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突然の同居 2
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夕食のあと、オーレリアはラルフが使っている客室へ向かった。
ギルバートにはハンカチを渡したけれど、ラルフにはまだ渡していなかったのだ。
ラルフのイニシャルとカルフォード家の家紋を刺繍した青いハンカチを持って客室の扉を叩くと、中から出てきたラルフはどうやら風呂上りらしかった。
バスローブ姿で、髪からはポタポタと雫が落ちている。
(ひ!)
思わず心の中で悲鳴を上げて、オーレリアは後ずさった。
「ご、ごめん! お風呂上りだって知らなくて、ま、また明日でいいわ!」
ラルフの顔は幼いころから飽きるほどに見てきたけれど、お風呂上がりの彼を見たのははじめてだった。
真っ赤になって逃げだそうとしたオーレリアの手を、ラルフが掴んで押しとどめる。
「上がったところだから気にしなくていいよ。ほら、用があったんだろ?」
そう言って部屋の扉を大きく開けられるから、オーレリアはラルフと部屋の中を交互に見て、おずおずと足を踏み入れる。
がしがしと片手で濡れた髪をタオルで拭きつつ、ラルフがソファに腰かけた。
部屋の中にはソファは一つしかないから、二人掛けのそれに、オーレリアもちょこんと腰を下ろす。端の方に腰を下ろしたのは、お風呂上がりのラルフの高い体温が伝わって来てドキドキするからだ。
(なんでバスローブ姿なのよ。パジャマ着なさいよ、パジャマ!)
バスローブのざっくり空いた胸元から、鎖骨とか、鍛えられた胸襟とかが見えて直視できない。
濡れて顔のラインに張り付いている銀色の髪と、風呂上がりの上気した顔が何とも言えずなまめかしかった。
やっぱりだめだ。これ以上ここにはいられない。心臓が壊れそうだ。
ここは早いところ目的を達成して、部屋に逃げ帰るのが得策だ。
オーレリアは持って来たハンカチをラルフに押し付ける勢いで手渡した。
「や、約束のハンカチ!」
ラルフはハンカチを受け取って、刺繍を確かめたあとでニカッと笑う。
「おー、ありがとう。お前、刺繍上手だったんだな」
「そんなに難しい模様じゃなかったから……。じゃ、じゃあ、わたしはこれで」
そそくさと立ち去ろうとしたオーレリアだったが、「待てよ」とラルフに止められて逃げるチャンスを失った。
「せっかく来たんだから、ゆっくりして行けばいいだろ? 茶はないけど酒ならあるぞ。飲むか?」
「う、うん。少しなら」
というか、この状況は素面では耐えられそうもなかった。酔わないとやってられない。
(どうしたんだろう、わたしの心臓。ドキドキしすぎて壊れるんじゃないの⁉)
それもこれもラルフが悪い。突然求婚してきて、今日から一緒に住むことになったし、今はお風呂上がりだし、オーレリアの心臓を壊そうとしているとしか思えない。
ラルフが棚からウイスキーの入ったボトルとグラスを二つ持ってくる。よりにもよってウイスキーか。もっと甘いお酒がよかったが、考えてみればラルフが飲む酒に、オーレリアが好んで飲むアルコール度数の低い果実酒があるはずない。
とくとくとグラスに四分の一ほどウイスキーを注いで、ラルフが手渡してくる。べろりと舐めるように飲むと、すぐにカッと喉の奥が熱くなった。
「それでお前、俺とギルバート様のどっちを選ぶか決めたの?」
「ぶーっ!」
思わず口に含んだウイスキーを噴き出してしまった。それほど口に含んではいなかったが、それはオーレリアの膝の上に散って、パジャマに淡いシミを作る。
「あー、何やってんだよお前」
「ラルフのせいでしょ⁉」
ラルフが首にかけていたタオルで、オーレリアの膝の上を拭く。ラルフが身をかがめたから、オーレリアのすぐ顎のところに彼の湿った髪が触れて、太ももには彼の手の熱があって、オーレリアはパニックになりそうになった。
(近い近い近い近い近い近い――――――!)
ラルフが近い! 体温が近い! 呼吸が近い! とにかく近い!
アルコールが体の中に入っているからか、今までとは比較にならないほどに体温が急上昇していく。
「あー、完全にシミになったな。あとで着替えろよ、これ」
オーレリアの服を拭いていたラルフが、シミ取りを諦めて顔をあげた。
パッと目が合う。
見つめ合うこと数秒。
ラルフの青い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、オーレリアが目を逸らすことができないでいたら、彼の手がそっとオーレリアからウイスキーのグラスを取り上げた。
「オーレリア」
どこか熱っぽい声で名前を呼ばれる。
オーレリアから取り上げたグラスをことりとテーブルの上に置いて、ラルフがそっと彼女の頬を撫でた。
するり、とまるで羽のような軽さで頬が何度も撫でられる。
「オーレリア」
ラルフが、もう一度オーレリアの名前を呼んだ。
彼の顔が、少し、また少しと近づいてきて――
「きゃああああああああ!」
オーレリアは悲鳴を上げてラルフを突き飛ばして立ち上がると、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
ギルバートにはハンカチを渡したけれど、ラルフにはまだ渡していなかったのだ。
ラルフのイニシャルとカルフォード家の家紋を刺繍した青いハンカチを持って客室の扉を叩くと、中から出てきたラルフはどうやら風呂上りらしかった。
バスローブ姿で、髪からはポタポタと雫が落ちている。
(ひ!)
思わず心の中で悲鳴を上げて、オーレリアは後ずさった。
「ご、ごめん! お風呂上りだって知らなくて、ま、また明日でいいわ!」
ラルフの顔は幼いころから飽きるほどに見てきたけれど、お風呂上がりの彼を見たのははじめてだった。
真っ赤になって逃げだそうとしたオーレリアの手を、ラルフが掴んで押しとどめる。
「上がったところだから気にしなくていいよ。ほら、用があったんだろ?」
そう言って部屋の扉を大きく開けられるから、オーレリアはラルフと部屋の中を交互に見て、おずおずと足を踏み入れる。
がしがしと片手で濡れた髪をタオルで拭きつつ、ラルフがソファに腰かけた。
部屋の中にはソファは一つしかないから、二人掛けのそれに、オーレリアもちょこんと腰を下ろす。端の方に腰を下ろしたのは、お風呂上がりのラルフの高い体温が伝わって来てドキドキするからだ。
(なんでバスローブ姿なのよ。パジャマ着なさいよ、パジャマ!)
バスローブのざっくり空いた胸元から、鎖骨とか、鍛えられた胸襟とかが見えて直視できない。
濡れて顔のラインに張り付いている銀色の髪と、風呂上がりの上気した顔が何とも言えずなまめかしかった。
やっぱりだめだ。これ以上ここにはいられない。心臓が壊れそうだ。
ここは早いところ目的を達成して、部屋に逃げ帰るのが得策だ。
オーレリアは持って来たハンカチをラルフに押し付ける勢いで手渡した。
「や、約束のハンカチ!」
ラルフはハンカチを受け取って、刺繍を確かめたあとでニカッと笑う。
「おー、ありがとう。お前、刺繍上手だったんだな」
「そんなに難しい模様じゃなかったから……。じゃ、じゃあ、わたしはこれで」
そそくさと立ち去ろうとしたオーレリアだったが、「待てよ」とラルフに止められて逃げるチャンスを失った。
「せっかく来たんだから、ゆっくりして行けばいいだろ? 茶はないけど酒ならあるぞ。飲むか?」
「う、うん。少しなら」
というか、この状況は素面では耐えられそうもなかった。酔わないとやってられない。
(どうしたんだろう、わたしの心臓。ドキドキしすぎて壊れるんじゃないの⁉)
それもこれもラルフが悪い。突然求婚してきて、今日から一緒に住むことになったし、今はお風呂上がりだし、オーレリアの心臓を壊そうとしているとしか思えない。
ラルフが棚からウイスキーの入ったボトルとグラスを二つ持ってくる。よりにもよってウイスキーか。もっと甘いお酒がよかったが、考えてみればラルフが飲む酒に、オーレリアが好んで飲むアルコール度数の低い果実酒があるはずない。
とくとくとグラスに四分の一ほどウイスキーを注いで、ラルフが手渡してくる。べろりと舐めるように飲むと、すぐにカッと喉の奥が熱くなった。
「それでお前、俺とギルバート様のどっちを選ぶか決めたの?」
「ぶーっ!」
思わず口に含んだウイスキーを噴き出してしまった。それほど口に含んではいなかったが、それはオーレリアの膝の上に散って、パジャマに淡いシミを作る。
「あー、何やってんだよお前」
「ラルフのせいでしょ⁉」
ラルフが首にかけていたタオルで、オーレリアの膝の上を拭く。ラルフが身をかがめたから、オーレリアのすぐ顎のところに彼の湿った髪が触れて、太ももには彼の手の熱があって、オーレリアはパニックになりそうになった。
(近い近い近い近い近い近い――――――!)
ラルフが近い! 体温が近い! 呼吸が近い! とにかく近い!
アルコールが体の中に入っているからか、今までとは比較にならないほどに体温が急上昇していく。
「あー、完全にシミになったな。あとで着替えろよ、これ」
オーレリアの服を拭いていたラルフが、シミ取りを諦めて顔をあげた。
パッと目が合う。
見つめ合うこと数秒。
ラルフの青い瞳に吸い込まれそうな錯覚を覚えて、オーレリアが目を逸らすことができないでいたら、彼の手がそっとオーレリアからウイスキーのグラスを取り上げた。
「オーレリア」
どこか熱っぽい声で名前を呼ばれる。
オーレリアから取り上げたグラスをことりとテーブルの上に置いて、ラルフがそっと彼女の頬を撫でた。
するり、とまるで羽のような軽さで頬が何度も撫でられる。
「オーレリア」
ラルフが、もう一度オーレリアの名前を呼んだ。
彼の顔が、少し、また少しと近づいてきて――
「きゃああああああああ!」
オーレリアは悲鳴を上げてラルフを突き飛ばして立ち上がると、その場から脱兎のごとく逃げ出した。
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