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大妖精の妻

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 泉でメリーエルとはぐれたユリウスは、この森に住む妖精のもとへ急いでいた。

 はぐれたメリーエルの気配をたどっても、どういうわけかたどり着けず、森の中で一夜を明かしたユリウスは、これ以上闇雲に探し回っても無意味だと悟った。

 早くしないと、メリーエルの命が危ない。

 獣に襲われる心配はしていなかった。普段からユリウスと生活しているメリーエルには、少なからず龍族であるユリウスの気配が染みついている。そんなメリーエルに獣たちが飛びつくことはまずないだろう。

 ただ、厳しい冬の森だ。一夜を明かすだけでも、冬の寒さで相当な体力が奪われる。弱くとも多少の魔力を持つメリーエルは、森の中で暖を取るくらいはできるだろうが、それでも急いだほうがいい。

(心細くなって泣いていないといいが……)

 メリーエルは強がりだが、意外と泣き虫だ。

「龍族って過保護なのねぇ」

 急ぐユリウスのうしろを、ビオラがそんなことを言いながらついてくるが、メリーエルを心配するあまりイライラしているユリウスはきれいさっぱり無視をした。

 森に住む妖精ならば、何か情報を持っているかもしれない。

 油断していたとはいえ、ユリウスの目の前でメリーエルがいなくなるなんて――、普通ならあり得ない。

(何か妙だ……)

 突然発生した霧といい、消えたメリーエルといい、嫌な予感と言うのか――、胸がざわつくような焦りがユリウスを襲う。

(メリーエル……)

 頼むから無事でいてくれ――、ユリウスはこのまま森の木々をすべて薙ぎ払って目的地へ向かいたいのをぐっとこらえると、足場の悪い森の中を走り抜けた。
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