【旦那様は魔王様 外伝】魔界でいちばん大嫌い~絶対に好きになんて、ならないんだから!~

狭山ひびき@バカふり200万部突破

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やさしい夜と気づいた想い

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 ――ミリアム、愛している。

 離宮の一階にある温泉につかりながら、うとうととまどろんでいた時、夢の中に現れたアスヴィルにささやかれて、ミリアムは飛び起きた。

 温泉につかっていたことも忘れて飛び上がり、バランスを崩して湯の中に頭から突っ込んでしまう。

「ぷは……!」

 慌てて湯から顔を出したミリアムは、温泉の淵に手をついて、はあ、と大きく息を吐きだした。

 なんて夢を見たのだろうか。

 悔しいやら悲しいやら恥ずかしいやら、いろいろな感情がごちゃ混ぜになってミリアムを襲い、彼女はぐったりと温泉の淵に額をつけた。

 離宮に来てから、ミリアムはおかしい。

 静かなこの離宮がいけないのか、ぼーっとしていると、アスヴィルの顔ばかりが脳裏のうりをよぎる。

 頭の中に現れるアスヴィルは、決まって優しく微笑んで「愛している」とささやくのだ。

 ミリアムは泣きたくなってきた。

 ようやく「愛している」という叫び声から解放されたのに、今度はアスヴィルの幻影に悩まされるなんて――

「もう、いや……」

 いつになったらアスヴィルの顔が離れていくのだろうか。

 いっそ、アスヴィルのことだけ、記憶の中からなくなってしまえばいいのにと、ミリアムは本気で考えた。
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