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初恋は甘いけれど
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さて、アスヴィルを恋の病に叩き落した張本人であるミリアムは、次兄セリウスの部屋で鬱憤を発散させていた。
「まったく、あの男信じられないわ! なんなのかしら? 昔から変な男だったけど、昨日は異常よ! 人のことを呼び止めたかと思えば、なんでもないですって!? だったら呼ぶなって言うのよ!」
ぱくっと兄が用意したお菓子を口に運び、ミリアムはぷりぷり怒る。
ミリアムに激甘のセリウスは、にこにこしながら妹がやけ食いするのを見ていた。
「よしよし、大変だったね。でも、そんな変な男には近づいたらいけないよ」
「もちろんよ!」
ミリアムは鼻息荒く頷いた。
セリウスの思惑なんてちっとも気が付いていない。
セリウスもシヴァ同様、母親がミリアムとアスヴィルにくっついてほしいと企んでいることを知っていた。
ミリアムは知らないかもしれないが、アスヴィルが頻繁に城に呼ばれるのは、友人のシヴァに会いに来ることもあるが、何かにつけてアスヴィルを城に呼びつけている母親のせいでもあるのだ。
その情報を仕入れるたびに、ミリアムにアスヴィルが来ることを伝え、会わないようにさせているのは、ほかならぬセリウスなのである。
可愛い妹に、変な虫がつくのだけは何としても妨害しなくてはいけないからだ。
その作戦は功を奏し、ミリアムがアスヴィルに会うことはほとんどなく、会ったとしても過去の印象が悪すぎるがゆえに、ミリアムは彼のことを蛇蝎のごとく嫌っているので、ほぼ会話もなく逃げてくる。
ここまではすべてセリウスの計画通りだった。
ただ一つ気になるのは、ミリアムが語った昨日のアスヴィルの様子だ。
(嫌な予感がするな……)
ミリアムは可愛い。身内の贔屓抜きにしても、かなりの美少女だ。そんな彼女に惚れない男がいるだろうか――いや、いない。
現に、ミリアムの姿を見て心奪われた馬鹿な男どもをセリウスは知っていた。
幸か不幸か、ミリアムの結婚相手はアスヴィル、といまだに諦めていない母の手によって、交際や婚約の申し入れはことごとく破棄されているため、ミリアムの耳には入ってこない。
セリウス自身も、あわよくばミリアムとお近づきにと、よこしまなことを考えている男どもを見つけては、二度とそんな気を起こさないように、コテンパンにやっつけていた。
おかげでミリアムは今も、自分だけの可愛い妹なのだ。
(変な男に取られてたまるか。ましてやアスヴィルなんて論外だ)
兄がそんなことを考えているとはこれっぽっちも気がつかず、ミリアムはパクパクと目の前のお菓子を平らげていく。
「嫌なことがあったら、お兄ちゃんが守ってあげるから、絶対言うんだよ?」
目下、アスヴィルの最大の敵はミリアムの実の兄であるセリウスであるということに、彼はまだ気づいていないのだった。
「まったく、あの男信じられないわ! なんなのかしら? 昔から変な男だったけど、昨日は異常よ! 人のことを呼び止めたかと思えば、なんでもないですって!? だったら呼ぶなって言うのよ!」
ぱくっと兄が用意したお菓子を口に運び、ミリアムはぷりぷり怒る。
ミリアムに激甘のセリウスは、にこにこしながら妹がやけ食いするのを見ていた。
「よしよし、大変だったね。でも、そんな変な男には近づいたらいけないよ」
「もちろんよ!」
ミリアムは鼻息荒く頷いた。
セリウスの思惑なんてちっとも気が付いていない。
セリウスもシヴァ同様、母親がミリアムとアスヴィルにくっついてほしいと企んでいることを知っていた。
ミリアムは知らないかもしれないが、アスヴィルが頻繁に城に呼ばれるのは、友人のシヴァに会いに来ることもあるが、何かにつけてアスヴィルを城に呼びつけている母親のせいでもあるのだ。
その情報を仕入れるたびに、ミリアムにアスヴィルが来ることを伝え、会わないようにさせているのは、ほかならぬセリウスなのである。
可愛い妹に、変な虫がつくのだけは何としても妨害しなくてはいけないからだ。
その作戦は功を奏し、ミリアムがアスヴィルに会うことはほとんどなく、会ったとしても過去の印象が悪すぎるがゆえに、ミリアムは彼のことを蛇蝎のごとく嫌っているので、ほぼ会話もなく逃げてくる。
ここまではすべてセリウスの計画通りだった。
ただ一つ気になるのは、ミリアムが語った昨日のアスヴィルの様子だ。
(嫌な予感がするな……)
ミリアムは可愛い。身内の贔屓抜きにしても、かなりの美少女だ。そんな彼女に惚れない男がいるだろうか――いや、いない。
現に、ミリアムの姿を見て心奪われた馬鹿な男どもをセリウスは知っていた。
幸か不幸か、ミリアムの結婚相手はアスヴィル、といまだに諦めていない母の手によって、交際や婚約の申し入れはことごとく破棄されているため、ミリアムの耳には入ってこない。
セリウス自身も、あわよくばミリアムとお近づきにと、よこしまなことを考えている男どもを見つけては、二度とそんな気を起こさないように、コテンパンにやっつけていた。
おかげでミリアムは今も、自分だけの可愛い妹なのだ。
(変な男に取られてたまるか。ましてやアスヴィルなんて論外だ)
兄がそんなことを考えているとはこれっぽっちも気がつかず、ミリアムはパクパクと目の前のお菓子を平らげていく。
「嫌なことがあったら、お兄ちゃんが守ってあげるから、絶対言うんだよ?」
目下、アスヴィルの最大の敵はミリアムの実の兄であるセリウスであるということに、彼はまだ気づいていないのだった。
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