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湖には魔物がすんでいる!?

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「魔物?」

 ヴィクトールは目を丸くした。

 隣でスノウが「魔物ってなぁに?」と首をひねっている。

 男は、「まあ狭いけど入りなよ」と小屋の中にヴィクトールたちを招き入れた。

 少しガタガタする木の椅子に腰を下ろして、男が用意した、このあたりに自生しているカモミールの花を乾燥させたハーブティーを一口すすり、ヴィクトールが訊ねる。

「それで、魔物って?」

「俺も詳しいことは知らないがね。半年くらい前からだったかな、湖には危険な魔物が生息しているって噂が広まってね。実際、魔物の仕業じゃないかって言われている被害者も出ているから、今では誰も湖に近づかないのさ」

「ヴィー、魔物って?」

 スノウがヴィクトールの袖を引いた。

「魔物はね、怖いんだよ、お嬢ちゃん。人を捕まえて、殺しちゃうのさ。頭からむしゃむしゃ食べられちゃうかもしれないね」

「ひっ」

 ヴィクトールのかわりに男が答えれば、スノウは小さな悲鳴を上げて、ヴィクトールにすがりついた。

 ヴィクトールはスノウを抱え上げると膝の上に乗せて、よしよしと頭を撫でる。

「すぐ信じるんで、あんまり脅かさないでやってくださいね」

「おっと、これは悪いことをしたねぇ。でも、あながち冗談でもないんだよ」

 男はハーブティーを飲み干すと「今朝、男の遺体が上がったのさ」と言う。

「湖じゃなくて、湖とつながっている川の下流だがねぇ。俺も実際にこの目で見たんじゃなくて、人づてに聞いただけだから、詳しくは知らないけどね」

「それは……、穏やかではないですねぇ」

「だろう? だから、悪いことは言わないよ、湖には近づかない方がいい。噂は所詮噂だって思うだろうが、何もなければ噂も立たないからねぇ。魔物じゃないにしたって、きっと何かがあるのさ」

「警察は……、捜査していないんですか?」

「警察ぅ?」

 男はぷっと吹き出した。

「あはは、警察ねぇ。そりゃあ、一応、町に小さな派出所があるけどねぇ。何の役に立つんだか。警官がしてるっつったら、せいぜい、『気をつけてください』って言って回っているくらいだよ」

 男はカラカラと笑いながら、からになったカップにカモミールティーを注ぎたした。

「とにかく、湖はやめておきな。舟遊びを楽しみにしているお嬢ちゃんには悪いけどねぇ」

 スノウは、ヴィクトールの腕の中で、しょんぼりとうなだれたのだった。
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