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湖には魔物がすんでいる!?
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「ヴィー……!」
明け方近くになって別荘に戻って来たヴィクトールは、部屋の扉を開けるなり突進してくるようにして抱きついてきたスノウに驚いた。
「スノウ、起きていたの?」
裸の上にガウンを羽織っただけのスノウをひょいと抱き上げて目線を合わせると、拗ねたような表情をした彼女が涙目で睨んでくる。
「ヴィー、どこに行っていたの?」
どうやら淋しかったらしい。目尻がほんのりと赤くなっていた。
ヴィクトールはスノウを抱きかかえたままベッドの淵に座ると、なだめるように彼女の頭を撫でる。
「スノウ、いつ起きたの?」
「ちょっと前。……そしたら、ヴィー、いなかった」
「少し用事があったんだよ」
「む」
「浮気じゃないよ?」
「……ほんと?」
「本当」
ちゅっとつむじに唇を落とすと、スノウが顔をあげる。「浮気じゃない」と聞いてスノウの機嫌は少しなおったらしい。
(やれやれ……、焼きもちは嬉しいけど、これはしばらく、こっそり出かけられないかな……)
スノウはいまだにポールの孫娘であるカーラとヴィクトールが仲良さそうに話していたことを根に持っている。その可愛らしい嫉妬は別にかまわないのだが、「浮気」という言葉を覚えたスノウに、疑いのまなざしで見られるのは少々いただけない。
(ビビアンさんも、余計な言葉を教えてくれたものだよ……)
ヴィクトールはスノウに気づかれないようにこっそりと嘆息して、彼女を抱えてベッドの中にもぐりこんだ。
眠ることなく出かけたせいで、ひどく眠たいのだ。
「スノウ、もう少し眠ろうよ。スノウも眠たいでしょ?」
スノウを腕の中に閉じ込めてふわっと欠伸をする。
しかし、スノウは目がすっかり覚めてしまったようで、なじんでいるヴィクトールの左腕を枕にしても、なかなか眠りにつけないようだった。
ヴィクトールは何度か欠伸をかみ殺したあとで、スノウの髪を梳くように撫でながら、少し話をすることにする。
話しているうちにスノウも眠くなるだろうし、何より、ヴィクトールもスノウに訊きたいことがあったのだ。
「ねえ、スノウ。スノウは昔のことを話すのは好きじゃないかもしれないけど、訊いてもいい?」
スノウは「うん」とヴィクトールの腕の中で頷いた。
ヴィクトールの指の間を、スノウのさらさらと手触りのいい髪が滑っていく。
もしもスノウが少しでも怯えを見せたら話をやめようと思いながら、ヴィクトールは口を開いた。
「スノウが旦那様のところにいたときに一緒にいた友達だけど、みんな、スノウと同じように別の旦那様のところに行ったの?」
「う?」
スノウはきょとんとして、それから少し考え込み、首を振った。
「ううん。ほかの旦那様のところに行くのは、女の子たちばっかりだったよ。男の子たちは、大きくなったら山を掘るんだって言ってた」
「山?」
ヴィクトールは眉を寄せる。
(このあたりで山を掘る……。採掘か!)
この近辺の山では紫水晶が採掘できたはずだ。今でこそ国外からの輸入が増え、それに伴い流通量が増えたことから昔よりも価値が下がってきているが、数年前は水晶の価値が今よりも二倍近かったはずだった。
(時期と場所を合わせると、調べがだいぶ早くなるな)
ヴィクトールはそのあとは話題を変えて、スノウと他愛ない会話をしながら、スノウが眠りについたあとで目を閉じた。
そして、朝日がカーテンの隙間から差し込みはじめたころに目を覚ますと、短い手紙を書いてクックの足に縛り付ける。
「何度も行かせてごめんね。……これを、オルフェリウス陛下に」
バサバサと、朝日に向かってクックが飛び立っていく。
「スノウ、もう少しで念願の舟に乗れるかもしれないよ」
ヴィクトールは、まだ夢の中にいるスノウに向かって、そうささやいた。
明け方近くになって別荘に戻って来たヴィクトールは、部屋の扉を開けるなり突進してくるようにして抱きついてきたスノウに驚いた。
「スノウ、起きていたの?」
裸の上にガウンを羽織っただけのスノウをひょいと抱き上げて目線を合わせると、拗ねたような表情をした彼女が涙目で睨んでくる。
「ヴィー、どこに行っていたの?」
どうやら淋しかったらしい。目尻がほんのりと赤くなっていた。
ヴィクトールはスノウを抱きかかえたままベッドの淵に座ると、なだめるように彼女の頭を撫でる。
「スノウ、いつ起きたの?」
「ちょっと前。……そしたら、ヴィー、いなかった」
「少し用事があったんだよ」
「む」
「浮気じゃないよ?」
「……ほんと?」
「本当」
ちゅっとつむじに唇を落とすと、スノウが顔をあげる。「浮気じゃない」と聞いてスノウの機嫌は少しなおったらしい。
(やれやれ……、焼きもちは嬉しいけど、これはしばらく、こっそり出かけられないかな……)
スノウはいまだにポールの孫娘であるカーラとヴィクトールが仲良さそうに話していたことを根に持っている。その可愛らしい嫉妬は別にかまわないのだが、「浮気」という言葉を覚えたスノウに、疑いのまなざしで見られるのは少々いただけない。
(ビビアンさんも、余計な言葉を教えてくれたものだよ……)
ヴィクトールはスノウに気づかれないようにこっそりと嘆息して、彼女を抱えてベッドの中にもぐりこんだ。
眠ることなく出かけたせいで、ひどく眠たいのだ。
「スノウ、もう少し眠ろうよ。スノウも眠たいでしょ?」
スノウを腕の中に閉じ込めてふわっと欠伸をする。
しかし、スノウは目がすっかり覚めてしまったようで、なじんでいるヴィクトールの左腕を枕にしても、なかなか眠りにつけないようだった。
ヴィクトールは何度か欠伸をかみ殺したあとで、スノウの髪を梳くように撫でながら、少し話をすることにする。
話しているうちにスノウも眠くなるだろうし、何より、ヴィクトールもスノウに訊きたいことがあったのだ。
「ねえ、スノウ。スノウは昔のことを話すのは好きじゃないかもしれないけど、訊いてもいい?」
スノウは「うん」とヴィクトールの腕の中で頷いた。
ヴィクトールの指の間を、スノウのさらさらと手触りのいい髪が滑っていく。
もしもスノウが少しでも怯えを見せたら話をやめようと思いながら、ヴィクトールは口を開いた。
「スノウが旦那様のところにいたときに一緒にいた友達だけど、みんな、スノウと同じように別の旦那様のところに行ったの?」
「う?」
スノウはきょとんとして、それから少し考え込み、首を振った。
「ううん。ほかの旦那様のところに行くのは、女の子たちばっかりだったよ。男の子たちは、大きくなったら山を掘るんだって言ってた」
「山?」
ヴィクトールは眉を寄せる。
(このあたりで山を掘る……。採掘か!)
この近辺の山では紫水晶が採掘できたはずだ。今でこそ国外からの輸入が増え、それに伴い流通量が増えたことから昔よりも価値が下がってきているが、数年前は水晶の価値が今よりも二倍近かったはずだった。
(時期と場所を合わせると、調べがだいぶ早くなるな)
ヴィクトールはそのあとは話題を変えて、スノウと他愛ない会話をしながら、スノウが眠りについたあとで目を閉じた。
そして、朝日がカーテンの隙間から差し込みはじめたころに目を覚ますと、短い手紙を書いてクックの足に縛り付ける。
「何度も行かせてごめんね。……これを、オルフェリウス陛下に」
バサバサと、朝日に向かってクックが飛び立っていく。
「スノウ、もう少しで念願の舟に乗れるかもしれないよ」
ヴィクトールは、まだ夢の中にいるスノウに向かって、そうささやいた。
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