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行商人は女好き
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リチャードにエスコートされて会場に向かうと、もうすでにかなりの人数が集まっていた。
会場の大広間は、数段高いところに王族用の席が設けられていて、来場者が入室する広間の入口とは別に、王族用の席に直接入れる裏の出入り口がある。
極力女性を遠ざけたいリチャードはもちろん、裏の出入り口から入って席についた。
リチャードとカレンは、パーティーがはじまって最初のダンスを一緒に踊ることになっている。
席に着くと、王族専用の給仕がシャンパングラスを渡してくれた。
没落した貧乏伯爵の娘がこんなところにいてもいいのかと一瞬不安になったが、少し離れたところに座っている国王も王妃も咎めなかったので大丈夫なのだろう。
先ほど一瞬王妃と目があったが、にっこりと微笑まれたから微笑み返して会釈しておいた。挨拶に向かった方がいいのかと思ったが、リチャードが「べつにいいよ」と言うからおとなしく彼の横に座っている。
「フルーツもあるよ。いるなら取って来させよう」
食事の時間には早いのでお腹はそれほどすいていないが、フルーツは食べたい。頷けば、リチャードが給仕を呼んで、カットフルーツを盛り合わせて持ってこさせた。
シャンパンを片手にリチャードとフルーツを食べていると、後ろに控えていたロゼウスが静かにやってきてリチャードに小さく耳打ちする。
リチャードは顔をあげて、シャンパングラスをテーブルに置くと立ち上がった。
「カイザー王子がいらっしゃったらしい。ああ、君は座ったままでいいよ。あとで紹介しよう」
リチャードがそう教えてくれた直後、王族用の席に通じている扉が開いて、一人の男性が姿を現す。
金糸で鳥の模様が刺繍された丈の長い緋色の上着の裾を翻して颯爽と入ってきたのは、赤茶色の髪をした背の高い男性で――
「え……? アレクさん!?」
カレンは彼の姿を見た瞬間、驚きのあまり叫んでしまった。
会場の大広間は、数段高いところに王族用の席が設けられていて、来場者が入室する広間の入口とは別に、王族用の席に直接入れる裏の出入り口がある。
極力女性を遠ざけたいリチャードはもちろん、裏の出入り口から入って席についた。
リチャードとカレンは、パーティーがはじまって最初のダンスを一緒に踊ることになっている。
席に着くと、王族専用の給仕がシャンパングラスを渡してくれた。
没落した貧乏伯爵の娘がこんなところにいてもいいのかと一瞬不安になったが、少し離れたところに座っている国王も王妃も咎めなかったので大丈夫なのだろう。
先ほど一瞬王妃と目があったが、にっこりと微笑まれたから微笑み返して会釈しておいた。挨拶に向かった方がいいのかと思ったが、リチャードが「べつにいいよ」と言うからおとなしく彼の横に座っている。
「フルーツもあるよ。いるなら取って来させよう」
食事の時間には早いのでお腹はそれほどすいていないが、フルーツは食べたい。頷けば、リチャードが給仕を呼んで、カットフルーツを盛り合わせて持ってこさせた。
シャンパンを片手にリチャードとフルーツを食べていると、後ろに控えていたロゼウスが静かにやってきてリチャードに小さく耳打ちする。
リチャードは顔をあげて、シャンパングラスをテーブルに置くと立ち上がった。
「カイザー王子がいらっしゃったらしい。ああ、君は座ったままでいいよ。あとで紹介しよう」
リチャードがそう教えてくれた直後、王族用の席に通じている扉が開いて、一人の男性が姿を現す。
金糸で鳥の模様が刺繍された丈の長い緋色の上着の裾を翻して颯爽と入ってきたのは、赤茶色の髪をした背の高い男性で――
「え……? アレクさん!?」
カレンは彼の姿を見た瞬間、驚きのあまり叫んでしまった。
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