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野心と陰謀と
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しおりを挟むその夜は、フェルナーン国王によって、クラヴィスとイリアをもてなすためのパーティーが開かれた。
イリアはあまり襟ぐりの開いていない、つつましやかな、けれども華やかさのある緋色のドレスを選んだ。クラヴィスの悪戯によってつけられるキスの痕は、この旅行中は自制してくれているようですっかり消えたが、襟ぐりの開いたドレスでは、首飾りが見えてしまうのだ。
アマルベルダの首飾りに対抗心を燃やすクラヴィスを刺激しないためにも、首飾りは隠しておくのがいい。
イリアは鮮やかな金髪を一つにまとめると、真珠の髪飾りをつけた。そして迎えに来たクラヴィスの手を取って、城のパーティー会場へ向かった。
「とてもかわいいよ、僕の天使」
イリアは照れて俯いた。
「あ、ありがとう。あなたもとっても素敵よ」
「君の隣に立っても霞まないようにがんばったんだ。そう言ってもらえてうれしいよ」
もちろんそれはお世辞だろうが、クラヴィスにうっとりとささやかれれば、イリアの顔が熱くなる。
イリアの恥じらう顔が大好物のクラヴィスが、わざとイリアを照れさせていることは、鈍い彼女は気づいていなかった。
イリアたちは紹介を受けて会場に入ると、王太子ウィルフレド夫妻とともにファーストダンスを踊った。
そのあとクラヴィスとイリアは、ウィルフレドに連れられて、上座の方へと移動した。上座には国王と王妃、それから第三王子アルベールの姿があった。
国王はイリアたちのダンスを褒めてくれて、お前もたまには踊って来いと三男に向けて声をかけたが、アルベールは肩をすくめて「また今度」とかわしていた。
「ワインでいいですか?」
アルベールが気を利かせてアルコールを勧めてくれた。クラヴィスはそれを受け取ったが、あまり酒に強くないイリアは、ノンアルコールのカクテルを頼んだ。
そしてイリアは、何気なく上座の中を見渡して、小さな疑問を持った。
アルベールの母であるフェルナーン国王の妾妃の姿が見えないのはまだわかるが、王太子と第三王子がいるのに、その間の第二王子がいないのはどうしてだろう。
「あの、第二王子殿下はいらっしゃらないんですか?」
イリアは何げなく、隣に座るアルベールに問いかけた。
するとアルベールは、一瞬表情を凍りつかせ、それから困ったような表情を浮かべた。
「ええ。……兄上、今、この国にはいませんから……」
アルベールのその声は、どこか淋しそうに聞こえた。
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