16 / 55
湖には魔物がすんでいる!?
2
しおりを挟む
「ヴィー! いっぱい緑!」
馬車の窓に額をつけるようにして外を見やりながら、スノウがはしゃいだ声をあげた。
窓外には青々とした麦畑が広がっている。穂が出て、花が咲いているようだから、あと二か月もしないうちに黄金色の畑にかわるだろう。
収穫時期である初夏になる前には王都に戻っているはずだから、スノウが一面の黄金色の畑を見ることはないだろうが、きっとその光景をみたとしても、今のように嬉しそうに笑うのだろうと思うと微笑ましくなる。
ヴィクトールは、スノウを連れて、シオン・ハワードから一月ほど借りた、ハワード家の別荘の一つに向かっていた。
このあたり一帯は麦とリンゴが特産で、山と森に囲まれたのどかなところだった。そこそこ大きい湖もあるという。
それほどしっかり道が整備されていないので、馬車がガタガタと揺れるのはいただけないが、スノウが馬車酔いしていないのが救いだった。
「奥にはリンゴ畑があると思うよ。道から離れているから、馬車の中からは見えないかもしれないけれど、ちょうど今頃白い花が咲いていてきれいだと思うよ」
「リンゴの花?」
「見たい?」
「うん!」
「じゃあ、明日にでも見に行ってみようか」
別荘まではあともう少しでつくだろうが、もう日が傾きはじめている。この足でリンゴ畑まで向かうのもしんどいので、ヴィクトールが明日と言えば、スノウは満面の笑みを浮かべた。
ヴィクトールはスノウを引き寄せて、サラサラの焦げ茶色の髪を撫でる。
馬車の中なのでヴィクトールはシルクハットをかぶっておらず、銀色の髪を肩に流したままにしていた。
ヴィクトールとスノウの向かいの席には、それぞれケージに入った白いハムスターと鳩がいる。
ハムスターを「チュー」、鳩を「クック」と、スノウが名付けたヴィクトールの相棒たちは、揺れる馬車の中でも平然と眠っていた。
頭を撫でられて、スノウはすりすりとヴィクトールにすり寄った。
「ヴィー、一か月はお仕事ない?」
「うん、スノウとゆっくりする予定だよ」
すると、スノウは嬉しそうに焦げ茶色の丸い瞳を細めて笑う。
(あー……、かわいい!)
ヴィクトールがたまらずスノウを力いっぱい抱きしめると、腕の中でスノウが「ヴィー、くるしぃー」と文句を言った。
腕の力を緩めると、スノウが腕の中で顔をあげる。
「湖っていうおっきな水たまりがあるんでしょ?」
「ん? 湖はあるけど……水たまり? 誰がそんなことをいったの?」
「ビビアンさん!」
スノウが、王都に借りているアパルトマンの管理人で、パン屋も経営している中年の女性の名前を出せば、ヴィクトールは苦笑した。
「言いえて妙なところが面白いけどね。湖はね、水たまりの何百倍何千倍も大きいんだよ」
「……む?」
スノウは首を傾げる。
どうやら想像がつかないらしい彼女は、うーんうーんと首を傾けたまま唸った。
その姿が可愛くて、ヴィクトールは皺を寄せて考え込んでいる彼女の眉間にちゅっと口づける。
「湖には魚も泳いでいて、舟を浮かべて遊ぶこともできるね」
「ふね?」
ぱっとスノウの眉間の皺が消えた。
「ヴィー、舟乗りたい!」
「じゃあ、湖で舟遊びもしようね」
「うん!」
スノウはきらきらと子供のように瞳を輝かせる。
ヴィクトールは、報酬がわりにシオンから別荘を借りてよかったと、にこにこと笑うスノウの頬をつつきながら思ったのだった。
馬車の窓に額をつけるようにして外を見やりながら、スノウがはしゃいだ声をあげた。
窓外には青々とした麦畑が広がっている。穂が出て、花が咲いているようだから、あと二か月もしないうちに黄金色の畑にかわるだろう。
収穫時期である初夏になる前には王都に戻っているはずだから、スノウが一面の黄金色の畑を見ることはないだろうが、きっとその光景をみたとしても、今のように嬉しそうに笑うのだろうと思うと微笑ましくなる。
ヴィクトールは、スノウを連れて、シオン・ハワードから一月ほど借りた、ハワード家の別荘の一つに向かっていた。
このあたり一帯は麦とリンゴが特産で、山と森に囲まれたのどかなところだった。そこそこ大きい湖もあるという。
それほどしっかり道が整備されていないので、馬車がガタガタと揺れるのはいただけないが、スノウが馬車酔いしていないのが救いだった。
「奥にはリンゴ畑があると思うよ。道から離れているから、馬車の中からは見えないかもしれないけれど、ちょうど今頃白い花が咲いていてきれいだと思うよ」
「リンゴの花?」
「見たい?」
「うん!」
「じゃあ、明日にでも見に行ってみようか」
別荘まではあともう少しでつくだろうが、もう日が傾きはじめている。この足でリンゴ畑まで向かうのもしんどいので、ヴィクトールが明日と言えば、スノウは満面の笑みを浮かべた。
ヴィクトールはスノウを引き寄せて、サラサラの焦げ茶色の髪を撫でる。
馬車の中なのでヴィクトールはシルクハットをかぶっておらず、銀色の髪を肩に流したままにしていた。
ヴィクトールとスノウの向かいの席には、それぞれケージに入った白いハムスターと鳩がいる。
ハムスターを「チュー」、鳩を「クック」と、スノウが名付けたヴィクトールの相棒たちは、揺れる馬車の中でも平然と眠っていた。
頭を撫でられて、スノウはすりすりとヴィクトールにすり寄った。
「ヴィー、一か月はお仕事ない?」
「うん、スノウとゆっくりする予定だよ」
すると、スノウは嬉しそうに焦げ茶色の丸い瞳を細めて笑う。
(あー……、かわいい!)
ヴィクトールがたまらずスノウを力いっぱい抱きしめると、腕の中でスノウが「ヴィー、くるしぃー」と文句を言った。
腕の力を緩めると、スノウが腕の中で顔をあげる。
「湖っていうおっきな水たまりがあるんでしょ?」
「ん? 湖はあるけど……水たまり? 誰がそんなことをいったの?」
「ビビアンさん!」
スノウが、王都に借りているアパルトマンの管理人で、パン屋も経営している中年の女性の名前を出せば、ヴィクトールは苦笑した。
「言いえて妙なところが面白いけどね。湖はね、水たまりの何百倍何千倍も大きいんだよ」
「……む?」
スノウは首を傾げる。
どうやら想像がつかないらしい彼女は、うーんうーんと首を傾けたまま唸った。
その姿が可愛くて、ヴィクトールは皺を寄せて考え込んでいる彼女の眉間にちゅっと口づける。
「湖には魚も泳いでいて、舟を浮かべて遊ぶこともできるね」
「ふね?」
ぱっとスノウの眉間の皺が消えた。
「ヴィー、舟乗りたい!」
「じゃあ、湖で舟遊びもしようね」
「うん!」
スノウはきらきらと子供のように瞳を輝かせる。
ヴィクトールは、報酬がわりにシオンから別荘を借りてよかったと、にこにこと笑うスノウの頬をつつきながら思ったのだった。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
背徳の獣たちの宴
戸影絵麻
ミステリー
突然、不登校になった兄。その兄に、執拗にまとわりつく母。静かに嫉妬の炎を燃やし、異常な行動を繰り返す父。家庭崩壊の予感に怯える私の目の前で、ある日、クラスメートが学校で謎の墜落死を遂げる。それは、自殺にみせかけた殺人だった。犯人は、その時校内にいた誰か? 偽装殺人と兄の不登校の謎がひとつになり、やがてそれが解けた時、私の前に立ち現れた残酷な現実とは…?
先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…
ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。
しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。
気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…
没入劇場の悪夢:天才高校生が挑む最恐の密室殺人トリック
葉羽
ミステリー
演劇界の巨匠が仕掛ける、観客没入型の新作公演。だが、幕開け直前に主宰は地下密室で惨殺された。完璧な密室、奇妙な遺体、そして出演者たちの不可解な証言。現場に居合わせた天才高校生・神藤葉羽は、迷宮のような劇場に潜む戦慄の真実へと挑む。錯覚と現実が交錯する悪夢の舞台で、葉羽は観客を欺く究極の殺人トリックを暴けるのか? 幼馴染・望月彩由美との淡い恋心を胸に秘め、葉羽は劇場に潜む「何か」に立ち向かう。だが、それは想像を絶する恐怖の幕開けだった…。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
冤罪! 全身拘束刑に処せられた女
ジャン・幸田
ミステリー
刑務所が廃止された時代。懲役刑は変化していた! 刑の執行は強制的にロボットにされる事であった! 犯罪者は人類に奉仕する機械労働者階級にされることになっていた!
そんなある時、山村愛莉はライバルにはめられ、ガイノイドと呼ばれるロボットにされる全身拘束刑に処せられてしまった! いわば奴隷階級に落とされたのだ! 彼女の罪状は「国家機密漏洩罪」! しかも、首謀者にされた。
機械の身体に融合された彼女は、自称「とある政治家の手下」のチャラ男にしかみえない長崎淳司の手引きによって自分を陥れた者たちの魂胆を探るべく、ガイノイド「エリー」として潜入したのだが、果たして真実に辿りつけるのか? 再会した後輩の真由美とともに危険な冒険が始まる!
サイエンスホラーミステリー! 身体を改造された少女は事件を解決し冤罪を晴らして元の生活に戻れるのだろうか?
*追加加筆していく予定です。そのため時期によって内容は違っているかもしれません、よろしくお願いしますね!
*他の投稿小説サイトでも公開しておりますが、基本的に内容は同じです。
*現実世界を連想するような国名などが出ますがフィクションです。パラレルワールドの出来事という設定です。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
どんでん返し
あいうら
ミステリー
「1話完結」~最後の1行で衝撃が走る短編集~
ようやく子どもに恵まれた主人公は、家族でキャンプに来ていた。そこで偶然遭遇したのは、彼が閑職に追いやったかつての部下だった。なぜかファミリー用のテントに1人で宿泊する部下に違和感を覚えるが…
(「薪」より)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる