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モモンガの欠席 2
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「殿下、今日は天気が悪いですけど大丈夫ですか?」
エイミーがそう言いながらやって来たのは、四限目の授業が終わった直後のことだった。
昼休みで教室を出ていく人が目立つ中やってきたエイミーは、開口一番にそう訊ねてきた。
「薬を飲んだから大丈夫だ」
「そうですか、よかったです。二限目と三限目は欠席していたみたいだったので心配したんですよ」
「待てなんでお前が知っている」
「殿下のクラスの人が教えてくれました」
エイミーは胸を張って答えた。
朝から天気が悪かったので、エイミーはずっとライオネルのことが気になっていたのだ。
ライオネルは気圧の影響を受けやすい体質で、天気の悪い日に頭痛を覚えることが多い。特に今日はエイミーも軽い頭痛を覚えるくらいに気圧が低かったので、きっと具合が悪くなっているだろうと思っていた。
だから休憩時間に様子を見に行くようにしていたのだが、一限目が終わったあとにふらりといなくなったライオネルは、そのまま二限目も三限目も戻って来なかったと彼のクラスメイトが教えてくれたのだ。
(きっと頭が痛くてどこかで休んでいたのね)
体調が悪い日に付きまとうとライオネルが困るだろうと思って、医務室のウォルターに様子を聞きに行くのも我慢していたのだ。もしライオネルが寝ていたら邪魔になるかと思って。
「殿下、ご飯を食べに行きませんか」
「断る」
「わたしも今日は食堂なんです」
「だから断る」
「さ、行きましょう」
「………モモンガめ」
「わたしは人間ですよ?」
ライオネルの手を取って歩き出すと、彼はため息を吐いた。だが、手を振りほどこうとはしない。どちらにせよ昼食を食べに食堂に行くからだろう。
「今日はモリーン伯爵令嬢と一緒じゃないのか?」
「シンシアは今日お休みなんです。風邪を引いてしまったんですって。季節の変わり目って寒暖差があるからか体調を崩しやすいですよね。あ、殿下、もしわたしが風邪を引いたらお見舞いに来てくださいね!」
「絶対に嫌だ」
「殿下が風邪を引いてもちゃんとお見舞いに行きますからね」
「来るな」
「クッキー焼いていきますからね」
「人の話を聞け!」
「えへへ~」
ライオネルはぷんぷんと怒り出したが、エイミーはへらへらと笑った。体調を心配していたが、ライオネルが元気そうで嬉しい。
食堂を兼任しているカフェテリアに行けば、すでに大勢の生徒でごった返していた。
しかし、このカフェテリアはとても広いので、座る場所がなくて困ることはほとんどない。
隅の方の開いている席を見つけると、エイミーはライオネルとともにそちらへ向かった。
「殿下は座っていてください。お食事を持ってきます。日替わりランチでいいですか?」
「お前のそのちっこい手で二つも持てるわけないだろう。俺も行く」
「ダメです。殿下はそこで席を取っていてくれないと。大丈夫ですよ、ちゃんと一つずつ持ってきますから」
「だが――」
「じゃあちょっとだけ待っていてくださいね~」
「おい!」
エイミーはライオネルを席に残して、ぱたぱたと食事を取りに行く。
ライオネルにいった通りに、一つずつ席に運ぶと、彼の対面に腰を下ろした。
(えへへ、殿下と初ランチデート!)
入学してから、エイミーは一度もライオネルとランチを一緒に取ったことがない。誘いに行ってもいつも断られるからだ。だが、今日はお弁当がなかったおかげでライオネルを食事に誘うことに成功した。
(お弁当がなかったらいつも一緒に食べてくれるかしら? ……無理ね、たぶん)
今日はたまたまだろう。ライオネルの体調が優れないから、エイミーを撒く体力がなかっただけに決まっている。
綺麗な所作で食事をとるライオネルに認めていると、彼が顔を上げて眉を寄せた。
「お前は毎日毎日オレを追いかけまわして飽きないのか」
「はい!」
「即答するな!」
そうは言うが、考える必要のない問いだったのだから即答するのは当然だ。エイミーはできれば四六時中べったりとライオネルに引っ付いていたいのである。これでも我慢している方なのだ。
「殿下殿下、来月はわたしのお誕生日ですよ。覚えてますか?」
「毎年あれだけしつこくされれば嫌でも覚える」
「殿下大好き‼」
誕生日を覚えていてもらえて、エイミーがぱあっと顔を輝かせると、ライオネルははーっと長いため息をついて、それから真顔になった。
「お前は一体何度同じことを言わせればわかるんだ」
ライオネルの綺麗な紫色の瞳が、まっすぐにエイミーの目を射抜く。
「俺はお前が嫌いだ」
エイミーは大きく目を見開いた。
エイミーがそう言いながらやって来たのは、四限目の授業が終わった直後のことだった。
昼休みで教室を出ていく人が目立つ中やってきたエイミーは、開口一番にそう訊ねてきた。
「薬を飲んだから大丈夫だ」
「そうですか、よかったです。二限目と三限目は欠席していたみたいだったので心配したんですよ」
「待てなんでお前が知っている」
「殿下のクラスの人が教えてくれました」
エイミーは胸を張って答えた。
朝から天気が悪かったので、エイミーはずっとライオネルのことが気になっていたのだ。
ライオネルは気圧の影響を受けやすい体質で、天気の悪い日に頭痛を覚えることが多い。特に今日はエイミーも軽い頭痛を覚えるくらいに気圧が低かったので、きっと具合が悪くなっているだろうと思っていた。
だから休憩時間に様子を見に行くようにしていたのだが、一限目が終わったあとにふらりといなくなったライオネルは、そのまま二限目も三限目も戻って来なかったと彼のクラスメイトが教えてくれたのだ。
(きっと頭が痛くてどこかで休んでいたのね)
体調が悪い日に付きまとうとライオネルが困るだろうと思って、医務室のウォルターに様子を聞きに行くのも我慢していたのだ。もしライオネルが寝ていたら邪魔になるかと思って。
「殿下、ご飯を食べに行きませんか」
「断る」
「わたしも今日は食堂なんです」
「だから断る」
「さ、行きましょう」
「………モモンガめ」
「わたしは人間ですよ?」
ライオネルの手を取って歩き出すと、彼はため息を吐いた。だが、手を振りほどこうとはしない。どちらにせよ昼食を食べに食堂に行くからだろう。
「今日はモリーン伯爵令嬢と一緒じゃないのか?」
「シンシアは今日お休みなんです。風邪を引いてしまったんですって。季節の変わり目って寒暖差があるからか体調を崩しやすいですよね。あ、殿下、もしわたしが風邪を引いたらお見舞いに来てくださいね!」
「絶対に嫌だ」
「殿下が風邪を引いてもちゃんとお見舞いに行きますからね」
「来るな」
「クッキー焼いていきますからね」
「人の話を聞け!」
「えへへ~」
ライオネルはぷんぷんと怒り出したが、エイミーはへらへらと笑った。体調を心配していたが、ライオネルが元気そうで嬉しい。
食堂を兼任しているカフェテリアに行けば、すでに大勢の生徒でごった返していた。
しかし、このカフェテリアはとても広いので、座る場所がなくて困ることはほとんどない。
隅の方の開いている席を見つけると、エイミーはライオネルとともにそちらへ向かった。
「殿下は座っていてください。お食事を持ってきます。日替わりランチでいいですか?」
「お前のそのちっこい手で二つも持てるわけないだろう。俺も行く」
「ダメです。殿下はそこで席を取っていてくれないと。大丈夫ですよ、ちゃんと一つずつ持ってきますから」
「だが――」
「じゃあちょっとだけ待っていてくださいね~」
「おい!」
エイミーはライオネルを席に残して、ぱたぱたと食事を取りに行く。
ライオネルにいった通りに、一つずつ席に運ぶと、彼の対面に腰を下ろした。
(えへへ、殿下と初ランチデート!)
入学してから、エイミーは一度もライオネルとランチを一緒に取ったことがない。誘いに行ってもいつも断られるからだ。だが、今日はお弁当がなかったおかげでライオネルを食事に誘うことに成功した。
(お弁当がなかったらいつも一緒に食べてくれるかしら? ……無理ね、たぶん)
今日はたまたまだろう。ライオネルの体調が優れないから、エイミーを撒く体力がなかっただけに決まっている。
綺麗な所作で食事をとるライオネルに認めていると、彼が顔を上げて眉を寄せた。
「お前は毎日毎日オレを追いかけまわして飽きないのか」
「はい!」
「即答するな!」
そうは言うが、考える必要のない問いだったのだから即答するのは当然だ。エイミーはできれば四六時中べったりとライオネルに引っ付いていたいのである。これでも我慢している方なのだ。
「殿下殿下、来月はわたしのお誕生日ですよ。覚えてますか?」
「毎年あれだけしつこくされれば嫌でも覚える」
「殿下大好き‼」
誕生日を覚えていてもらえて、エイミーがぱあっと顔を輝かせると、ライオネルははーっと長いため息をついて、それから真顔になった。
「お前は一体何度同じことを言わせればわかるんだ」
ライオネルの綺麗な紫色の瞳が、まっすぐにエイミーの目を射抜く。
「俺はお前が嫌いだ」
エイミーは大きく目を見開いた。
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