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逆転のフーガ 3
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(殿下がおかしいわ……)
誕生日パーティーの日から三日。
エイミーはついにその結論にたどり着いた。
この三日混乱しすぎて冷静に物事を判断できなかったが、ようやく理解できた。――ライオネルが、おかしい。
だってこの三日、毎日お昼にはエイミーの教室にやって来て、エイミーを問答無用でカフェテリアに連行していくのだ。
これにはシンシアも目を丸くして「殿下ってばどうしちゃったのかしら?」と言っている。
だが、「どうしちゃったのかしら」と一番言いたいのはエイミーの方だった。
あれほどエイミーから逃げ回っていたライオネルが、自分からエイミーに近づいてくるのだ。
(とにかくよくわからないけど、このままだとよくない気がするわ)
エイミーはライオネルに別れを告げたはずだ。
それなのにいまだに婚約解消の書類について何も言ってこないし、誕生日パーティーの日の話そのものがなかったかのようにふるまわれている。
あんなにあんなに、勇気を振り絞って、ずきずきと痛い胸を抑えて別れを告げたのに、いったいこれはどういうことだろう。
(よくわかんないけどとにかく殿下を遠ざけないと)
このまま別れ話がうやむやにされては困る。
昨日もエイミーの頭上から分厚い本が何冊も降ってきたのだ。
頭にぶつかる前に気づいてよけたから怪我はなかったが、エイミーを狙った一連のこの嫌がらせが、いつライオネルを巻き込むかと思うと気が気ではなかった。
(シンシアの言う通り、殿下に何かあったら大変なのよ。だから早く、殿下との婚約を解消しないと……)
それから、何故かエイミーに付きまとうライオネルを撒かなくては。
四限目の授業が終わりに差し掛かると、エイミーはじっと教室の時計を見つめた。
(あと十秒、九、八……)
秒針が授業の終わりを指すのを、息をひそめて見つめる。
そして、カーンと授業の終わりの鐘が鳴り響いた瞬間、エイミーはカバンを掴んで教室を飛び出した。
教師と、それからクラスメイト達が、猛然と教室を飛び出して行ったエイミーを驚いて振り返ったが、そんなことには構っていられない。
ライオネルが教室にやってくる前に逃げ出すことに成功すると、エイミーはそのまま屋上までの階段を一気に駆け上がった。
「はー、はー、はっ……これだけ急げば、さすがに殿下には気づかれてないわよね」
ぜーぜーと肩で息をしつつ、エイミーは額の汗を拭う。
屋上のベンチに腰掛けて空を見上げると、空は朝よりも重たい雲が覆っていた。
「雨降りそう。早く食べないと」
エイミーは急いでカバンからお弁要箱を取り出す。
そして無心でお弁当の中身を胃に押し込んで、いつもよりの半分の速度でお弁当を平らげたとき、ぽつんと頬に冷たいものが当たった。
雨が降りはじめたのだ。
エイミーは慌てて屋上から出ると、階段の一番上の段に腰を掛ける。
昼休みが終わるまでここで過ごしていれば、ライオネルも気づかないだろう。
(……でも雨か。殿下、頭が痛くなっていないかしら?)
気圧の影響を受けやすいライオネルは、天気が崩れた日には頭痛を覚えることが多い。
エイミーは膝を抱えると、「殿下、大丈夫かしら……」と小さな声でつぶやいた。
誕生日パーティーの日から三日。
エイミーはついにその結論にたどり着いた。
この三日混乱しすぎて冷静に物事を判断できなかったが、ようやく理解できた。――ライオネルが、おかしい。
だってこの三日、毎日お昼にはエイミーの教室にやって来て、エイミーを問答無用でカフェテリアに連行していくのだ。
これにはシンシアも目を丸くして「殿下ってばどうしちゃったのかしら?」と言っている。
だが、「どうしちゃったのかしら」と一番言いたいのはエイミーの方だった。
あれほどエイミーから逃げ回っていたライオネルが、自分からエイミーに近づいてくるのだ。
(とにかくよくわからないけど、このままだとよくない気がするわ)
エイミーはライオネルに別れを告げたはずだ。
それなのにいまだに婚約解消の書類について何も言ってこないし、誕生日パーティーの日の話そのものがなかったかのようにふるまわれている。
あんなにあんなに、勇気を振り絞って、ずきずきと痛い胸を抑えて別れを告げたのに、いったいこれはどういうことだろう。
(よくわかんないけどとにかく殿下を遠ざけないと)
このまま別れ話がうやむやにされては困る。
昨日もエイミーの頭上から分厚い本が何冊も降ってきたのだ。
頭にぶつかる前に気づいてよけたから怪我はなかったが、エイミーを狙った一連のこの嫌がらせが、いつライオネルを巻き込むかと思うと気が気ではなかった。
(シンシアの言う通り、殿下に何かあったら大変なのよ。だから早く、殿下との婚約を解消しないと……)
それから、何故かエイミーに付きまとうライオネルを撒かなくては。
四限目の授業が終わりに差し掛かると、エイミーはじっと教室の時計を見つめた。
(あと十秒、九、八……)
秒針が授業の終わりを指すのを、息をひそめて見つめる。
そして、カーンと授業の終わりの鐘が鳴り響いた瞬間、エイミーはカバンを掴んで教室を飛び出した。
教師と、それからクラスメイト達が、猛然と教室を飛び出して行ったエイミーを驚いて振り返ったが、そんなことには構っていられない。
ライオネルが教室にやってくる前に逃げ出すことに成功すると、エイミーはそのまま屋上までの階段を一気に駆け上がった。
「はー、はー、はっ……これだけ急げば、さすがに殿下には気づかれてないわよね」
ぜーぜーと肩で息をしつつ、エイミーは額の汗を拭う。
屋上のベンチに腰掛けて空を見上げると、空は朝よりも重たい雲が覆っていた。
「雨降りそう。早く食べないと」
エイミーは急いでカバンからお弁要箱を取り出す。
そして無心でお弁当の中身を胃に押し込んで、いつもよりの半分の速度でお弁当を平らげたとき、ぽつんと頬に冷たいものが当たった。
雨が降りはじめたのだ。
エイミーは慌てて屋上から出ると、階段の一番上の段に腰を掛ける。
昼休みが終わるまでここで過ごしていれば、ライオネルも気づかないだろう。
(……でも雨か。殿下、頭が痛くなっていないかしら?)
気圧の影響を受けやすいライオネルは、天気が崩れた日には頭痛を覚えることが多い。
エイミーは膝を抱えると、「殿下、大丈夫かしら……」と小さな声でつぶやいた。
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