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金色の蛇は退屈している

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 ユーリーに案内されて邸の応接間に通されたアロウンたちのもとに、しばらくして、一人の男があらわれた。

 毛先のあたりだけは空のように青いが、そのほかは見事な金髪の、二十代半ばほどの外見の男である。

 雪を欺くような白い肌にとがった耳、ルビーインゾイサイトのように緑と赤の入り混じった不思議な色の瞳を見た瞬間、シュバリエは彼が人間ではないと気がついた。

 背は高く、アロウンと同じくらいだろう。

 外見こそ人で言う二十歳半ばほどだが、どこか賢者めいているというか――、何百年、何千年も生きてきたかのような不思議な達観した雰囲気を持った男だった。

「クラウド、久しいな」

 アロウンが軽く手を振って言えば、男は小さく笑った。

「お前が来るのは珍しいな」

 十五年ぶりくらいかと言いながらクラウドはアロウンの前のソファに腰を下ろす。

 まもなくしてユーリーが茶と茶菓子を持ってやってきた。彼が茶をおいて応接間を出て行くのを見計らって、クラウドが口を開く。

「それで、ここに来たからには何か用事があるのだろう?」

「ああ。単刀直入に言うが、私と隣にいるこの男――シュバリエに、妖精の祝福を贈ってほしい」

 クラウドは目を丸くした。

「そこの男はともかく、お前がそんなものを欲しがるとは思えんがな」

「妖精界に行く必要ができたんだ」

 アロウンが事情を簡単にクラウドに説明すると、クラウドは微苦笑を浮かべてやれやれと息を吐きだした。

「また妙なことに首を突っ込んだものだな。ウィンラルドが嫁をとろうとしていると言うことにも驚いたが――、ウィンラルドに会いに行ったところで、素直にそのマリアベルとか言うのを返してくれるとも限らんだろうに」

「マリアベル姫は俺の婚約者です」

 そこで黙ってやり取りを聞いていたシュバリエが口を挟んだ。

 クラウドはちらりとシュバリエに視線を投げてから、

「だが、アロウンの話では、そなたと婚約する前に、すでにウィンラルドとの約束がなされていたのだろう。生まれたときのことだろうと、約束した相手が忘れていようと、約束は約束だ。まあ、そなたには何の非もないだろうが――、こればっかりは運が悪かったと諦めた方がいいような気もするがな」

「そんな――」

「そんな顔をするな。俺も婚約者を思うソナタの気持ちがわからんでもない。ただ、それなりの覚悟はしておいた方がいいぞということだ」

「クラウド、では祝福はくれるんだな」

 クラウドは少し考えるように瞑目して、答えた。

「まあ、やってもいい。ただ――」

 クラウドは人差し指を立てて、こう告げた。

「等価交換だ。その前に、俺からも一つ頼みたいことがある」

 アロウンはさらに面倒ごとが増えたと、顔をしかめた。
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