32 / 46
行商人は女好き
1
しおりを挟む
「いち、に、さん、いち、に、さん……。はい、もうよろしいですわ」
パンパンというロスコーネ夫人の手拍子が止み、リチャードとカレンは足を止めた。
「ワルツについては問題なさそうですわね。お疲れさまでございました。これで二日後のダンスパーティーもきっと大丈夫ですわ」
ロスコーネ夫人に及第点をもらい、カレンはホッとした。その拍子に体の力が抜けて、ダンスの疲労もあり、後ろに倒れそうになったのをリチャードが慌てて抱き留めてくれる。
「大丈夫か? ふらふらしているようだが……」
「すみません。大丈夫です」
高いヒールで長時間踊ったため、気を抜いた瞬間に膝が砕けた。リチャードに支えられながら、そのままソファに腰を下ろし、ふうと息をつく。
今すぐ靴を脱ぎたいが、さすがにロスコーネ夫人に見つかると「はしたない!」と怒られそうなのであきらめた。
「今まで頑張ったから明日は勉強はお休みにしてあげるよ。ゆっくり休みなさい。ロスコーネ夫人もよろしいですよね?」
ヨハネスがお茶請けのクッキーと紅茶を差し出してくれる。疲れが取れるようにと蜂蜜とレモンで味付けされた紅茶は甘いけれどすっきりとしていた。本当ならば侍女であるカレンがお茶を煎れるべきなのだろうが、ダンスレッスン後にそんな体力は残っておらず、いつもヨハネスがお茶を煎れてくれる。ヨハネスの煎れる紅茶は、いつも優しい味がした。
「仕方ありませんわね。疲れをためてダンスパーティーに出席させるわけにはまいりませんもの」
「だって。よかったね。気分転換に街にでも下りてみたらどうかな? 城に来てから、まだ城下に降りていないでしょう? きっと楽しいと思うよ」
買い物はないが、城下町は面白そうだ。カレンの暮らしていたアッピヤード地方も素朴で穏やかでいいところだが、城下町は様相が異なり、とても賑やかである。
父が生きていたころは、城下に社交シーズンに利用していた家があったが、売り払ってしまってからは城下には来ていなかった。
カレンはティーカップに口をつけながらリチャードを仰ぎ見た。
「あいにくと俺は時間が割けないが、行ってくるといい。ヨハネス、言い出しっぺは君なんだ、護衛を兼ねてカレンについていてくれ」
「お安いご用だよ。ちょうどほしい本があったことだし。カレン、ついでに本屋に寄ってもいいかな?」
「はい、もちろん」
「ほしいものがあればヨハネスに言うといい。ヨハネス、使った費用はあとで俺に請求してくれ」
「さすがにそんなケチじゃないよ。可愛い教え子にお金を使うくらい痛くもかゆくもないね。ということだから、ほしいものがあれば遠慮なく言うんだよ?」
カレンは無駄遣いが嫌いなのでほしいものはそうそう出てこないと思うが、二人の気遣いに、カレンは笑って頷いた。
パンパンというロスコーネ夫人の手拍子が止み、リチャードとカレンは足を止めた。
「ワルツについては問題なさそうですわね。お疲れさまでございました。これで二日後のダンスパーティーもきっと大丈夫ですわ」
ロスコーネ夫人に及第点をもらい、カレンはホッとした。その拍子に体の力が抜けて、ダンスの疲労もあり、後ろに倒れそうになったのをリチャードが慌てて抱き留めてくれる。
「大丈夫か? ふらふらしているようだが……」
「すみません。大丈夫です」
高いヒールで長時間踊ったため、気を抜いた瞬間に膝が砕けた。リチャードに支えられながら、そのままソファに腰を下ろし、ふうと息をつく。
今すぐ靴を脱ぎたいが、さすがにロスコーネ夫人に見つかると「はしたない!」と怒られそうなのであきらめた。
「今まで頑張ったから明日は勉強はお休みにしてあげるよ。ゆっくり休みなさい。ロスコーネ夫人もよろしいですよね?」
ヨハネスがお茶請けのクッキーと紅茶を差し出してくれる。疲れが取れるようにと蜂蜜とレモンで味付けされた紅茶は甘いけれどすっきりとしていた。本当ならば侍女であるカレンがお茶を煎れるべきなのだろうが、ダンスレッスン後にそんな体力は残っておらず、いつもヨハネスがお茶を煎れてくれる。ヨハネスの煎れる紅茶は、いつも優しい味がした。
「仕方ありませんわね。疲れをためてダンスパーティーに出席させるわけにはまいりませんもの」
「だって。よかったね。気分転換に街にでも下りてみたらどうかな? 城に来てから、まだ城下に降りていないでしょう? きっと楽しいと思うよ」
買い物はないが、城下町は面白そうだ。カレンの暮らしていたアッピヤード地方も素朴で穏やかでいいところだが、城下町は様相が異なり、とても賑やかである。
父が生きていたころは、城下に社交シーズンに利用していた家があったが、売り払ってしまってからは城下には来ていなかった。
カレンはティーカップに口をつけながらリチャードを仰ぎ見た。
「あいにくと俺は時間が割けないが、行ってくるといい。ヨハネス、言い出しっぺは君なんだ、護衛を兼ねてカレンについていてくれ」
「お安いご用だよ。ちょうどほしい本があったことだし。カレン、ついでに本屋に寄ってもいいかな?」
「はい、もちろん」
「ほしいものがあればヨハネスに言うといい。ヨハネス、使った費用はあとで俺に請求してくれ」
「さすがにそんなケチじゃないよ。可愛い教え子にお金を使うくらい痛くもかゆくもないね。ということだから、ほしいものがあれば遠慮なく言うんだよ?」
カレンは無駄遣いが嫌いなのでほしいものはそうそう出てこないと思うが、二人の気遣いに、カレンは笑って頷いた。
13
お気に入りに追加
461
あなたにおすすめの小説
仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】婚約破棄される前に私は毒を呷って死にます!当然でしょう?私は王太子妃になるはずだったんですから。どの道、只ではすみません。
つくも茄子
恋愛
フリッツ王太子の婚約者が毒を呷った。
彼女は筆頭公爵家のアレクサンドラ・ウジェーヌ・ヘッセン。
なぜ、彼女は毒を自ら飲み干したのか?
それは婚約者のフリッツ王太子からの婚約破棄が原因であった。
恋人の男爵令嬢を正妃にするためにアレクサンドラを罠に嵌めようとしたのだ。
その中の一人は、アレクサンドラの実弟もいた。
更に宰相の息子と近衛騎士団長の嫡男も、王太子と男爵令嬢の味方であった。
婚約者として王家の全てを知るアレクサンドラは、このまま婚約破棄が成立されればどうなるのかを知っていた。そして自分がどういう立場なのかも痛いほど理解していたのだ。
生死の境から生還したアレクサンドラが目を覚ました時には、全てが様変わりしていた。国の将来のため、必要な処置であった。
婚約破棄を宣言した王太子達のその後は、彼らが思い描いていたバラ色の人生ではなかった。
後悔、悲しみ、憎悪、果てしない負の連鎖の果てに、彼らが手にしたものとは。
「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルバ」にも投稿しています。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
愛など初めからありませんが。
ましろ
恋愛
お金で売られるように嫁がされた。
お相手はバツイチ子持ちの伯爵32歳。
「君は子供の面倒だけ見てくれればいい」
「要するに貴方様は幸せ家族の演技をしろと仰るのですよね?ですが、子供達にその様な演技力はありますでしょうか?」
「……何を言っている?」
仕事一筋の鈍感不器用夫に嫁いだミッシェルの未来はいかに?
✻基本ゆるふわ設定。箸休め程度に楽しんでいただけると幸いです。
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた
せいめ
恋愛
伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。
大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。
三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?
深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。
ご都合主義です。
誤字脱字、申し訳ありません。
【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから
真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」
期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。
※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。
※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。
※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。
※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる