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魔界で一番愛してる
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――ミリアムがいなくなった。
突然部屋にやってきたミリアム付きのメイドのリザからそう聞いて、アスヴィルは顔を真っ青にした。
「きっとガーネット様のせいです」
「ガーネットが……」
アスヴィルには、ガーネットがミリアムに会いに行き、喧嘩を売るようなことを言うとは、にわかには信じがたかったが、リザが言うのだからそうなのだろう。
(花嫁候補なんて……)
確かに見合いはした。父、グノーが、彼女を婚約者候補として残していることも知っている。だからといって、よりにもよってミリアムにそんなことを言うなんて。
(まるで俺が、二股しているみたいじゃないか……)
ただでさえミリアムに嫌われているというのに、そんな勘違いをされたら、アスヴィルの評価はどん底まで落ちて這いあがれなくなってしまう。
「リザ、ミリアムはどこに……?」
リザは肩を落として首を振った。
「わかりません。塩を持って部屋に戻ったら、どこにもいなかったんです」
「……塩?」
「はい。まこうと思って」
「は?」
「穢れたので、清めないと」
「……」
アスヴィルにはさっぱりわからなかったが、リザがうっすらと浮かべた笑顔が黒すぎて、彼は怖くてそれ以上は訊けなかった。それに、どうでもよさそうなことにかまっている余裕もあまりない。
「城の中にはどこにもいなかったのか?」
「ええ。ミリアム様が向かいそうなところは片っ端から探してみましたが、どこにもいらっしゃいませんでした」
「温室も?」
「ええ」
「四阿も?」
「ええ。図書室もバラ園も魔王陛下のお部屋も、たまにお昼寝されてる木の上も屋根の上も、もしかしらたガーネット様を殴って埋めてないかしらと裏庭も見てみましたが、どこにも」
「……、さすがに埋めないだろう」
「昔ジェイル様をボコボコに殴って埋めてらっしゃいましたよ」
アスヴィルは内心、自分は埋められなくてよかったと思った。
「とにかく、どこにもいらっしゃらないんです。まさかと思ってシヴァ様に離宮を確認してもらいましたが、そちらにもいらっしゃいませんでした」
「……じゃあ、どこに」
「ですから、わかりません……」
リザは少し恨めしそうにアスヴィルを見上げる。
「アスヴィル様がもう少し女性の気持ちに聡くていらっしゃれば、こんなことにはならなかったと思います」
「……すまない。ガーネットがそんなことをするとは思わなくて」
「違います」
リザはため息をついた。
「ほんっとに、鈍くていらっしゃる」
リザは腰に手を当てて、下からアスヴィルの顔を覗き込んだ。
「ミリアム様は、アスヴィル様のことがお好きなんです!」
「―――、―――え?」
アスヴィルはたっぷり沈黙したあとで、徐々に目を見開いた。
リザはびしっとアスヴィルに向かって指を突きつける。
「なんでわからないんでしょうか。あんなにわかりやすいのに。もう少し、ミリアム様の表情とか仕草とか、細かい部分を注意してみていれば気づいたはずです! ほんっとに男の人ってば自分のことばっかり! いいですか、もう、見ていられないので言わせてもらいます。ミリアム様は間違いなくアスヴィル様が好きなんです!」
「―――まさか」
「なにが、まさか、ですか! まさかの話をしてどうするんです!?」
「だが……」
「だが、でもないんです!」
「け……」
「けれど、しかし、でもないんです!」
「―――」
アスヴィルは茫然とリザを見下ろして、やがて、顔を真っ赤に染め上げた。
「……ほんとに?」
「嘘をついてどうするんですか」
「嘘じゃ、ない……」
「だから、そう言ってるでしょう!?」
アスヴィルはのろのろと右手を持ち上げると、自分の頬をつねってみた。痛い。夢じゃない。
(ミリアムが、俺を、好き……?)
アスヴィルにはまだ信じられなかった。心臓が激しく鼓動を打ちはじめる。耳鳴りまで聞こえてきて、頭の中が沸騰しそうだった。
「ミリアムが……」
できることなら城中を走り回って叫びたい。俺も愛していると叫びたい。
幸せすぎて思考回路が停止しそうになっていると、突然、リザがパァンと目の前で両手を叩いた。
「目を開けたまま寝ないでください!」
アスヴィルは夢から覚めたかのようにハッとした。
リザは少し苛々した様子で、怒ったように言う。
「感動するのはミリアム様を見つけてからにしてください!」
そうだった。アスヴィルの愛するミリアムは、どこかに消えてしまったのだ。
「ミリアムを探さなくては……」
「そうです! 何としてでも探し出してください! きっと一人で泣いてらっしゃいます。いつまでも鬼ごっこばかり続けていないで、いい加減捕まえてきてください!」
鬼ごっことはあんまりな言われようだが、アスヴィルは微苦笑を浮かべると、「ああ」と頷いて部屋を飛び出した。
ミリアムを探して、抱きしめて、謝って――
そして、飽きるほどの愛をささやくのだ。
突然部屋にやってきたミリアム付きのメイドのリザからそう聞いて、アスヴィルは顔を真っ青にした。
「きっとガーネット様のせいです」
「ガーネットが……」
アスヴィルには、ガーネットがミリアムに会いに行き、喧嘩を売るようなことを言うとは、にわかには信じがたかったが、リザが言うのだからそうなのだろう。
(花嫁候補なんて……)
確かに見合いはした。父、グノーが、彼女を婚約者候補として残していることも知っている。だからといって、よりにもよってミリアムにそんなことを言うなんて。
(まるで俺が、二股しているみたいじゃないか……)
ただでさえミリアムに嫌われているというのに、そんな勘違いをされたら、アスヴィルの評価はどん底まで落ちて這いあがれなくなってしまう。
「リザ、ミリアムはどこに……?」
リザは肩を落として首を振った。
「わかりません。塩を持って部屋に戻ったら、どこにもいなかったんです」
「……塩?」
「はい。まこうと思って」
「は?」
「穢れたので、清めないと」
「……」
アスヴィルにはさっぱりわからなかったが、リザがうっすらと浮かべた笑顔が黒すぎて、彼は怖くてそれ以上は訊けなかった。それに、どうでもよさそうなことにかまっている余裕もあまりない。
「城の中にはどこにもいなかったのか?」
「ええ。ミリアム様が向かいそうなところは片っ端から探してみましたが、どこにもいらっしゃいませんでした」
「温室も?」
「ええ」
「四阿も?」
「ええ。図書室もバラ園も魔王陛下のお部屋も、たまにお昼寝されてる木の上も屋根の上も、もしかしらたガーネット様を殴って埋めてないかしらと裏庭も見てみましたが、どこにも」
「……、さすがに埋めないだろう」
「昔ジェイル様をボコボコに殴って埋めてらっしゃいましたよ」
アスヴィルは内心、自分は埋められなくてよかったと思った。
「とにかく、どこにもいらっしゃらないんです。まさかと思ってシヴァ様に離宮を確認してもらいましたが、そちらにもいらっしゃいませんでした」
「……じゃあ、どこに」
「ですから、わかりません……」
リザは少し恨めしそうにアスヴィルを見上げる。
「アスヴィル様がもう少し女性の気持ちに聡くていらっしゃれば、こんなことにはならなかったと思います」
「……すまない。ガーネットがそんなことをするとは思わなくて」
「違います」
リザはため息をついた。
「ほんっとに、鈍くていらっしゃる」
リザは腰に手を当てて、下からアスヴィルの顔を覗き込んだ。
「ミリアム様は、アスヴィル様のことがお好きなんです!」
「―――、―――え?」
アスヴィルはたっぷり沈黙したあとで、徐々に目を見開いた。
リザはびしっとアスヴィルに向かって指を突きつける。
「なんでわからないんでしょうか。あんなにわかりやすいのに。もう少し、ミリアム様の表情とか仕草とか、細かい部分を注意してみていれば気づいたはずです! ほんっとに男の人ってば自分のことばっかり! いいですか、もう、見ていられないので言わせてもらいます。ミリアム様は間違いなくアスヴィル様が好きなんです!」
「―――まさか」
「なにが、まさか、ですか! まさかの話をしてどうするんです!?」
「だが……」
「だが、でもないんです!」
「け……」
「けれど、しかし、でもないんです!」
「―――」
アスヴィルは茫然とリザを見下ろして、やがて、顔を真っ赤に染め上げた。
「……ほんとに?」
「嘘をついてどうするんですか」
「嘘じゃ、ない……」
「だから、そう言ってるでしょう!?」
アスヴィルはのろのろと右手を持ち上げると、自分の頬をつねってみた。痛い。夢じゃない。
(ミリアムが、俺を、好き……?)
アスヴィルにはまだ信じられなかった。心臓が激しく鼓動を打ちはじめる。耳鳴りまで聞こえてきて、頭の中が沸騰しそうだった。
「ミリアムが……」
できることなら城中を走り回って叫びたい。俺も愛していると叫びたい。
幸せすぎて思考回路が停止しそうになっていると、突然、リザがパァンと目の前で両手を叩いた。
「目を開けたまま寝ないでください!」
アスヴィルは夢から覚めたかのようにハッとした。
リザは少し苛々した様子で、怒ったように言う。
「感動するのはミリアム様を見つけてからにしてください!」
そうだった。アスヴィルの愛するミリアムは、どこかに消えてしまったのだ。
「ミリアムを探さなくては……」
「そうです! 何としてでも探し出してください! きっと一人で泣いてらっしゃいます。いつまでも鬼ごっこばかり続けていないで、いい加減捕まえてきてください!」
鬼ごっことはあんまりな言われようだが、アスヴィルは微苦笑を浮かべると、「ああ」と頷いて部屋を飛び出した。
ミリアムを探して、抱きしめて、謝って――
そして、飽きるほどの愛をささやくのだ。
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