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シャーロットの受難2

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 ブライアンはリアクール公爵家の次男で、ヴィクトリアと婚約の話が出ているテオドールの二歳年下の弟だ。
 淡い金髪に紫色の瞳の天使みたいに可愛らしい少年である。
 シャーロットとアレックスが暴れたので散らかった部屋を急いで片付けて、部屋の中に案内すると、ブライアンは「お邪魔します」とお辞儀をした後で「つまらないものですが」とクッキーの入った箱を差し出してきた。十四歳なのによくできた少年だ。

(うわ、すんごい可愛い)

 くりっとした大きな目に、さらさらの髪。少女のように真っ白い肌に、少年らしいふっくらとした頬。ふわっと微笑むさまは、思わずぎゅーっと抱きしめたくなるような、母性本能をくすぐりまくる容姿をしている。

「お久しぶりです、アレックス殿下。それからはじめまして、シャーロット様。ブライアンと申します」
「あ、はじめましてシャーロットです」

 シャーロットはつられて頭を下げながら、アレックスの分のチョコレートケーキを残しておいてあげればよかったと思った。欲張ってフォークを突き刺すんじゃなかった。自己嫌悪だ。
 ヨハナがミルクティーを煎れると、ブライアンは砂糖を二つ落として、嬉しそうにティーカップを口に運ぶ。

(天使だ。天使がいる……!)

 シャーロットは感激のあまり震えそうになった。ああ、ぎゅーっとしたい。頬ずりしたい。頭をなでなでしてみたい!
 シャーロットが煩悩丸出しの視線を注いでいると、アレックスがあきれ顔になる。「やめろよ」というように肘でつつかれて、シャーロットはじろりと睨み返した。

(わかってるわよ! さすがに人様の子に抱きついて頬ずりとかしないわよ!)

 けれどもデレデレしてしまうのは許してほしい。だって可愛いんだもん!
 ブライアンはミルクティーを飲み干すと、それからハッとしたように頬を染めた。

「す、すみません。のどが渇いていたもので、つい……」
「いいのよいいのよ。ヨハナ、おかわりいれてあげてー」
「はい」

 ヨハナもブライアンの可愛さにメロメロの様子で、見たこともないほどのにやけ顔で紅茶のお代わりをいれはじめる。
 アレックスはどこか面白くなさそうに頬杖をついて、ブライアンを見やった。

「それで、何か用があったんだろう?」
「あ、はい。ご相談があって」
「相談?」
「はい。その……、テオドール兄様とヴィクトリア王女殿下の婚約のことで……」

 ブライアンは可愛らしい顔に陰りを落とすと、ぐっと拳を握りしめて、言った。

「お願いです。兄様と王女殿下を婚約させないでください! 兄様には、好きな人がいるんです……!」





「テオドール兄様には、リリアという恋人がいるんです。リリアは子爵家の令嬢で、身分的に釣り合わないと父様は反対していて婚約はしていませんでした。でも、二人は本当に仲がよくて……、それなのに、急にヴィクトリア王女と婚約だなんて。父様の決めたことなので、兄様は仕方ないと言って諦めてしまっていて、リリアと別れてしまったんです。でも、兄様、淋しそうで……」

 話しているうちに感極まってきたのか、ブライアンの紫色の瞳が潤みだす。
 テオドールは父である公爵にヴィクトリアとの婚約のためリリアと別れるように言われて、これもリアクール公爵家の嫡子の務めだと諦めてしまったらしい。
 貴族の結婚とは往々にして本人たちの希望通りにはいかないものであるが、心配するブライアンに無理をして微笑むテオドールに、いてもたってもいられなくなったそうだ。
 けれども、ブライアンがいくら父に言ったところで聞く耳は持ってもらえず、婚約の話は今にもまとまりそうな状況になってきている。考えたブライアンは、一番話を聞いてもらえそうな人――すなわち、アレックスに頼ることにした。

「今まで、数々の婚約者候補の方たちを蹴散らしてこられた殿下なら、きっといい方法をご存知かと思いまして!」

 ブライアンはまるで武勇伝のように語るが、「蹴散らした」というか失礼な態度と言動で追い払ったという方が正しい。

(参考にならないと思うんだけど……)

 シャーロットは思ったが、アレックスがしかし最後の綱とばかりに頼ってきたブライアンには言えない。
 どうするのだろうとアレックスを見ると、彼は少し考えたあとで、あっさり頷いてしまった。

「わかった、俺が何とかしてやる」

 まあ、このままテオドールとヴィクトリアが婚約を結べば、王位継承権をめぐってアックスと対立することになる。それは避けたいのはシャーロットももちろん同じだが。

(そんな安請け合いしていいの?)

 扱いに困っているから国王も保留で逃げ続けている案件なのに、本当に大丈夫なのだろうかとシャーロットは心配になった。
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