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突然の同居 4

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 ラルフが変だ。

 いや、変わったというのかもしれない。

「オーレリア、おはよう。今日も可愛いな」

「………………」

 ラルフが来て五日。

 彼がここに来てからと言うもの、なぜかラルフの毎朝の挨拶に「今日も可愛いな」の余分な一言がつけ加えられるようになった。

 もちろん、それだけではない。

 執務の休憩中は必ず会いに来て、晴れていたら庭の散歩に誘われる。

 バベッチ家の庭はサンプソン家の広大な庭に比べると豆粒みたいに小さいが、それでもゆっくり歩いて一周すると、十分ほどはかかる散歩コースになる。

 その間、ラルフはオーレリアの手を自分のそれとぎゅっとつないで、決して離さない。

 散歩以外にも、ティータイムは必ず一緒に過ごし、その際にはオーレリアの隣にぴったりとくっついて座る。オーレリアが幸せそうにお菓子を頬張る姿を見ては、「可愛いな」の連発。

 朝食も昼食も夕食ももちろん一緒に食べるし、その際にオーレリアの好物が出たら、ラルフはそれとなくオーレリアの皿に自分の分を移してくれたりする。

 夜寝る前にはオーレリアの部屋に遊びに来て、他愛ない話をし、油断していると額にお休みのキスをされる。

(絶対おかしい……)

 今までのラルフは、こんなことはしなかった。

 ラルフは昔から優しいけれど、何というか、ここに来てからのラルフは――そう、甘い。甘々だ。砂糖菓子みたい。

 ラルフのこの変貌は、彼がオーレリアに求婚したことと関係があるのだろうが、それにしても変わりすぎだ。

(一昨日なんて、すっごく大きなウサギのぬいぐるみが届いたし)

 子供の背丈ほどもある大きさだった。ふわっふわで気持ちよかったけれど、オーレリアはもう十七歳。ぬいぐるみをプレゼントされる年ではない。

 ラルフはオーレリアにぬいぐるみを持たせては満足そうに頷いて、それは俺だと思ってベッドにおいてくれと宣った。

 ラルフがそんな変なことを言うから、彼の希望通りにベッドに置いているものの、どうしてもそれがラルフに思えてちょっとドキドキしてしまう。

(変なラルフ。絶対、変。……なんか、新婚夫婦みたい)

 そこまで考えて、オーレリアはボッと赤くなった。

 顔の熱を冷まそうと手でぱたぱた仰いでいると、朝の日課のそぶりを終えたラルフが庭から戻ってくる。

 護衛官らしく、彼は毎朝素振りを欠かさない。素振りの際は上半身裸になるので、汗をかいたラルフが玄関から入ってきたのを見たオーレリアは、もっと赤くなってしまった。

「ラルフっ、服着てよ!」

 胸筋とか、上腕二頭筋とか、割れた腹筋とかが視界に飛び込んで、オーレリアは両手で顔を覆った。

 何故上半身裸のままで家の中に入ってくるのだ。ボタンを止めなくてもいいからせめてシャツを羽織ってほしい。

(前からちょっと思ってたけど、ラルフ、筋肉凄い……)

 着やせするタイプらしく、服を着ているときはそれほど筋肉質だと思わないのだが、やっぱり肩幅はあるし、二の腕も太いし、腹筋はバキバキだ。あんなの、直視できない。

「いや、どうせ今から汗流してくるし」

 脱ぐんだから着る必要もないだろうなどとラルフは言うが、そう言う問題ではないのだ。

 ラルフはすれ違いざまにオーレリアの頭をポンと撫でて、二歩ほど進んだところでニヤリと笑って振り返った。

「そうだ、一緒に入るか?」

「へ⁉」

「子供のころ、何度か一緒に風呂に入ったろ?」

 それはせいぜい三、四歳までのことだ。記憶の片隅にそんなこともあったなくらいに朧気に覚えている程度の、昔々のことである。

「わ、わたしが、いいいいくつだと思ってるのよ!」

 断固拒否すると、ラルフが肩を揺らして笑いながら、入浴して着替えるために階段を上っていく。

「残念、また今度」

(また今度ってなに⁉)

 今度も何も、そんな機会は永遠に来ない。いや、来させない!

 全身ゆでだこのように真っ赤に染まったオーレリアは、ラルフの背中に向かって大声で叫んだ。

「信じられない、ばかラルフ‼」
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