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謎は深まる… 2
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「スカーレット、腹が落ち着いたなら教えてくれ」
わたしはすっかりやり切った感で自己完結していたのだが、他の人はそうではなかったようだ。
ケーキを全部食べて、空腹状態から解放されたわたしは、紅茶を飲みながらきょとんと首を傾げる。
「何をですか?」
「だから、どうやって傷跡を消したかだ」
「ええ。癒しの力の強弱を変えるのはわかるの。でも、わたくしがいくら最大の力で癒しをかけても、ベルンハルト様の傷跡は消えなかったのよ」
「……うーん」
そう言われても、わたしにはよくわからない。
本当に、ただただ最大出力で癒しの力をかけただけなのだ。
わたしがさらに首をひねると、シャルティーナ様もつられた様に首を傾げた。
二人で「うーん」と悩んでいると、ベルンハルト様が苦笑する。
「シャルティーナは力の弱い聖女ではないけれど、スカーレットが力の強い聖女だったのではないか?」
「そうおっしゃいますけど、力はここまで大きく開くものではありませんわ。……わたくしが知る限りですけど」
「だが実際、それしか考えられないだろう?」
「それは、まあ……」
シャルティーナ様はまだ納得していないようだった。
「もしかしたら、『癒しの水』にも関係があるのかもしれないな」
「そうですわね。まずそちらを検証しましょう。わたくしが使った湯に同じ効果が現れなければ、スカーレットだけ特別ということになります」
リヒャルト様の意見にシャルティーナ様が目を輝かせて頷いた。
……何故かしら? 妙な実験に興味を持った人がもう一人増えた気が……。
早く『癒しの水』の検証実験に飽きてほしいのに、この様子だと飽きてくれなさそうな気がする。
なんかやだな~と思っていると、リヒャルト様が家令のアルムさんにケーキを追加してくるように言った。
……ケーキ!
ケーキに釣られてころっとわたしの機嫌がよくなると、リヒャルト様が訊ねる。
「先ほどスカーレットが癒しの力を使ったとき、君の全身が金色に輝いたが、あれはなんだ?」
「最大出力で癒しの力を使うとああなります」
「義姉上」
「わたくしは、あのようにはなりません。他の聖女が癒しの力を最大で使ったところを見たことがありますが、他の方もあのようにはなりませんでしたわ」
「……なるほど。スカーレットだけか」
「そうなんですか?」
「むしろ何故君が知らない。神殿で暮らしていたんだろう?」
「癒しの力を最大で使ったことはほとんどないですし、昔は最大で癒しの力を使うと倒れていたので、よくわかりません。他の聖女たちが最大出力で癒しの力を使うところも見たことありませんし」
「倒れていた⁉」
「はい。久々に使ったから倒れるかと思いましたけど、体が成長したからなのか倒れませんでした! お腹はすきましたけど……」
えっへんと胸を張ると、何故かリヒャルト様が怖い顔になった。
「君は、何故そんな無茶をする⁉ 試してほしいとは言ったが、倒れるまで力を使ってほしいとは言っていないぞ‼」
……何故だろう。怒っていらっしゃる。
「で、でも、たぶん最大出力でないとあの傷跡は消えなかった気がしますし……」
「そういう問題じゃない!」
ではどういう問題なのだろうか。
怒っているリヒャルト様が怖いので、わたしの背後に控えているベティーナさんに助けを求めると、そっと近づいてきてくれた。
「旦那様、ひとまず、倒れなかったからいいではありませんか。スカーレット様はご自分が無茶をしたという自覚はなさそうですから、それはおいおいお教えすればよいのです」
「無茶をした自覚がないだと?」
じろりと睨まれたので、わたしはこくこくと何度も首を縦に振って、体をよじると、ベティーナさんの腰にひしと掴まった。この場でわたしをかばってくれそうなのはベティーナさんしかいない。
リヒャルト様がこめかみのあたりを指でぐりぐりしながら、はあ、と嘆息する。
「君という人は……。まあ、鳩にも惜しげなく癒しの力を使うくらいだ、細かいことは気にしていなさそうだな。しかし、昔は倒れていた、か。そして今回は腹が減ったと。……聖女の力と空腹には関係があるのか? 義姉上、どう思います?」
「わたくしは力を使っても空腹を覚えることはありませんわ」
「つまりこれも、スカーレット限定ということか」
……あれ? なんか「わたしだけ」の事象が増えたよ? なんかダメな子っぽい気がして嫌なんだけど。まあ実際、力のコントロールを覚えるには時間がかかったし、燃費が悪いって神殿を追い出されちゃったから、聖女の中では落第生なのかもしれないけどね。
「君のその燃費の悪さと聖女の力には、何か関係があるのかもしれないな」
「そうですわねえ。……それだけ食べているにもかかわらず、そんなに細いのですもの、確かに何か秘密があるのかもしれませんわ」
「シャルティーナ、細さは関係ないのではないか?」
「ありますわよ。……秘密がわかれば、わたくしも太らない体が手に入るかもしれませんわ」
「完全に脱線しているよ、シャルティーナ」
ベルンハルト様がやれやれと笑う。
「ともかく、最初は『癒しの水』だな。スカーレットについて調べるのはそのあとにしよう」
……なんですと⁉
今、不穏な単語が聞こえてきましたけど、ちょっと待ってほしい!
……わたしを調べるって、リヒャルト様、いったい何をする気ですか⁉ わたし、食べても美味しくないですよ‼
わたしはすっかりやり切った感で自己完結していたのだが、他の人はそうではなかったようだ。
ケーキを全部食べて、空腹状態から解放されたわたしは、紅茶を飲みながらきょとんと首を傾げる。
「何をですか?」
「だから、どうやって傷跡を消したかだ」
「ええ。癒しの力の強弱を変えるのはわかるの。でも、わたくしがいくら最大の力で癒しをかけても、ベルンハルト様の傷跡は消えなかったのよ」
「……うーん」
そう言われても、わたしにはよくわからない。
本当に、ただただ最大出力で癒しの力をかけただけなのだ。
わたしがさらに首をひねると、シャルティーナ様もつられた様に首を傾げた。
二人で「うーん」と悩んでいると、ベルンハルト様が苦笑する。
「シャルティーナは力の弱い聖女ではないけれど、スカーレットが力の強い聖女だったのではないか?」
「そうおっしゃいますけど、力はここまで大きく開くものではありませんわ。……わたくしが知る限りですけど」
「だが実際、それしか考えられないだろう?」
「それは、まあ……」
シャルティーナ様はまだ納得していないようだった。
「もしかしたら、『癒しの水』にも関係があるのかもしれないな」
「そうですわね。まずそちらを検証しましょう。わたくしが使った湯に同じ効果が現れなければ、スカーレットだけ特別ということになります」
リヒャルト様の意見にシャルティーナ様が目を輝かせて頷いた。
……何故かしら? 妙な実験に興味を持った人がもう一人増えた気が……。
早く『癒しの水』の検証実験に飽きてほしいのに、この様子だと飽きてくれなさそうな気がする。
なんかやだな~と思っていると、リヒャルト様が家令のアルムさんにケーキを追加してくるように言った。
……ケーキ!
ケーキに釣られてころっとわたしの機嫌がよくなると、リヒャルト様が訊ねる。
「先ほどスカーレットが癒しの力を使ったとき、君の全身が金色に輝いたが、あれはなんだ?」
「最大出力で癒しの力を使うとああなります」
「義姉上」
「わたくしは、あのようにはなりません。他の聖女が癒しの力を最大で使ったところを見たことがありますが、他の方もあのようにはなりませんでしたわ」
「……なるほど。スカーレットだけか」
「そうなんですか?」
「むしろ何故君が知らない。神殿で暮らしていたんだろう?」
「癒しの力を最大で使ったことはほとんどないですし、昔は最大で癒しの力を使うと倒れていたので、よくわかりません。他の聖女たちが最大出力で癒しの力を使うところも見たことありませんし」
「倒れていた⁉」
「はい。久々に使ったから倒れるかと思いましたけど、体が成長したからなのか倒れませんでした! お腹はすきましたけど……」
えっへんと胸を張ると、何故かリヒャルト様が怖い顔になった。
「君は、何故そんな無茶をする⁉ 試してほしいとは言ったが、倒れるまで力を使ってほしいとは言っていないぞ‼」
……何故だろう。怒っていらっしゃる。
「で、でも、たぶん最大出力でないとあの傷跡は消えなかった気がしますし……」
「そういう問題じゃない!」
ではどういう問題なのだろうか。
怒っているリヒャルト様が怖いので、わたしの背後に控えているベティーナさんに助けを求めると、そっと近づいてきてくれた。
「旦那様、ひとまず、倒れなかったからいいではありませんか。スカーレット様はご自分が無茶をしたという自覚はなさそうですから、それはおいおいお教えすればよいのです」
「無茶をした自覚がないだと?」
じろりと睨まれたので、わたしはこくこくと何度も首を縦に振って、体をよじると、ベティーナさんの腰にひしと掴まった。この場でわたしをかばってくれそうなのはベティーナさんしかいない。
リヒャルト様がこめかみのあたりを指でぐりぐりしながら、はあ、と嘆息する。
「君という人は……。まあ、鳩にも惜しげなく癒しの力を使うくらいだ、細かいことは気にしていなさそうだな。しかし、昔は倒れていた、か。そして今回は腹が減ったと。……聖女の力と空腹には関係があるのか? 義姉上、どう思います?」
「わたくしは力を使っても空腹を覚えることはありませんわ」
「つまりこれも、スカーレット限定ということか」
……あれ? なんか「わたしだけ」の事象が増えたよ? なんかダメな子っぽい気がして嫌なんだけど。まあ実際、力のコントロールを覚えるには時間がかかったし、燃費が悪いって神殿を追い出されちゃったから、聖女の中では落第生なのかもしれないけどね。
「君のその燃費の悪さと聖女の力には、何か関係があるのかもしれないな」
「そうですわねえ。……それだけ食べているにもかかわらず、そんなに細いのですもの、確かに何か秘密があるのかもしれませんわ」
「シャルティーナ、細さは関係ないのではないか?」
「ありますわよ。……秘密がわかれば、わたくしも太らない体が手に入るかもしれませんわ」
「完全に脱線しているよ、シャルティーナ」
ベルンハルト様がやれやれと笑う。
「ともかく、最初は『癒しの水』だな。スカーレットについて調べるのはそのあとにしよう」
……なんですと⁉
今、不穏な単語が聞こえてきましたけど、ちょっと待ってほしい!
……わたしを調べるって、リヒャルト様、いったい何をする気ですか⁉ わたし、食べても美味しくないですよ‼
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