷いた。
ティーセットが用意されて、部屋の中にフリードリヒとウィリアム、エイジェリンの三人になると、ティーカップに口をつけて一息ついたフリードリヒが話しはじめた。
「君の伯父夫婦だがね、やはり今回のことを知っていたよ」
きゅっ、とエイジェリンは唇をかんだ。
予想はついていたけれど、実際に確定事項として話されると苦しくなる。伯父夫妻は昔からエイジェリンに優しくて、一つ年上の従姉がいるので、幼いころから遊びに行くことも多かった。そんな彼らがエイジェリンを騙していたなんて、できることなら信じたくない。
フリードリヒが言うには、伯父夫婦はロバートに脅されていたらしかった。従姉の婚約者が
ロバートの親戚筋の人間で、協力しなければ婚約を解消させると迫ったらしい。娘が婚約者のことを深く愛していることを知っていた伯父夫婦は、悩んだ末にロバートに協力し、エイジェリンを欺くことで合意した。
彼らはそのことを今も悔やんでいて、問い詰めれば素直に白状したという。
伯父夫婦については、エイジェリンに嘘を伝えて勤め先を誘導しただけなので、国王への不敬罪は適用されない。罪はほとんど問われることはないそうだが、二人はエイジェリンに直接会って謝罪したいと申し出ているらしい。
どうする、と問われて、エイジェリンはすぐに答えられなかった。
今のエイジェリンには、彼らからの謝罪を受け入れる心の余裕がないからだ。伯父夫婦の顔を見ると、「どうして」という思いが先に来て、彼らを責めてしまうかもしれない。こんな精神状態では、まともに話をすることもできないだろう。
エイジェリンが言葉に詰まっていると、ウィリアムが助け舟を出してくれた。
「すぐに会わなくてもいいだろう。落ち着いたころに、君から連絡してやるといいさ。一言言っておけば、勝手に押しかけてくるような無粋なことをする人たちでもないだろう?」
伯父夫婦は常識をわきまえている人たちだ。エイジェリンの心を慮ることくらいはしてくれるはずである。
エイジェリンが頷くと、フリードリヒはついでとばかりに言った。
「そうそう、君の家庭教師先だったモーテン子爵家だけどね。子爵も罪には問えないんだが……、彼を裁けない代わりと言っては何だが、調べていると面白いことがわかったから、少しばかりいじめてやることにしたよ。だって、私は正義の味方だからね」
フリードリヒは片目をつむってそう言って、残りはウィリアムに聞くといいよと、一つの鍵を渡してくれた。
それは、王家の墓地の鍵だった。……ネヴァルトの骨が埋葬された、墓地の鍵だ。
用がすんだら、指輪とともに返しに来てくれと言って、フリードリヒはこのあと会議があるとかで席を立つ。
ウィリアムに促されて、エイジェリンも立ち上がった。
「陛下……その、この度は何から何まで、本当にありがとうございました」
これほどのことをしてくれたのに、きちんと礼も言っていなかったことに気づいて、エイジェリンが深く頭を下げると、フリードリヒがひらひらと手を振りながら去っていく。
たとえロバートが国王に虚偽申請して伯爵家を奪い取った事実がわかったからと言って、フリードリヒ自身が見て見ぬふりをすると決めれば、エイジェリンの手にハーパー伯爵家が戻ってくることも、彼らが捕えられることもなかった。本当に、感謝しきれない。
そして、ウィリアムも――
「あの、伯爵様も……」
同じように頭を下げようとすると、ウィリアムは照れたように頬を掻きながら「好きでやったことだから気にしなくていい」と笑った。
「そんなことより、ほら、墓地に行くんだろう?」
エイジェリンは、手の中にある少しくすんだ金色の鍵を見つめて、「はい」と大きく頷いた。
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