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跪かない男
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「しつけがなっていません」
ポイ
アスヴィルはシヴァの部屋までやってくると、部屋に入るなり、首根っこをもってつまみ上げていたミリアムを、ぽいっとソファの上に放り出した。
ボスン! とふかふかのソファに投げられて、クッションとクッションの間に体を沈めたミリアムは、キッとアスヴィルを睨みつけた。
「なにするのよ!」
だが、アスヴィルはそんなミリアムを無視して、本に視線を落としていたシヴァに向かって続ける。
「甘やかしすぎですよ」
シヴァはようやく本から顔を上げ、友人を見やった。
「文句はうちの両親に言うんだな」
「あなた、実の兄でしょう」
妹の教育に無関心すぎるシヴァに、アスヴィルはあきれる。
無視されたミリアムはぷうっと頬を膨らませた。
「お兄様! なんなのよ、こいつ!」
「アスヴィルだ」
「名前はさっき聞いたから知っているわよ!」
「……」
シヴァは少し面倒そうな顔をした。子供は苦手なのだ。できるだけ関わり合いになりたくない。ミリアムがどれほど我儘になろうと、口出しをせず静観しているのは、そのためである。
アスヴィルは腕を組むと、仁王立ちでミリアムを見下ろした。
「いいか。まず、食べかけの菓子をそのあたりに放り投げて散らかすな。次に、人が一生懸命作ったものにケチをつけるな。最後に、もう少し周りに配慮して敬意を払うことを覚えろ!」
五歳児相手に難しすぎる内容かもしれないが、ミリアムの我儘を目にして怒っているアスヴィルにはそこまでの配慮はできなかったらしい。
ミリアムはソファからぴょんと飛んで立ち上がると、キッとアスヴィルを睨みつけた。
「うるさいわよ、何様よあんた! 初対面で偉そうに!」
「そういうお前は、初対面の俺に跪けと言っただろう」
「だからなによ!」
目の前で口喧嘩をはじめた二人に、シヴァはこっそりため息をついた。人の平穏をぶち壊して、お前らこそ何様だと言いたいが、口にすると面倒なことになりそうなので黙っておく。
アスヴィルはピクリと眉を動かした。聞き分けのないミリアムに、そろそろ限界のようだ。
彼は両手を伸ばすと、素早くミリアムのふっくらした両頬をつまんで引っ張った。
「いい加減にしろ!」
「―――!」
容赦なく頬を引っ張られて、ミリアムは顔を真っ赤に染めて、大きな目に涙をためた。
だが、彼女の山よりも高いプライドが、泣くことだけは許さなかったらしい。
彼女は大暴れしてアスヴィルの手から逃れると、ソファの上のクッションをつかんで、彼の顔面目がけて投げつけた。
ぽす、と顔面でクッションを受けたアスヴィルが額に青筋を浮かべるが、アスヴィルが雷を落とす前に、ミリアムが大声で怒鳴りつけてきた。
「あんたなんか、あんたなんか―――」
ミリアムは大きく息を吸い込んで、宣言した。
「だいっきらいよ―――!!」
――アスヴィルは、この時ミリアムに嫌われたことを、のちのち死ぬほど後悔する羽目になるのだが、怒り狂っていたこの時は、そんなこと、つゆほどにも思わなかったのだった。
ポイ
アスヴィルはシヴァの部屋までやってくると、部屋に入るなり、首根っこをもってつまみ上げていたミリアムを、ぽいっとソファの上に放り出した。
ボスン! とふかふかのソファに投げられて、クッションとクッションの間に体を沈めたミリアムは、キッとアスヴィルを睨みつけた。
「なにするのよ!」
だが、アスヴィルはそんなミリアムを無視して、本に視線を落としていたシヴァに向かって続ける。
「甘やかしすぎですよ」
シヴァはようやく本から顔を上げ、友人を見やった。
「文句はうちの両親に言うんだな」
「あなた、実の兄でしょう」
妹の教育に無関心すぎるシヴァに、アスヴィルはあきれる。
無視されたミリアムはぷうっと頬を膨らませた。
「お兄様! なんなのよ、こいつ!」
「アスヴィルだ」
「名前はさっき聞いたから知っているわよ!」
「……」
シヴァは少し面倒そうな顔をした。子供は苦手なのだ。できるだけ関わり合いになりたくない。ミリアムがどれほど我儘になろうと、口出しをせず静観しているのは、そのためである。
アスヴィルは腕を組むと、仁王立ちでミリアムを見下ろした。
「いいか。まず、食べかけの菓子をそのあたりに放り投げて散らかすな。次に、人が一生懸命作ったものにケチをつけるな。最後に、もう少し周りに配慮して敬意を払うことを覚えろ!」
五歳児相手に難しすぎる内容かもしれないが、ミリアムの我儘を目にして怒っているアスヴィルにはそこまでの配慮はできなかったらしい。
ミリアムはソファからぴょんと飛んで立ち上がると、キッとアスヴィルを睨みつけた。
「うるさいわよ、何様よあんた! 初対面で偉そうに!」
「そういうお前は、初対面の俺に跪けと言っただろう」
「だからなによ!」
目の前で口喧嘩をはじめた二人に、シヴァはこっそりため息をついた。人の平穏をぶち壊して、お前らこそ何様だと言いたいが、口にすると面倒なことになりそうなので黙っておく。
アスヴィルはピクリと眉を動かした。聞き分けのないミリアムに、そろそろ限界のようだ。
彼は両手を伸ばすと、素早くミリアムのふっくらした両頬をつまんで引っ張った。
「いい加減にしろ!」
「―――!」
容赦なく頬を引っ張られて、ミリアムは顔を真っ赤に染めて、大きな目に涙をためた。
だが、彼女の山よりも高いプライドが、泣くことだけは許さなかったらしい。
彼女は大暴れしてアスヴィルの手から逃れると、ソファの上のクッションをつかんで、彼の顔面目がけて投げつけた。
ぽす、と顔面でクッションを受けたアスヴィルが額に青筋を浮かべるが、アスヴィルが雷を落とす前に、ミリアムが大声で怒鳴りつけてきた。
「あんたなんか、あんたなんか―――」
ミリアムは大きく息を吸い込んで、宣言した。
「だいっきらいよ―――!!」
――アスヴィルは、この時ミリアムに嫌われたことを、のちのち死ぬほど後悔する羽目になるのだが、怒り狂っていたこの時は、そんなこと、つゆほどにも思わなかったのだった。
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