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姫と妖精の約束

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「つまり、朝から体調がすぐれなかった王女様に一人になりたいと言われて誰も王女様の部屋に近づかなかったら、いつの間にかいなくなっていた、と?」

 さめざめと泣くルイーザがぽつぽつと語る内容を要約したメリーエルは、隣でぐったりとした表情で天井を仰いでいるユリウスを肘でつついた。

「ちょっと、どう思う」

「どうも何も、家出じゃなかったら誘拐だろう」

「誘拐!?」

 今までその可能性を考えていなかったらしい能天気な侍女は、ひっと悲鳴を上げて立ち上がった。

「そ、そんな! まさか! 誘拐なんて……! へ、陛下にご報告――」

「落ち着け。家出じゃなかったらと言っただろう。一国の姫がいなくなって攫われたという可能性を今まで考えなかったと言うのなら――、お前たちは姫が家出する理由に心当たりがあったんじゃないのか?」

 動揺して頭を抱えてしまったルイーザに、はあ、とため息をついたユリウスが冷静に突っ込みを入れる。

 メリーエルは隣で「なるほどな」と手を叩いた。

「で、王女様が家出する理由に心当たりあるの?」

 ルイーザはすとんとソファに座りなおすと、小さく首肯する。

「実は……、姫様はどうも、その……」

 ルイーザはちらっと二人を見て、隠してはおけないと思ったのか、意を決したように口を開く。

「どうも、その……、この結婚に乗り気ではなかったようなのです」

「え?」

 メリーエルは目を丸くした。

(うわ……、うちの国の王子の次はこっちの問題……? もういっそ結婚やめちゃえばいいのに……、ってわけにはいかないのか。王族、面倒くさ!)

 しかし、シュバリエに続きマリアベルも結婚を憂鬱に感じているのなら、このまま結婚したらそれこそすぐに破綻するのではないだろうか。そう思うものの、さすがにそれは口に出せずに、メリーエルは、ぬるくなった紅茶をすすった。

「姫様は、結婚が近づくにつれ、ため息が多くなりました。シュバリエ殿下の肖像画を見つめてはため息をつかれるので、もしかしたら……、と思ってはいたのです。でも、まさかお逃げになるほど思いつめていらっしゃったなんて……」

「あの王子にため息ねぇ……、あの王子、なかなかイケメンだと思うんだけど」

 性格はネジが一本二本緩んでいそうだが、肖像画で確かめられることと言ったら顔以外にない。あの顔にため息をつくなら、どれほどの面食いだよと突っ込みたくなる。

「……だから、かもしれません」

「は?」

 ルイーザは言いにくそうに、細く息を吐きだした。

「わたくしも肖像画を拝見いたしましたが、シュバリエ王子はとても凛々しく、素敵な方で――、だから、姫様は怖くなったのかも」

「はい?」

「こんな素敵な方と結婚するのがわたくしでいいのかしらと……、姫様が言われていたことがありまして」

「えー?」

(こっちもまさかのマリッジブルー? もうやだ)

 メリーエルはぐったりとソファの背もたれに寄りかかった。

 いっぽうユリウスは、「面倒だ」と言いながらも冷静で、侍女に向かったこう告げた。

「とにかく、いつまでもここで待たされるのも困る。いなくなったという姫の部屋を見てみたい。案内してくれ」

 基本他人にはかかわりたがらないユリウスのやる気に、メリーエルは内心でこっそりため息をついた。

(……こいつ、さっさと片付けて帰りたいだけだな)
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