上 下
21 / 40

エマの過去 4

しおりを挟む
「そのあと、ぼんやりしていたら、叔父様……お父様の弟が来て、火事になったのはお前のせいだって言われたの。そして、ブラットフォード伯爵家から出て行けって。……だからわたしは、旅に出たの。ロイを探す旅に」

 ロイが今どこにいるのかはわからない。
 でも、探して、許してくれるかどうかはわからないけれど謝りたかった。
 大切な大切な友達だから。

 ――なんだか怖い顔をしてぶつぶつと独り言を言いながらどこかへ飛んでいったわ。

 ふと、ここに来る前に妖精に教えられたことを思い出して、エマはきゅっと唇をかむ。
 もしロイがボギーになっていたら。
 エマのせいで、ボギーになってしまっていたら。

(早く見つけて、元に戻してあげないと……)

 優しくて甘えん坊な、大好きなロイ。
 謝って、抱きしめて、たとえ許してくれなくてもエマはロイに会いたい。
 エマはゆっくりと空を見上げる。
 夜の空に、キラキラと星が瞬いていた。

「がんばったね」

 黙って話を聞いていたユーインが、ポツリと言う。
 エマは空を見上げてまま、小さく笑った。

「がんばってないわ。わたしは、許されないことをしたの。それなのにロイを探して謝って、そうすれば許してくれるんじゃないかって……心の底でそんな期待している、浅はかな人間よ。わたしはね、最低なの」

 ああ……星がかすむ。

 どうしてだろう、あんなに綺麗だった星が、今はぼやけて見えるのは。

 どんどんぼやけていく星を見上げ続けていると、ユーインが手を伸ばして頭を撫でてくれる。

 思えば、妖精が見えると言って、真面目に受け止めてくれたのは彼がはじめてだ。
 両親にも言ったことはあるが、ただの冗談だと面白がられた。
 真面目に、本気で聞いてくれたのは、この十六年間の人生の中で、ユーインだけ。

「そんなことはない。君はがんばった。ちゃんと前を向いて、謝ろうと決めてがんばっているんだ。俺はすごいと思うよ」

 ゆっくりとあやすように頭を撫でてくれるユーインの手が、心地いい。

「だから、泣いていいんだ」
「――っ」

 その言葉で、エマはようやく自分が泣いていたことに気がついた。
 あわてて涙を拭おうとしたエマの腕を、ユーインが優しくとらえる。
 そのまま、ふわりと抱きしめられた。

「泣きたいときは泣くべきだ。君は一人で……ああ、妖精がいるから一人ではないかもしれないけど、でも、頑張りすぎた。たまには誰かを頼って、泣いて、喚いて、心の奥にたまった重たいものを発散させてリセットしないと、いつか壊れてしまう。人間はね、そんなに強くできていないんだ」

 だから、つらいときには泣かないと――、ささやくユーインの声はどこまでも優しかったから、エマの目からどんどん涙が零れ落ちていく。

 おずおずとユーインの背中に腕を回して、エマは泣いた。
 声を上げて。

 泣きじゃくった。


しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

【本編完結】元皇女なのはヒミツです!

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,291

【完結】君こそが僕の花 ーー ある騎士の恋

恋愛 / 完結 24h.ポイント:1,256pt お気に入り:2,458

クロード、思わせぶりはやめてください!

BL / 連載中 24h.ポイント:85pt お気に入り:7

美容講座は呑みながら

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:198pt お気に入り:20

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:6,378pt お気に入り:1,618

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:589pt お気に入り:150

【完結】離婚の危機!?ある日、妻が実家に帰ってしまった!!

ライト文芸 / 完結 24h.ポイント:2,584pt お気に入り:205

異世界転生したけどチートもないし、マイペースに生きていこうと思います。

児童書・童話 / 連載中 24h.ポイント:10,479pt お気に入り:1,088

処理中です...