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野心と陰謀と

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 次の日イリアは、王太子妃ミルフィアにお茶会に誘われた。

 クラヴィスは快く「いっておいで」と送り出してくれた。相手が男ではないので、彼の嫉妬の炎は燃え上がらないらしい。ただし、「早く帰ってくるんだよ」とは念を押された。

 イリアは白狐ポチを抱えて、カーミラに案内されて王太子妃の部屋に向かった。

 ミルフィアの部屋は、白と薄いグリーンで品よくまとめられた部屋だった。

 イリアが訪れると、ミルフィアは立ち上がって彼女を出迎えた。

「ごめんなさいね、急に呼び出してしまって」

 イリアは微笑んで首を振った。

「あなたが明日お帰りになると聞いて、それまでに一度お話ししてみたかったの」

 ミルフィアは品のいい微笑みを浮かべて、イリアをソファに案内した。

 ミルフィアは物静かな女性だったが、話しやすい人だった。彼女はシェロン国のことを聞きたがり、また、イリアにフェルナーン国のことを教えてくれた。

 イリアはミルフィアと他愛ない時間をすごし、彼女は「機会があったらまたこの国に来てほしいわ」と言った。彼女は王太子妃として城に入れられ、心を開ける人が少ないらしかった。あなたがいてくれれば心強いのに、とつぶやく彼女は、どうやらイリアのことを気に入ったらしかった。

 そしてミルフィアは、イリアの去り際に、声を落としてこんなことを言った。

「こんな事を言うと、不思議に思われるかもしれないけれど……、ウィルフレド王太子殿下にはお気をつけて。あの方は冷たくて―――そして、とても淋しい方だわ」

 イリアはウィルフレドの顔を思い出して、一つ頷いた。イリアにとって彼は、できるだけ関わらないでいたい相手だった。

 ミルフィアはホッとしたような笑みを浮かべて、「またね」とイリアを見送った。
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