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お猫様はどこに消えた!?
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珍しい猫を飼っている人物を探し出しては聞き込みを続けていると――、面白いことに、珍しい毛並みの猫が何匹も行方知らずになっていることが判明した。
猫が戻らなくなった日と、そのあたり一帯を調べていると、黒いコートを着た男が、猫を抱えて歩いていたのを見たという情報もそろってくる。調べはじめて一週間ほどすれば、ヴィクトールは今回の事件のほとんどの情報を集めることができた。
(ずぼらな犯人だなぁ)
猫という、いなくなっても仕方ないと思わせるような気まぐれな動物を標的にするあたり、多少は考えているようにも思えるが、それでも拍子抜けするほどあっさりと尻尾を掴ませた犯人に、ヴィクトールはあきれるしかない。
「本当に、ここにミーアがいるのか?」
シオンが訝しそうな顔をするが、それは無理もないかもしれなかった。
ヴィクトールがシオンを伴ってやってきたのは、ルドン川の下流の川岸にテントを構えている、各地を転々と巡業して回るサーカスの前だった。
サーカスは本日は休業で、団員たちは休暇を取ったり、動物たちの調教をしたりと、それぞれが自由に行動しているため、テントの周りは閑散としていた。
「おや、あんた!」
シオンとともに、テントの入口付近を歩いていると、テントの中から見知った女が走ってきた。一週間ほど前、ヴィクトールが情報を聞き出すために一夜を共にしたサーカス団の女だった。
女はヴィクトールを見つけると目をつり上げてやってきたが、彼がいかにも貴族ですという風貌のシオンを連れているのを見つけると、怪訝そうに眉を寄せた。
「やあスーザン、今日も美しいね」
「白々しい! 一晩でふらりといなくなった薄情男のくせして! 今日は何の用なの? まさか復縁を迫りに来たなんで馬鹿なことをいわないでしょうね? 冗談じゃないわよ!」
プライドの高い彼女は、甘い言葉をささやいて朝起きると消えていたヴィクトールに腹を立てているようだった。
しかし、こういうことにも慣れているヴィクトールは、すまなそうに眉尻を下げると、目を白黒しているシオンの肩を引き寄せる。
「え?」
どうして引き寄せられたのだろうとシオンが目を丸くするがヴィクトールは無視をして、スーザンに向かって「ごめん」と告げた。
「実は、僕にはずっと想っていた人がいてね。決して手に入らないと思っていたから、諦めていたんだが、このたびこうして手に入れることができたんだ。美しい君なら僕もきっと女性を愛することができると思っていたのだが、無理だった。君には本当に申し訳ないことをしたと思っているよ」
「……え? あんた、まさか」
スーザンが驚いた顔をして、ヴィクトールとシオンを交互に見やる。
状況が飲めていないシオンはきょとんとしていた。
「そう、やっと手に入れることができたんだ。彼を――」
「……え?」
ヴィクトールはまだきょとんとしているシオンを強く引き寄せると、素早い動作でシオンの唇にキスを落とす。
「――――――ッ!」
驚愕の表情を浮かべたあと、顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしたシオンの口を手のひらで塞いで羽交い絞めにすると、ヴィクトールはスーザンに視線を向けた。
「彼はこうして照れ屋だから、僕が好きだってなかなか打ち明けられないでいたみたいなんだ」
するとスーザンは、途端に優しい表情を浮かべた。女子供はゲイに優しい。どうやらその統計データは、スーザンにも当てはまったらしい。
「そうなの、あんた実はそっちの人だったんだね。苦労したんだねぇ」
スーザンは、思いが通じてよかったねぇと感動までしはじめる。
一方羽交い絞めにされたシオンは腕の中から抜け出そうと大暴れを続けていたが、ヴィクトールはしっかりと関節を押さえつけているので、どうやったって抜けだせない。
「それはそうと、スーザン。君にこんなことを頼んでいいのかどうかはわからないけど、実は団長と話がしたくてね。君のところの団長は、珍しい動物のコレクターだろう? 僕も珍しい動物を手に入れたんだ。取引させてくれないかな」
「ああ、それなら、団長はあっちの――、ほら、真っ赤な団長専用のテントにいるよ」
「ありがとうスーザン」
「どういたしまして。じゃあ、あたしは今から買い物に行くつもりだから失礼するよ。また、サーカスを見に来てよね。……ふふっ、そこの可愛い坊やも、よかったわね!」
チュッと投げキスをして、スキップしそうな足取りでスーザンが去っていくと、ヴィクトールはようやくシオンを開放する。
ヴィクトールの手から逃れたシオンは、真っ赤な顔をして怒っていた。
「どういうことだ―――!」
ぜーぜーと肩で息をするシオンを見ていると、無性にいじめたくなってくる。
ヴィクトールはにっこりと微笑むと、怒り狂うシオンに向けてこう言った。
「あ、もしかしてハジメテだったのかな? それは申し訳ないことをした。責任は取るから、そうだな……、続きは今夜、僕のベッドの中でどうだろう?」
――シオンの怒りが沸点に達して、「ふざけるな!!」という大絶叫があたり一面に響き渡ったのは、言うまでもない。
猫が戻らなくなった日と、そのあたり一帯を調べていると、黒いコートを着た男が、猫を抱えて歩いていたのを見たという情報もそろってくる。調べはじめて一週間ほどすれば、ヴィクトールは今回の事件のほとんどの情報を集めることができた。
(ずぼらな犯人だなぁ)
猫という、いなくなっても仕方ないと思わせるような気まぐれな動物を標的にするあたり、多少は考えているようにも思えるが、それでも拍子抜けするほどあっさりと尻尾を掴ませた犯人に、ヴィクトールはあきれるしかない。
「本当に、ここにミーアがいるのか?」
シオンが訝しそうな顔をするが、それは無理もないかもしれなかった。
ヴィクトールがシオンを伴ってやってきたのは、ルドン川の下流の川岸にテントを構えている、各地を転々と巡業して回るサーカスの前だった。
サーカスは本日は休業で、団員たちは休暇を取ったり、動物たちの調教をしたりと、それぞれが自由に行動しているため、テントの周りは閑散としていた。
「おや、あんた!」
シオンとともに、テントの入口付近を歩いていると、テントの中から見知った女が走ってきた。一週間ほど前、ヴィクトールが情報を聞き出すために一夜を共にしたサーカス団の女だった。
女はヴィクトールを見つけると目をつり上げてやってきたが、彼がいかにも貴族ですという風貌のシオンを連れているのを見つけると、怪訝そうに眉を寄せた。
「やあスーザン、今日も美しいね」
「白々しい! 一晩でふらりといなくなった薄情男のくせして! 今日は何の用なの? まさか復縁を迫りに来たなんで馬鹿なことをいわないでしょうね? 冗談じゃないわよ!」
プライドの高い彼女は、甘い言葉をささやいて朝起きると消えていたヴィクトールに腹を立てているようだった。
しかし、こういうことにも慣れているヴィクトールは、すまなそうに眉尻を下げると、目を白黒しているシオンの肩を引き寄せる。
「え?」
どうして引き寄せられたのだろうとシオンが目を丸くするがヴィクトールは無視をして、スーザンに向かって「ごめん」と告げた。
「実は、僕にはずっと想っていた人がいてね。決して手に入らないと思っていたから、諦めていたんだが、このたびこうして手に入れることができたんだ。美しい君なら僕もきっと女性を愛することができると思っていたのだが、無理だった。君には本当に申し訳ないことをしたと思っているよ」
「……え? あんた、まさか」
スーザンが驚いた顔をして、ヴィクトールとシオンを交互に見やる。
状況が飲めていないシオンはきょとんとしていた。
「そう、やっと手に入れることができたんだ。彼を――」
「……え?」
ヴィクトールはまだきょとんとしているシオンを強く引き寄せると、素早い動作でシオンの唇にキスを落とす。
「――――――ッ!」
驚愕の表情を浮かべたあと、顔を真っ赤にして怒鳴ろうとしたシオンの口を手のひらで塞いで羽交い絞めにすると、ヴィクトールはスーザンに視線を向けた。
「彼はこうして照れ屋だから、僕が好きだってなかなか打ち明けられないでいたみたいなんだ」
するとスーザンは、途端に優しい表情を浮かべた。女子供はゲイに優しい。どうやらその統計データは、スーザンにも当てはまったらしい。
「そうなの、あんた実はそっちの人だったんだね。苦労したんだねぇ」
スーザンは、思いが通じてよかったねぇと感動までしはじめる。
一方羽交い絞めにされたシオンは腕の中から抜け出そうと大暴れを続けていたが、ヴィクトールはしっかりと関節を押さえつけているので、どうやったって抜けだせない。
「それはそうと、スーザン。君にこんなことを頼んでいいのかどうかはわからないけど、実は団長と話がしたくてね。君のところの団長は、珍しい動物のコレクターだろう? 僕も珍しい動物を手に入れたんだ。取引させてくれないかな」
「ああ、それなら、団長はあっちの――、ほら、真っ赤な団長専用のテントにいるよ」
「ありがとうスーザン」
「どういたしまして。じゃあ、あたしは今から買い物に行くつもりだから失礼するよ。また、サーカスを見に来てよね。……ふふっ、そこの可愛い坊やも、よかったわね!」
チュッと投げキスをして、スキップしそうな足取りでスーザンが去っていくと、ヴィクトールはようやくシオンを開放する。
ヴィクトールの手から逃れたシオンは、真っ赤な顔をして怒っていた。
「どういうことだ―――!」
ぜーぜーと肩で息をするシオンを見ていると、無性にいじめたくなってくる。
ヴィクトールはにっこりと微笑むと、怒り狂うシオンに向けてこう言った。
「あ、もしかしてハジメテだったのかな? それは申し訳ないことをした。責任は取るから、そうだな……、続きは今夜、僕のベッドの中でどうだろう?」
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