13 / 55
お猫様はどこに消えた!?
13
しおりを挟む
明らかに機嫌の悪くなったシオンであるが、ここでヴィクトールに背を向けて帰るようなことはしなかった。
ミーアの捜索を依頼し、自分も手伝うと言った手前、どれほど腹を立てていても約束は守るつもりらしい。
(ほんっと、真面目だねぇ)
ヴィクトールは心の中で感心しながら、シオンを連れて、スーザンが教えてくれた赤いテントの方へと向かった。
無断でテントの中に入ると、テントの中で金勘定をしていた太めの男は、飛び上がらんばかりに驚いた。
「だ、誰だ!」
「帽子屋でーす」
へらへら笑いながらシルクハットを脱いで、ヴィクトールは一礼する。
サーカスには獰猛な肉食獣もいるので、今日は「チュー」と「クック」は連れてきていない。スノウと仲良くお留守番だ。
シオンは、テントの中が珍しいのか、きょろきょろと視線を彷徨わせていた。
無理もない。テントの中には、大きな象牙や、虎の毛皮、オオカミの剥製。団長の机の隣にある、太い木の枝では、鎖に足をつながれたキバタンがバタバタと白い翼をはばたかせている。
象牙も虎の毛皮も剥製も、バタバタと暴れているキバタンも、この国では取引停止になっているものばかりだった。
「マッドハッターだかドットハッターだか知らんが、誰の許可を得てここに入っているんだ!」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら怒る団長の顔に、ヴィクトールは一枚の羊皮紙を突きつけた。
「誰の許可って――、この国の国王様ですけど?」
その羊皮紙を横から見たシオンも、目を丸くして驚いていた。
ここに来る前に、ヴィクトールはオルフェリウスに令状を書かせていたのだが、それはシオンには告げていなかったのだ。
瞠目して硬直してしまった団長に、ヴィクトールはテントの中を見渡しながら告げる。
「まあ、ずいぶんと集めたよねぇ。でもさ、人様のものまで盗んだら駄目でしょう」
「な、何を言って――」
「猫、集めていたでしょう? 珍しい毛色の猫ばっかり。ほかの国に行ったときに売りさばくつもりだったのかな?」
「え――?」
シオンはびっくりした様子で、青くなりはじめた団長の顔を見やった。
「な、何を根拠に」
「根拠も何も証拠も全部そろっているから。そうそう、協力者のノアール子爵のところには、今頃兵士さんたちがわんさかと押し寄せているから、言い逃れはできないよ。猫ちゃんたちもほとんど回収済み。残った猫ちゃんは、たぶんどこかのテントにいるよねぇ? おっと、逃げられないからね、この周りにも兵士さんたちがいっぱいいるから。呼んでみようか?」
淀みなく語るヴィクトールの横顔を、シオンが目を瞬かせながら見上げている。そんなシオンに、ヴィクトールは、
「近くのテントを探してきなよ。きっとミーアもどこかにいると思うよ」
と告げて、テントから追い出す。
団長と二人きりになったヴィクトールは、顔に浮かべていた笑顔をすっと消した。
羊皮紙を懐にしまうと、不穏な動きをした団長の手に向けて、羊皮紙の代わりに懐から取り出したナイフを容赦なく突き立てる。
「ぎやああああっ!」
団長の右手の甲から血が噴き出し、彼が握ろうとしていた拳銃が下に落ちた。
ヴィクトールは素早く拳銃を足で蹴飛ばして遠くにやると、右手をおさえて悶絶している団長を冷ややかに見下ろす。
「あんたと手を組んで密輸で荒稼ぎしていた隣国の大臣さんも、今頃取り押さえられているところだと思うよ。もう、どこにもかくまってもらえるところはないんだから、観念したらどうかな」
団長は苦悶の表情を浮かべた顔でヴィクトールを見上げ、やがてがっくりとうなだれた。
ミーアの捜索を依頼し、自分も手伝うと言った手前、どれほど腹を立てていても約束は守るつもりらしい。
(ほんっと、真面目だねぇ)
ヴィクトールは心の中で感心しながら、シオンを連れて、スーザンが教えてくれた赤いテントの方へと向かった。
無断でテントの中に入ると、テントの中で金勘定をしていた太めの男は、飛び上がらんばかりに驚いた。
「だ、誰だ!」
「帽子屋でーす」
へらへら笑いながらシルクハットを脱いで、ヴィクトールは一礼する。
サーカスには獰猛な肉食獣もいるので、今日は「チュー」と「クック」は連れてきていない。スノウと仲良くお留守番だ。
シオンは、テントの中が珍しいのか、きょろきょろと視線を彷徨わせていた。
無理もない。テントの中には、大きな象牙や、虎の毛皮、オオカミの剥製。団長の机の隣にある、太い木の枝では、鎖に足をつながれたキバタンがバタバタと白い翼をはばたかせている。
象牙も虎の毛皮も剥製も、バタバタと暴れているキバタンも、この国では取引停止になっているものばかりだった。
「マッドハッターだかドットハッターだか知らんが、誰の許可を得てここに入っているんだ!」
顔を真っ赤にして唾を飛ばしながら怒る団長の顔に、ヴィクトールは一枚の羊皮紙を突きつけた。
「誰の許可って――、この国の国王様ですけど?」
その羊皮紙を横から見たシオンも、目を丸くして驚いていた。
ここに来る前に、ヴィクトールはオルフェリウスに令状を書かせていたのだが、それはシオンには告げていなかったのだ。
瞠目して硬直してしまった団長に、ヴィクトールはテントの中を見渡しながら告げる。
「まあ、ずいぶんと集めたよねぇ。でもさ、人様のものまで盗んだら駄目でしょう」
「な、何を言って――」
「猫、集めていたでしょう? 珍しい毛色の猫ばっかり。ほかの国に行ったときに売りさばくつもりだったのかな?」
「え――?」
シオンはびっくりした様子で、青くなりはじめた団長の顔を見やった。
「な、何を根拠に」
「根拠も何も証拠も全部そろっているから。そうそう、協力者のノアール子爵のところには、今頃兵士さんたちがわんさかと押し寄せているから、言い逃れはできないよ。猫ちゃんたちもほとんど回収済み。残った猫ちゃんは、たぶんどこかのテントにいるよねぇ? おっと、逃げられないからね、この周りにも兵士さんたちがいっぱいいるから。呼んでみようか?」
淀みなく語るヴィクトールの横顔を、シオンが目を瞬かせながら見上げている。そんなシオンに、ヴィクトールは、
「近くのテントを探してきなよ。きっとミーアもどこかにいると思うよ」
と告げて、テントから追い出す。
団長と二人きりになったヴィクトールは、顔に浮かべていた笑顔をすっと消した。
羊皮紙を懐にしまうと、不穏な動きをした団長の手に向けて、羊皮紙の代わりに懐から取り出したナイフを容赦なく突き立てる。
「ぎやああああっ!」
団長の右手の甲から血が噴き出し、彼が握ろうとしていた拳銃が下に落ちた。
ヴィクトールは素早く拳銃を足で蹴飛ばして遠くにやると、右手をおさえて悶絶している団長を冷ややかに見下ろす。
「あんたと手を組んで密輸で荒稼ぎしていた隣国の大臣さんも、今頃取り押さえられているところだと思うよ。もう、どこにもかくまってもらえるところはないんだから、観念したらどうかな」
団長は苦悶の表情を浮かべた顔でヴィクトールを見上げ、やがてがっくりとうなだれた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
128
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる