【旦那様は魔王様 外伝】魔界でいちばん大嫌い~絶対に好きになんて、ならないんだから!~

狭山ひびき@バカふり200万部突破

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愛していると言わないで

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 魔王の代替わりは、それから一月のちに行われた。

 だが、両親が城からいなくなり、シヴァが魔王になったこと以外、ミリアムの身辺には特に変わった変化はない。

 アスヴィルは相変わらずミリアムにお菓子を届けに来るし、これまた変わらず「愛している」と書かれた手紙を送ってくる。

 アスヴィルの手紙を入れている箱は、すでに三箱目に突入した。

 なぜか捨てるに捨てれず、ミリアムは最初の一通から今日にいたるまで、すべての手紙を残していたのである。

 ミリアムはアスヴィルにもらったチョコチップクッキーを口に運びながら、ぼんやりと庭を見下ろした。

 魔王の代替わりが行われてから、シヴァの周りとうろうろしはじめた派手な女どもが、庭先できゃーきゃー騒ぎながらシヴァを追いかけていた。

 ミリアムの目には鬱陶うっとうしくて仕方なく映るが、シヴァにしてみれば夜の「暇つぶし」にはちょうどいいのだろう。まとわりつかれて嫌な顔をしつつも、特にとがめることなく好きにさせているようだ。

(男って、わけわかんないわ)

 好きでもない相手を、よく侍らせておく気になるものだ。

 そして、アスヴィルだってきっと同じなのだ。ミリアムを愛しているという彼だが、きっといつか飽きてしまい、シヴァのように適当な女で満足するようになるのだ。

(ま、わたしはこのお菓子さえ届けてくれればそれでいいけど)

 ミリアムは三枚目のクッキーに手を伸ばした。

 母はアスヴィルと結婚しろと言ったが、ミリアムが彼と結婚する日は来ないだろう。

 アスヴィルはミリアムを我儘だと言った。しつけがなってない、とののしった。そんな彼と、結婚する日が来るとは思わない。

 ミリアムは今朝アスヴィルから届いた手紙をそっと撫でた。

(愛しているなんて、よく書けるわ……)

 どうして急に愛していると言い出したのだろう。

 あれだけ人のことを我儘だとさげすんでいたくせに、どうして急に態度を変えたのだろう。

「信じられない……」

 ミリアムは手に取った三枚目のクッキーを、皿の中に戻した。

 立ち上がって、大好きな恋愛小説を手に取り、ぱらぱらとめくる。

 小説の中では、お姫様は待っていれば王子様が迎えに来てくれるのだ。優しい王子様が、愛しているとささやいて、抱きしめてくれる。

 その王子様は、決して意地悪なことは言わないのだ。

 アスヴィルのように、突然手のひらを返したように「愛している」と言い出すこともない。

 きっと、母にそそのかされたのだ。魔王の妻に言われれば、アスヴィルだって従わざるを得ないだろう。

(わたしは、優しい王子様がいいの……、アスヴィルみたいに、わたしを我儘なんて言わない、優しい王子様が……)

 ミリアムは本を閉じ、きゅっと唇をかんだ。
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