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妖精王の遣い

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 パタパタと目の前で動く羽は、まるで金粉でも散りばめたかのようにキラキラしている。

 髪の色は明るいライラックで、くりっとした大きな目をした妖精は、人間で言えば五歳の女の子のような幼い印象だった。

 妖精はパタパタとユリウスの周りを三周して、それから疲れたのか、彼の肩の上にとまって羽を休めた。

「こんにちは、龍の王子様」

 気配でわかるのか、妖精はそう言って、ユリウスの肩の上で丁寧にお辞儀をした。

 それから妖精は国王を見、ルイーザを見、最後にメリーエルに視線を向けた。そして小首をかしげて、眉を八の字にすると、疑わしそうにメリーエルに訊いた。

「あたし、マリアベルってお姫様に会いに来たんだけど、まさか……、あんた……?」

「違うわよ」

「ああ、やっぱりね!」

 妖精がなぜか腕を組んでうんうんと頷きはじめたので、メリーエルは怪訝そうな表情を浮かべた。

「やっぱりって何よ、やっぱりって」

「え、だってあんた、気品っていうものがなさそうだもん。がさつそうだし。お姫様ってもっとおしとやかでしっとりしたイメージじゃない」

 妖精の言葉を聞いた途端、ユリウスが吹き出した。
 メリーエルは額に青筋を浮かべた。

「いい度胸じゃないのそこの妖精。魔女を怒らせたら怖いってこと、知らないの?」

 ポキペキと胸の前で指を鳴らしはじめたメリーエルに、妖精はひっと悲鳴を上げて、ユリウスの銀髪の中に隠れてしまった。

 メリーエルはユリウスの髪の中の妖精を引きずり出して締め上げてやりたい気分だったが、ユリウスに少しおとなしくしていろと言われて、渋々ソファに座りなおす。

 国王とルイーザは突然現れた妖精に驚いたのか、半ば放心したように黙っていた。

 ユリウスは髪の中に隠れた妖精をむんずと掴むと、自分の顔の前に引きずり出した。

「それで妖精。なぜマリアベル姫に用があるんだ?」

 妖精はしばらくユリウスの手から逃れようとばたばたしていたが、やがて諦めたのか、肩で息をしながら答えた。

「妖精じゃなくて、あたしの名前はビオラよ。ビオラ。マリアベル姫にはお願いがあるから来たの」

「お願い?」

 メリーエルが訊ねると、ビオラは大きく頷いた。

「そう。結婚をやめてってお願いしようと思ったのよ」

「なんですって?」

 メリーエルは眉を寄せた。

「どうして妖精のあんたが、マリアベル姫とシュバリエ王子の結婚をやめさせたいのよ」

 すると、不思議そうな顔をするのは今度はビオラの方だった。

「シュバリエ王子? 誰よそれ」

「誰って、マリアベル姫の結婚相手よ」

 ビオラはますます訝しそうな表情になった。そして――

「違うわよ。マリアベル姫の結婚相手は、ウィンラルド様よ!」

「―――誰よ、それ」

 メリーエルは、目を丸くした。
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