マッドハッターの気ままな事件簿～ドSな帽子屋は一人の少女を溺愛する～

お猫様はどこに消えた！？

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　人は彼のことを帽子屋マッドハッターと呼ぶ。

　いつからこの名で呼ばれはじめたのか、彼自身もわからない。

　彼自身がその名を名乗ったわけではなく、気がつけば誰かがそう呼んでいた。

　帽子屋マッドハッター――決して、いい意味からそう呼ばれているのでないことはわかっていた。

　いつもシルクハットを目深くかぶっているから、誰かが揶揄して呼びはじめたのだろうが、子供たちの間で流行っている童話の登場人物の一人がそう呼ばれていることも知っていた。

　気が狂っている――、遠回しにそう言われているのだと、理解している。

　しかし、帽子屋マッドハッターは気にしなかった。

　そう思われても仕方のない仕事をしているからだ。

　帽子屋マッドハッター――ヴィクトールという彼の本名を知るものは、おそらくこの国にはほとんどいない。

　それでも彼は、気にすることもなく、飄々ひょうひょうとどこか退廃とした貴族社会を歩いていく。