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嫉妬という感情 2
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オーレリアの様子がおかしい。
夕方になって、視察から帰ったラルフは、すぐに大切な幼馴染の異変に気が付いた。
ラルフに「おかえりなさい」と笑顔を向けてくれるけれど、どこか浮かない顔をしている。
それは夕食の時になっても変わらず、気になったラルフは、夜にオーレリアの部屋を訪ねることにした。
扉をノックすると、少し間があって、小さく扉が開く。隙間から顔をのぞかせたオーレリアの目が赤くなっていることに気が付いたラルフは、オーレリアが何かを言う前に扉の隙間に手を差し込むと、強引に押し開けた。
「泣いてたのか?」
オーレリアはパッと顔をそむけた。
家族を失ってずっと泣いていたオーレリアだが、最近になってようやく落ち着いたと思ってきた。それなのに、ラルフの知らないところで泣いていたなんて――心中穏やかではいられない。
頬を両手で挟んで、無理やり顔をあげさせる。
オーレリアは抵抗しなかった。
「目が赤い。やっぱり泣いてたんだな。どうした? 悲しくなったのか?」
オーレリアはまるで悪戯に気が付かれた子供の用にぷっと頬を膨らませた。
「泣いてないもん」
「嘘をつくな」
「……欠伸したら涙が出ただけだもん」
「んなわけねーだろ」
珍しく意固地になるオーレリアに、やっぱりこれは何かあったなと確信する。
オーレリアをソファに座らせて隣に腰を下ろすと、柔らかくてすべすべしている彼女のほっぺをふにっと軽く引っ張った。
「何があった?」
「何もない」
「だから嘘をつくな。お前は全部顔に出るんだから、誤魔化そうったって無理だぞ」
白状しろと言えば、なぜかじろりと睨まれる。
(なんでそんな目を向けてくるんだ?)
まるでラルフが何か悪いことをしたみたいだ。解せない。
オーレリアはまたぷうっと頬を膨らませると、上目づかいにラルフを睨んだまま、拗ねたような口ぶりで言った。
「ラルフ、コリーンとの結婚話が出てるんだって?」
「は⁉ ちょっと待て、どこでそれを聞いた!」
「やっぱりほんとなんだ……」
むうっとオーレリアの眉間にしわが寄る。
ラルフは慌てた。
「だから待ってくれ! それは勝手にあっちが言い出したことで、俺は結婚するつもりはないし、第一お前に求婚したことを忘れたのかよ」
オーレリアに結婚を断られた場合、断れない可能性が残ることを伏せつつ、ラルフが言えば、オーレリアは拗ねた顔のままちょっぴり赤くなった。……どうしよう、めちゃくちゃ可愛い。
「それは……覚えてるけど……でも……」
「でも、何だよ。俺が信じられないの?」
「そうじゃないけど……だって……」
「というか、いつどこで聞いたんだよそれ」
「………………今日。コリーンがここに来て、ラルフと結婚するんだって言ってた」
「はあ⁉」
ラルフは唖然とした。エイブラム・ダンニグがサンプソン公爵にコリーンとラルフの縁談話をしたことは本当だが、あれはクリスの英断で保留扱いになっているはずだ。承諾した覚えはこれっぽっちもない。
(ふざけんなよ!)
しかもさもラルフが縁談を受け入れたかのようにオーレリアに告げに来るなど、正気の沙汰とは思えない。ましてやそれでオーレリアが泣いていたとあれば余計だ。
(……と言うか、俺が他の女と結婚すると思って泣いてたのか)
オーレリアがコリーンの嘘で泣かされたことは腹立たしいけれど、その涙はラルフを思って流されたものだと思うとどうしてか、ちょっぴり気分がよかった。言えばオーレリアが怒るだろうから言わないけれど、もしかしなくてもこれは、嫉妬ではなかろうか。
(ああ、もう、この可愛い生き物はなんなんだよ)
今すぐぎゅうぎゅうに抱きしめて頬ずりして顔中にキスしたい。たまらなく可愛い。そのふくれっ面とか最高だ。
「なあ…………抱きしめていい?」
「は⁉」
オーレリアがギョッと目を見開いた。
思わず腰を浮かせかけたオーレリアを、強引に腕の中に引き寄せる。
ほのかに香る、香水ではない花の香り。香油かシャボンの香りだろう。ぞくぞくする。
オーレリアが腕の中で身じろぎするも、抵抗にもならないくらいの僅かな力なので無視することにした。
「なあ、オーレリア、俺が他の女と結婚すると思って、嫌な気持ちになったんだろ?」
「……何言ってるの?」
「だって泣いてたじゃないか。そう言うことだろう?」
オーレリアは是とも否とも言わなかったが、白い耳が赤くなっていた。たまらなくなって赤い耳にちゅっと口づけると、その肩がビクッと震える。
「オーレリア……結婚しよう?」
オーレリアは長い沈黙を落としたけれど、やがておずおずと腕の中で顔をあげると、潤んだ目でラルフを見上げて、消え入りそうな小さな声で言った。
「……返事は……一日待って」
まさかオーレリアがそんなことを言うとは思わなかったから、ラルフは小さく息を呑んで、そして力いっぱいオーレリアを抱きしめる。
「いい返事を期待してるから」
腕の中でオーレリアが「苦しい」と文句を言ったけれど、もうしばらくの間、ラルフは彼女を解放してやることはできそうもなかった。
夕方になって、視察から帰ったラルフは、すぐに大切な幼馴染の異変に気が付いた。
ラルフに「おかえりなさい」と笑顔を向けてくれるけれど、どこか浮かない顔をしている。
それは夕食の時になっても変わらず、気になったラルフは、夜にオーレリアの部屋を訪ねることにした。
扉をノックすると、少し間があって、小さく扉が開く。隙間から顔をのぞかせたオーレリアの目が赤くなっていることに気が付いたラルフは、オーレリアが何かを言う前に扉の隙間に手を差し込むと、強引に押し開けた。
「泣いてたのか?」
オーレリアはパッと顔をそむけた。
家族を失ってずっと泣いていたオーレリアだが、最近になってようやく落ち着いたと思ってきた。それなのに、ラルフの知らないところで泣いていたなんて――心中穏やかではいられない。
頬を両手で挟んで、無理やり顔をあげさせる。
オーレリアは抵抗しなかった。
「目が赤い。やっぱり泣いてたんだな。どうした? 悲しくなったのか?」
オーレリアはまるで悪戯に気が付かれた子供の用にぷっと頬を膨らませた。
「泣いてないもん」
「嘘をつくな」
「……欠伸したら涙が出ただけだもん」
「んなわけねーだろ」
珍しく意固地になるオーレリアに、やっぱりこれは何かあったなと確信する。
オーレリアをソファに座らせて隣に腰を下ろすと、柔らかくてすべすべしている彼女のほっぺをふにっと軽く引っ張った。
「何があった?」
「何もない」
「だから嘘をつくな。お前は全部顔に出るんだから、誤魔化そうったって無理だぞ」
白状しろと言えば、なぜかじろりと睨まれる。
(なんでそんな目を向けてくるんだ?)
まるでラルフが何か悪いことをしたみたいだ。解せない。
オーレリアはまたぷうっと頬を膨らませると、上目づかいにラルフを睨んだまま、拗ねたような口ぶりで言った。
「ラルフ、コリーンとの結婚話が出てるんだって?」
「は⁉ ちょっと待て、どこでそれを聞いた!」
「やっぱりほんとなんだ……」
むうっとオーレリアの眉間にしわが寄る。
ラルフは慌てた。
「だから待ってくれ! それは勝手にあっちが言い出したことで、俺は結婚するつもりはないし、第一お前に求婚したことを忘れたのかよ」
オーレリアに結婚を断られた場合、断れない可能性が残ることを伏せつつ、ラルフが言えば、オーレリアは拗ねた顔のままちょっぴり赤くなった。……どうしよう、めちゃくちゃ可愛い。
「それは……覚えてるけど……でも……」
「でも、何だよ。俺が信じられないの?」
「そうじゃないけど……だって……」
「というか、いつどこで聞いたんだよそれ」
「………………今日。コリーンがここに来て、ラルフと結婚するんだって言ってた」
「はあ⁉」
ラルフは唖然とした。エイブラム・ダンニグがサンプソン公爵にコリーンとラルフの縁談話をしたことは本当だが、あれはクリスの英断で保留扱いになっているはずだ。承諾した覚えはこれっぽっちもない。
(ふざけんなよ!)
しかもさもラルフが縁談を受け入れたかのようにオーレリアに告げに来るなど、正気の沙汰とは思えない。ましてやそれでオーレリアが泣いていたとあれば余計だ。
(……と言うか、俺が他の女と結婚すると思って泣いてたのか)
オーレリアがコリーンの嘘で泣かされたことは腹立たしいけれど、その涙はラルフを思って流されたものだと思うとどうしてか、ちょっぴり気分がよかった。言えばオーレリアが怒るだろうから言わないけれど、もしかしなくてもこれは、嫉妬ではなかろうか。
(ああ、もう、この可愛い生き物はなんなんだよ)
今すぐぎゅうぎゅうに抱きしめて頬ずりして顔中にキスしたい。たまらなく可愛い。そのふくれっ面とか最高だ。
「なあ…………抱きしめていい?」
「は⁉」
オーレリアがギョッと目を見開いた。
思わず腰を浮かせかけたオーレリアを、強引に腕の中に引き寄せる。
ほのかに香る、香水ではない花の香り。香油かシャボンの香りだろう。ぞくぞくする。
オーレリアが腕の中で身じろぎするも、抵抗にもならないくらいの僅かな力なので無視することにした。
「なあ、オーレリア、俺が他の女と結婚すると思って、嫌な気持ちになったんだろ?」
「……何言ってるの?」
「だって泣いてたじゃないか。そう言うことだろう?」
オーレリアは是とも否とも言わなかったが、白い耳が赤くなっていた。たまらなくなって赤い耳にちゅっと口づけると、その肩がビクッと震える。
「オーレリア……結婚しよう?」
オーレリアは長い沈黙を落としたけれど、やがておずおずと腕の中で顔をあげると、潤んだ目でラルフを見上げて、消え入りそうな小さな声で言った。
「……返事は……一日待って」
まさかオーレリアがそんなことを言うとは思わなかったから、ラルフは小さく息を呑んで、そして力いっぱいオーレリアを抱きしめる。
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