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霧男の目的

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 翌朝、メリーエルが目を覚ましたとき、ケツィーの姿はどこにもなかった。

 昨夜おこした炎はまだ小さく燃えていて、メリーエルは薪を三本ほど炎の中にくべると、きょろきょろとあたりを見渡す。

 夜に二回ほど薪をたすためにメリーエルは目を覚ましたが、ケツィーはその時は確かに近くで眠っていた。

「ケツィー?」

 なるほど、ケツィーの言った通り、洞窟の天井の小さな穴から差し込んだ日差しが洞窟内を照らしている。

 もしかしてケツィーはメリーエルが起きるのを待たずして洞窟内を散策しているのだろうか。――いや、それはないだろう。ここにいたほかの娘がいなくなり、ケツィーは怖がっているようだった。一人で歩き回るとは思えない。

 メリーエルはぐるりと洞窟内を見渡した。

 洞窟はまだ奥がありそうだ。奥へ進むと出口に通じているのかどうかはわからないが、ケツィーが言うのは洞窟の中を日差しが照らすのはわずかな時間らしい。

 メリーエルが悩んだのは一瞬だった。ここでぼーっとしていても餓死する危険性が増すだけだ。体力が残っているうちに動いておきたい。

 それに――、ケツィーの言う通り、ここにいた娘たちが次々と姿を消しているのならば、いつメリーエルも同じ目に遭うかわからない。もしかしたらケツィーも同じように消えてしまったのであれば、次はメリーエルの番だ。

「ユリウスのばか。早く助けに来なさいよ……」

 メリーエルは弱気になりそうな心を、ユリウスへの文句を言うことでごまかしながら、洞窟の奥へと進んでいく。

 奥へ行けば行くほど暗くなり、メリーエルが洞窟の壁に片手をつきならが、足元に気をつけて進んでいくと、ふと目の前が明るくなった。

(出口?)

 メリーエルが歩調を速めると、たどり着いた先は出口ではなく、大きく開けた場所だった。

 まるで大きな落とし穴のように丸く掘られた穴に、天井の小さな穴から光が注ぐ。

「……なによ、ここ」

 落とし穴のような大きな穴の中央には、七色に光るものがあった。それは、水晶のように多角形の柱だった。柱自体が光を放っているのか、日差しを受けて反射しているのかわからないが、鮮やかに輝いている。

 柱は、太い一本の柱を中心に、周りに何本も突き立っている。

 メリーエルは落とし穴を覗き込んで、降りられるだろうかと考えた。ごつごつとした岩肌は、なかなかな急斜面だ。

「……なんか、転がり落ちそうで怖いわね」

 自慢ではないが、運動神経はいい方ではない。こんな岩肌の急斜面で転んだりしたら、大けがをしそうだ。

 この穴の奥には進むところもなさそうだし、いったん諦めて引き返そうとした、その時だった。

「メリーエル」

 呼ばれて顔をあげたメリーエルは、目を見開いた。

「……ユリウス?」

 穴の中央。七色の光を放つ柱のそばにユリウスの姿があった。彼は微笑んで、メリーエルに手を振っている。

(どうして……、だってさっきまで、そこには誰も……)

 幻覚だろうか。いや、そんなはずはない。声だって聞こえたし。

「ユリウス、そんなところで何しているの?」

 銀髪の、綺麗な顔をした龍族の王子。山ではぐれたはずなのに、どうして目の前にいるのか。メリーエルを探しに来た? でも、どうやって?

 ユリウスはメリーエルの問いには答えずに、ゆっくりと手を差し出した。

「メリーエル、そこは危ない。早くこっちに来い」

「は? 危ないって、何を言ってるの?」

 メリーエルは訝しんだが、ユリウスは早く来いと手招く。

 メリーエルはもう一度、急な斜面の岩肌を見て、それからユリウスを見る。しばらく無言で考え込んだあと、キッとユリウスを睨みつけた。

「あんた、ユリウスじゃないわ」

「メリーエル?」

 ユリウスが不思議そうに首をひねる。だが、メリーエルは騙されなかった。

「こんな場所で、ユリウスがわたしに『来い』なんていうはずないもの! わたしが転んで怪我をするのは目に見えてるから、ユリウスなら絶対にわたしをここまで迎えに来るはずだわ! あいつは超がつくほど過保護なのよ!」

 あんた誰――、メリーエルが睨みつける先で、ユリウスはニッと口端をつり上げた。
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